85歩目「聖女の物語3」
少女はますます強く美しくなっていく。
それと同時に一族に頼まれる仕事が少しづつ少なくなってきた。
時の支配者が安寧の時代を築きつつあったのだ。
国内の争い事や不安は減り隣国との関係は良好になりつつある。
一族としての仕事はもうなくなりつつあった。
こうなると段々と、国の暗部を知る彼らを支配者は疎むようになってきた。
もし彼らの存在が政敵や庶民たちに知られるとせっかく作り上げた平和が壊れてしまう。
支配者は彼らを手放す決意をした。
事件が起こったのは少女が十九になるかならないかと言った頃。
最近は任務もめっきり減って、家で本を読んでいることが多くなった彼女だがこの日は久しぶりに遠出する仕事であった。
思いの外仕事が早く片付き、村へと帰ってきた彼女が目撃したのは炎に包まれる故郷の村と多くの死体、そして完全武装で暴れまわる兵士たちであった。
少女や優秀な者たちを各地に分散させ、その隙に本拠地を卑怯な手段で彼らは攻撃したのだ。
少女は吠える。
持てる技全てを持って暴れまわる彼女はまるで炎の中を飛び回る妖精の様に美しく、そして地獄の鬼よりも恐ろしかった。
自身もボロボロになりながらもたった一人ですべての兵を撃退することはできたが、彼女のほかに生存者はいなかった。
任務に出ていたものも騙され、各個撃破され誰一人帰ってこない。
気づけば彼女は国内で村に火を放ち兵を殺した極悪人とされていた。
小さな村にさえ手配書が回り、物を手に入れることもままならない。
気をぬけば賞金目当ての傭兵や血気盛んな兵士たちが追いかけてくる。
心休まらぬ日が続くがそれでも彼女は歩み続けた。
恨みはある、家族や友人の敵を打ちたい気持ちもある。
だがそれは自分たちがやってきたことの結果である。
ならば諦めて、この国の支配者から不要と言われたのならば他の国へ行けばいいと思ったゆえだ。
幸い腕も美貌も忍耐も知識もある。
見知らぬ土地へ行ったとしても十分やっていける、町医者の真似事をしてもいいかもしれない。
そんな思いだけが彼女を支えていた。
そんな彼女を待っていたのは国境を越えた先で待ち構えていた隣の国の兵だった。
「お前の人相書きは世界にばら撒かれている、どこにも逃げ場はないぞ悪魔め!」
少女は初めて泣いた、泣きながら目の前の敵をなぎ倒した。
彼女がその実力を神々に見込まれてこの世界に落とされたのは、それからしばらくたった後の話である。
帝国がまだ別の名前を持っていたころだ。
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