89歩目「予期せぬ決着」
・・・
お互い何度目かの拳の衝突、骨が砕ける音を聞きながら私は数歩後ずさった。
もうすでに詠唱破棄した回復呪文では体の再生が追い付かなくなってきている。
恐らくだけど血を使い過ぎた。
「いと高き天におわします神々よ、我を癒したまえ」
何度目かの回復呪文、効力が落ちてきているのが自分でもわかる。
はっきりいって限界が近い。
ただしそれは向こうも同じみたい。
さっきまでは負傷した血を舐めとるだけで傷が回復していたけれど、今は懐から怪しく光る瓶を取り出して中身を飲み干している。
それでも傷はいえているけど疲労は消えていないらしく息は荒い。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……んっ……」
お互い疲労の限界はとうに超えている。
周囲の惨状、殆どが砕けた長椅子やボロボロになった壁、見るも無残になった礼は移動を見ればどれだけ長い間殴り合いを続けて来たか分かるってものよね。
お互い荒い息をどうにか整え身構える。
こうして目の前の相手だけに集中しているといるとダンスかあるいは愛し合っているようにすら思えてきた。
ただ違う点があるとするならば、相手の存在をお互い許容できないって所だけど。
「……お前のような存在がぁ!」
「貴女のような存在がぁ!!」
ほぼ同時に駆け出しながら拳を振り上げる。
もうすでに技だとか回避だとかそういう子とは頭にはない。
ただ殴ることだけだ。
「「私を苦しませているんだ!!」」
お互いの拳が激しくぶつかり合う、衝撃で周囲に散乱していた破片が吹き飛ぶのを眼のはしでとらえながらも私はまっすぐ相手の目を見つめていた。
なんて目をしているのよ、まるで泣き出しそうじゃない。
私の拳の先から相手の骨が砕けていくのを感じる。
ついに能力の差が出た感じね、こちらの拳はどうにか無事、ここまま相手を殴り抜けるだろう。
相手の拳が弾き飛ばされ体がこちらぬ向かって泳ぐ。
相手の顔面へ吸い込まれる筈だった拳が相手の頭上で空を切った。
「おりゃあああ!!」
雄たけび、いや雌たけびを上げながらバランスが崩れるのを覚悟の相手の拳が私の脇腹を捕らえる。
「おどりゃあああ!!」
これ以上ダメージを食らうわけには行かない、私はもう片方の拳で相手の顎を叩き上げる。
所謂アッパーカット、相手を吹き飛ばしながら私は距離とる。
相手は頭から綺麗に椅子の残骸へと落下した。
脳みそも揺らしたはずだからしばらくは動けない筈だ。
「がはっ」
呼吸に血が混じる、脇腹が燃える様に傷む肺を持っていかれたのか痛みで呼吸が上手くできない。
回復魔法も遅々として効力を現さない。
「……だけど、これでとどめを刺して終わりよね」
「そうはさせん」
戦いに夢中になり過ぎた、私は後ろから近づいてくるもう一人の陰に近づかなかった。
偽聖女、いえ魂の魔女に夢中になり過ぎていた、もう一人魔王と呼ばれる存在がいたはずなのに。
『魂砕き』
『比肩されざる盾よ』
咄嗟に一番強い防護を張った私に対して少年は小さなハンマーを私に叩きつけてきた。
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