23歩目「敵は近くに」
先頭に立たされるであろう木乃美の表情はマルスにも読めない。
相変わらず何も考えていない様にも、あるいは今後を憂いているようにも見える。
ただこの子は相変わらず口には出さない。
「嫌なら俺が前に」
「……大丈夫、私たちならできるから」
声をかけてきたマルスに木乃美はぎこちなく微笑んだ。
マルスたちにぎこちない空気が流れている中、アルトは荷物から一枚の紙を取り出した。
「さらに良いことがあったのを忘れていたよ。ここから徒歩一アワ(一時間)ほど行った場所で敵が陣を強いて待ち伏せしているらしい。これが偵察の機械が仕入れてきた情報だそうだ、楽しそうだぞ」
「お前の楽しそうは絶対面倒な事態だな」
帝国は機械技術が発達しているだけあって、戦闘サポート用機械なども充実している。
捨て駒同然の傭兵中心舞台には最新設備はないが、旧型のカメラ付き偵察機や本国との通信装置、移動式印刷機などを取りそろえている。
機械印刷技術もあるため、こうして末端の分隊にまで情報書類を回すことができるらしい。
勿論武器もあるのだが、ここにあるのは旧型のライフルや拳銃くらいらしい。
砂漠で見たような機械化兵器はないようだ。
きっとそのあたりの兵器は本体にがっつりと集められているのだろう。
その素晴らしい帝国の印刷技術によると、カメラから判明した敵の布陣が事細かに書き記されていた。
動く死体と思しき影が約一万、動く骨兵が約5千、さらに大型の生き物のゾンビや肉塊の塊のようなものと豪華な布陣のようだ。
数だけでもこちらの五倍以上、さらに大型生物となればそれだけ戦闘力も高いだろう。
幸いなのは敵最高戦力である上位不死者、吸血鬼や竜のゾンビや、数少ない生者の兵がいないことだろう。
敵の主戦力ではないが、こちらを舐めた戦力ではない。
傭兵の質次第では数分経たずに全滅する恐れすらある。
情報を読み上げるだけでアルト以外はすっかりお通夜ムードだ。
「……これに対して、こちらの戦法はっと」
雰囲気を変える為あえて明るい声を出してこちらの作戦を読もうとしたマルスが固まる。
こちらの作戦は次のようになっていた。
一、第一中隊はその全力を持って、気合で敵の前衛および主力を撃退、最低でも押しとどめよ。
撤退は認めない。
死ぬ気で戦えば数の差はあれど必ず押し返せる。
二、第二中隊は臨機応変に行動する。
三、第三中隊は後方から効果的な援護をせよ。
以上。
「馬鹿か! 具体的な戦術や戦略はまるでなしだと!? 挙句の果てに根性論? 根性で敵に勝てるなら戦術も戦略も武器もいらんわ!」
器用に小声で怒鳴るマルスに、分隊の半分がしみじみと頷いた。
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明日明後日あたり戦闘する……かも?




