表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5


嘲笑う声が、楽しげに続けた。

「教えてやろう。何もできない。 ククク、たくさんの『過去』が積み重なって、『今』がある。ゆがんだ、あるいは間違った『過去』が、しょうもない『今』を作っている。そして、いくつもの『今』が、未来を創る。閉じ込められ、身動きも自由にできないおまえの『今』が、何を作れると思うんだい? なーんにもできない。クククク」


「一理ある。私は私の『過去』を私に語ってみよう。『今』を見出さなくては成らぬ」

何も見えない暗闇の中では、独り言と変わらない。

聞いているのが魔物というのも一興だ。

「けっ、遅いや」


ともすれば途切れがちにもなるかすれた声で、淡々と紡がれた物語が終わると、闇は哄笑した。

「ウハハハハ、こいつは良いや。この郷の未来は、俺にだって読める。毒婦と道を外した修験者に食いつぶされる。間違いない」

狭い洞穴に、闇の声が楽しげにこだました。



どれほどの時が過ぎたろうか、ひっそりと静まり返った暗闇に、闇が問いかけた。

「おい、……おい、どうした。絶望したあまり、気を失ったか」

応じたように、身じろぎの気配があった。


「ん…… ん、考えていたら、つい、うとうとしてしまったらしい」

「そういや、あんたは、お姫さんだったなあ。にしても、呑気が過ぎる。喉が渇いたろう。腹が減ったろう。まだ、竹筒の水が一本と、握り飯が一つある。飲めよ。食えよ。どうせ長くは生きられない。今のうちだ」


祈姫は起き上がって、姿勢をただした。

「同じ事だ。欲しいなら、そなたにくれてやろう。勝手に取るがよい」

だが、闇は動かなかった。


「違うのか。私は手探りするのも面倒だ。好きな時に、飲み、食すがいい」

悔しそうな唸り声が返事になった。

闇の気配が乱れる。


ややあって、堪らぬ様子の声が、再び話しかけた。

「ここに閉じ込められてから、姫さんは、一口の水を口に入れただけだ。オレが場所を教えてやるから、手に取れ」

返事がない。

「なあ、飲みたいだろ。食いたいだろ。ちゃんと右左を教えてやると言っているんだ。すぐに探り当てられる」


「……そうか」

「そうだ」

「自分では、取れないのか」

「んぐぐーっ」

「何故?」


闇は、しばらくして観念した。

「その三宝は、姫さんの為に供えられた。オレにではない」

三宝に乗せられた捧げ物は、聖なる供物。

魔物には手出しができないのだ。


「言いなさい。右か、左か」

探り当てた竹筒と握り飯は、惜しげもなく闇に突きだされた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ