14歩目「蹂躙」
それが腕を振り回すたびに、面白いように動く死体が吹き飛んでいく。
本当に振り回しているだけなのに、吹き飛ばされていくのは動く死体だけだ。
その巨大な腕が私たちを器用に避けて敵を吹き飛ばしている訳ではない。
本当に大雑把に、まるで子供が不必要な玩具をテーブルから叩き落すように、無造作に振り回されているだけだ。
腕が私たちを通り抜けていくたびに、悪寒が全身を走り抜ける。
それに触られること自体の恐怖と、何時自分たちが同じように吹き飛ばされるかという恐怖で、私とピアはその場から動けなくなっていた。
私たちだけではない、周囲にいた傭兵たちも殆ど同じようにへたり込んで動けなくなっている。
立っているのは
「はっはっは、こりゃ凄いな。動く死体どもがまるで赤子のようだ」
何が楽しいのか大笑いをしているアルトと
「こりゃまた……厄介そうなやつが出て来たな」
銃を仕舞い馬の傍に寄り添って苦笑いをしているチャラ男、ラドリオだけだ。
気が付くと周囲に動く死体はいなくなっていた。
周囲に散らばっているのはゾンビだった肉塊だけだ。
「終わったの?」
「分からないわ」
周囲の視線がそれに集まる。
巨大な腕はしばらく何かを探すような仕草をした後、唐突に私たちの横を通り過ぎて後ろの林の中に突き刺さった。
今まで気づかなかったが、それは、その巨大な腕は明らかに伸びている。
私はてっきり少女が動き回って腕の射程に動く死体を捕らえているとばかり思っていたのに、少女は一歩も動かず腕を伸ばして動く死体を蹂躙したようだ。
つきこまれた腕が引き戻されると、腕の先に何かがつかまれている。
「バカナ、ジッタイノナイオレヲ、ツカンデイルダト!?」
聞き取りずらい声を発しているそれは幽霊だ。
あやふやな存在ではなく不死者種族の一種で、物理攻撃の通じない厄介な相手だ。
そして見るからにそいつはその中でも大物、恐らく悪霊の上位種か何か。
生半可な魔法は無効化してしまうことさら厄介な存在で、高位の神官か特殊な英雄でないと相手に出来ない存在、それをその腕はたやすくつかみそして……
「ギギギ……ヤメ……ハナ……グア」
実にあっさりと握りつぶした。
まるで柔らかい果物を握りつぶすようなあっけなさ。
それだけでそれが……それを扱う少女が異様な存在であることが窺える。
「……まさか、こんなのが出てくるとはな」
恐らく独り言であったのだろうマルスの呟きが私の耳に届いた。
出てきた?
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