80歩目「領主の思い」
・・・
領主の部屋をドアを開け放つと、窓の外を見ていた壮年の男性がゆっくりと振り向いた。
「……そろそろ来る頃だと思っていたよ……あの子じゃないのは予想外だが」
「やはり、知っていたか」
「わずかに何かが崩れるような音がしていたからね、伝声管のある部分は把握しているから軽く見て回ったらすぐわかったよ」
苦笑しながらも彼はゆっくりとマルスと木乃美の顔見定め、何かに気づいたように目を見開いた。
「なるほど、魔王と魂の魔女の登場とは……これは予想外だった」
「知っているんですか?」
「これでもこの地域を収める長だからな、すべての書類に一通り目は通しているし、気になったものはちゃんと保管してある」
彼が指さす先には二人の簡単な似顔絵と王国からの協力を求める手紙が壁に貼り付けてあった。
「それで用事は何かな? 断罪か? それとも勧誘かな?」
「どちらでもいいです、貴方を止めに来ました」
「これまでと同じように?」
木乃美があからさまに驚いたような顔をしたのでマルスは軽く小突いて下がらせる。
やはり元王ともなればかなりの食わせ物らしい。
「どっちでもいい、俺たちはご存知の通り逃亡者だからな。行く先で病や戦いが起きるようなことはやめろと言いに来たんだ」
「……そのために態々不死者を駆逐したと? 魔王様はずいぶんとお人よしのようだ」
マルスと領主の間にバチバチと見えない火花が散る。
「あの……なんでこんなことを? 貴方は……こんなにも慕われているのに」
木乃美が先ほど自分たちの似顔絵が貼ってあった掲示板を見る、そこには重要な書類以外にも感謝の手紙やら小物などが山のように張り付けられていた。
「慕われている!? どこがだ!」
木乃美のセリフがどこな心の琴線にふれたのか、領主は目の前の机の上にあったものをまき散らす。
「これを見ろ! 私は生涯のすべてを神と国と何よりそこに住む民に向けてきた。すべてだ! すべてを使って積み上げてきたんだ!」
ぐちゃぐちゃになった机をたたきながら領主は血走った眼を二人に向ける。
「それがどうした! 帝国の支配下になったとたん何もかもが崩れ去った。民の信頼? 信頼があるならばなぜ新しい王に反抗しない? なぜ機会を捨てようとしない? なぜ! なぜ英雄たちはその下に甘んじているのだ!」
どんどんという音は激しくなり、木製の机が折れていく音が混じっていく。
「この国の王はこの私、クリューゲル・ホスピア十三世だ! 検診に国に尽くした賢王に対しての民の仕打ちがこれだ! 足りないのだよ! 敬意も信頼も感謝も何もかも!」
いつもお読みいただきありがとうございます。




