87歩目「偽善者」
『Side 聖女マータ』
相手のパンチを紙一重で交わしながら私は再度手加減なしのパンチを叩き込む。
半ば転がり落ちる様に階段から落ちていく偽聖女を追って私は数段飛ばしで階段を駆け下りていた。
形勢は一進一退だけど基本的に私が有利だった。
もつれ合う様におじ様の部屋から飛び出た後、少し冷静になった私は力任せの攻撃ではなく技を織り交ぜていった。
パワーもスピードもほぼ互角、だけど相手は心得なんか全然ないみたいな動きだった。
完全に素人、私の攻撃は当たるけど相手の攻撃は当たらない。
「ド素人ね」
「……今はまだそうかもしれません!」
そのまま一気に畳みかけようとした所で一発重いカウンターをもらってしまった。
こちらが技を見せれば見せるほど彼女は模倣してくる。
所詮は私のマネだけど、その動きは侮れない。
先ほどの一撃も下手をすればこちらがいい一撃をもらっていた。
「はぁ……終点が礼拝堂か」
「はぁ……はぁ……そのようですね」
どこをどう駆け巡ってきたのかはよく覚えていないけど、気づいたら相手を礼拝堂に蹴り込んでいた。
途中に大勢の人とすれ違った筈だけどそれもよく覚えていないし、周りには誰もいない。
私たちの動きについてこれなかったのか、あるいは危険を察知して避難したのかもしれない。
「……叩きのめす前に聞いてあげる、どうしておじ様を?」
「先ほどももうしわげましたが……それは貴女が一番存じているはずでは?」
相手は獰猛な笑みを浮かべる、白い服を所々が破けて全身に血がにじんで壮絶な見た目になりながらだ。
傷は治せても服は治せない、私も相応にボロボロになっているんだろうね。
「原因を聞いているんじゃないわ……それをして何がしたかったの?」
原因は分かっている、おじ様が私たちを裏切ったからだ。
だけど彼女がそれを制して何がしたかったのかが分からない。
正義のため? 自分の身を守るため? それともお金のため?
「褒められたかったからです」
「はぁ!?」
返ってきたのはまるで幼児のような答え。
「街を救ってくれてありがとうと言ってほしかったからです」
「お礼の言葉が欲しかったって? じゃあそれが無かったらどうしてたの?」
「なにもしません、当然でしょう?」
「つまるところ報酬が無きゃ何もしないってわけ」
私が人のことを言えた義理ではないかもしれないけど、何故かこいつには腹が立った。
礼をもらうことが当然? じゃあお礼なしなら何もしない訳?
誰も救わないわけ? こんな奴が貧民街の聖女?
「ふざけるなよ、偽善者が!」
思わず聖女らしからぬ声で吠えながら私は再度拳を握りしめた。
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