20歩目「スパイ疑惑」
平時であれば木乃美の新しい人格、灰の能力も認められる可能性があったであろう。
少なくとも帝国国内にいる間ではあるが。
ところが今は平時ではなく戦時だ。
ラドリオたちは傭兵として戦争に参加しているのであり、不死者は敵国の存在である。
そんな敵国の存在である不死者が味方に居たとして、彼らはそれを信用するだろうか?
まず信用しないだろう、少なくともラドリオは信用しようとは思わない。
それは幾ら敵を薙ぎ払おうとも、どれだけ戦いに貢献しようともだ。
正規軍なら話は違ったかもしれないが、この集団は傭兵の集合体だ。
傭兵は信用が第一である。
そして傭兵は裏切られることも警戒しなければならない。
口には出さないが、帝国としては傭兵の数が減ってくれた方が有り難いのだ。
傭兵が帰ってくればそれだけ給金を払わなければならない、活躍していればさらに特別報奨も必要だ。
彼らが三部隊の中で一番突出しているのも、それが理由だ。
敵からも狙われ、味方からも狙われているかもしれない。
そんな中で現れた不死者の味方など誰が信用するというのだろうか?
「七割がた敵のスパイ、三割がた味方の刺客だと思うだろうな」
「できれば隠しきりたいところだが」
「……もう出ちゃったものね」
灰が外に出る前だったら幾らでも対策を取れた。
例えば木乃美ではなく最初から赤辺りで行動するとかだ。
だが彼女が解放されたのは前回の奇襲の時、不死者に襲われる恐怖からだ。
「そういえば木乃美、そいつはどうして出てくる?」
「……怖いものが苦手だからかな」
マルスの問いに木乃美が答える。
「ん? 矛盾しないか? 怖いものが苦手なのに怖いものの前に出てくるのか?」
「怖いものを排除するために出てくるの」
「じゃあどっちにしろ不死者に襲われれば出てくるってことなのか」
ラドリオが頭を抱える。
つまり対策をとった所で不死者に襲われれば彼女は出てくるということだ。
重ねて言うが今戦っているのは不死者の国。
戦う相手はほぼ確実に不死者だ。
つまり戦うたびに彼女が出てくるのである。
「単独行動なら、敵を避けて進むっていう方法もあるんだが、今は団体行動だからなぁ。対処方法が敵さんが出てこないことを祈るだけ……しかも戦争中だから確実に出てくる。こりゃ詰んだな」
「……こうなったら出来るだけ戦果を挙げるしかない。怪しさ満点だがいないと困るくらいの存在になれば他の連中を抑えきれるかもしれない」
「元々それが目的だったよね」
これからの大変な戦いに、三人は深いため息をついた。
いつもお読みいただきありがとうございます。




