0歩目「プロローグ・マルスの弱点」
本日より新章となります。
『Side マルス』
木を一枚隔てた外では忌々しい白くて冷たい奴らが舞い踊っている。
そう考えただけでマルスは小さく身を震わせた。
木製の馬車の中では火を焚いて暖を取る訳にもいかず、さりとて帝国でもいまだ高級な機械式の携帯暖房器具に手を出せるほどマルスたちの懐事情も暖かくなかった。
体も寒ければ財布も寒い、マルスにとっては経験したこともない極寒空間であった。
毛布を体に巻いてもドンドン体の冷えていくように感じる、温かいスープでもあればマシなのだろうが今の時刻は朝食と昼食の中間ぐらいで、食事の時間とはいいがたい。
必然的、そして最終手段だが背に変えられないため、マルスは手近の人型暖房器具に頼ることにした。
本人に行ったら冷たい目線で抗議されるだろうが、間違いなく温かいのは胸に余分な脂肪を蓄えている彼女の方であるとマルスは思っていた。
「くそ……おいもっとくっつけ」
「え? でも」
「いいから」
困惑した表情の木乃美を半ば無理やりマルスは自分の方へ引き寄せる。
そしてその体に体をうずめたまま動かなかくなった。
顔まで埋めてしまえば、それでやっとどうにか我慢できる程度の寒さに落ち着いた。
もっとも幼子が母親に抱き着いているようで心情的には屈辱的ではあったが。
思わぬ状況に馬車の中の木乃美は固まり、さらにはラドリオも中を覗いたまま困惑した表情を浮かべる。
「なあおい」
「うるさい、しゃべるな! あとそこ閉めろ寒い」
「……こんな弱点があったとはなぁ」
ラドリオは苦笑いをしながら御者台へと戻って行った。
本来マルスたちは聖都から南西を目指して進んでいくはずであったが、今は訳あって北上している。
既に緯度で言うならば聖都よりも北になっており、周囲はすっかりと雪景色になっていた。
三人の吐く息は白くなり、風に吹かれないだけマシとはいえ馬車の中もすっかり冷え切っていた。
もちろんこれを見越して三人とも温かいコートを、更にマルスは帽子に手袋にマフラーに耳当ての完全防備であるのだが、それでもまだ寒いとプライドをまげて木乃美にくっ付いているのであった。
「まだ着かないのか?」
「あーあと一日か二日じゃないか?」
「これ以上北に行くと俺は死ぬぞ!」
「大げさな」
「……さっさと終わらせてさっさと帰るぞ」
「そうはいかないでしょう、戦争なんだし」
本来出来るだけ早く西に向かわなければならないはずの三人が、何故北へ向かっているのかは帝国と不死者の国で正式に開戦した戦争のせいであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は戦争編? なので戦闘多めになると良いなぁ




