5歩目「酔っぱらいに絡まれる町娘役」
『Side マルス』
マルスの生まれた地方は比較的温暖な、いやむしろ熱帯に近い気候をしていた。
マルスにとって寒いと言えば、避暑地の高原の夜、あるいは雨でずぶ濡れになった後拭かずに風に当たった時くらいにしか感じたことがない。
実はやせ我慢をしていただけで会って聖都の夜の時点で十分に寒かった。
ところが次に向かうのは北で本や話でしか知らない雪の積もる地域を行くのだという。
初めは雪に期待して年相応に? ワクワクしていたのだが身も凍るような寒さを初めて経験しすっかり期待などどこかに吹っ飛んでしまった。
それだけでもイライラするのに、隣の木乃美はケロッとした顔をしている、ようにマルスには見えた。
さらに木乃美はどことなく温かいのだ。
寒さへの苛立ち、木乃美が寒そうではないことの苛立ち、更に寒くて子供のように木乃美にくっ付いていないといけない気持ち、そして何よりそれが嫌ではないと思っている自分の気持ちに戸惑い、イライラはかなりの高みに至っていた。
そこにテンプレを顔と態度と風体に張り付けた馬鹿が話しかけてきたのである。
マルスの強靭とは言えない堪忍袋の緒がぷっちんするのも仕方のない事であった。
「なんだとこら!」
男が拳を振り上げるがその動きはマルスの目から見ても緩慢だ。
体の軸もぶれていて重心もフラフラしている。
元々普通の子供以上に鍛えられているマルス、それに加えて木乃美の戦いを見てきたその目はその速さと強さを刻み込んでいる。
これなら木乃美が出るまでもない、軸足を払いどこか急所に一発加えてやれば大人しくなるだろう。
そう思って一歩踏み出そうとした時だ。
「おっと、子供に手を上げるのは良くないな」
「がっ何しやがる」
予期せぬ第三者がおっさんの腕を瞬時にねじり上げる。
素早く無駄のない動き、それでいて関節をしっかりと極めているのでおっさんは身動きがとれないようだ。
「大丈夫だったかアンタら、商人にしろ傭兵にしろ、同じ目的を持って集まったんだ絡むのはやめにしようや」
「お、おう」
第三者の威圧感、いや殺気に気おされたのかおっさんは逃げるようにこの場を後にした。
現れたのは小麦色に焼けた青年だ、美青年ではないが好青年であると言える。
使い込んだ皮鎧に背中に刺した大剣、身のこなし一つを取ってしても歴戦の強者感を漂わせていた。
そう観察しつつもマルスはうんざりだと内心ため息をついた、テンプレートをテンプレートが追い払ったのだ、しかもこっちは殴れば終わりとはいきそうにない。
「あー、危ない所を助けていただきありがとうございました」
「なに、気にするな!」
マルスらしからぬ若干の棒読みの感謝の言葉をきき、青年は朗らかに笑った。
いつもお読みいただきありがとうございます。
一応は戦闘アリです。




