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デモンストレーション


 鬱金は無言で蓬郷に連れられて自分の機体に向かう。立花が何か設定をしてくれている。


「何をすればいいんだ?」

「なんも」

 鬱金の質問に鬼田平は平然と答える。


「立花が自動追尾にしてるから、本当に乗ってるだけでいい。後は危ない時に避けろ。それだけだ」

「楽なところだな」

「おう。うるせーのが居ないからな」

「立花様は煩そうだか?」

「あいつはあいつの仕事のことにはうるせーが他はお任せだ。面倒は起こすなとしか言われねぇ」

 鬼田平の口調からは信頼がうかがえる。立花は意外といい上官なのかもしれない。


「おっしゃ、じゃあ出発すっか〜」

 鬼田平の若干気の抜けた合図で作成は開始された。




 街外れにある広大な畑の両端で、両軍合わせて数十機の戦闘機が待機してる。

 普通の機体と戦闘機の違いは銃火機が有るか無いかくらいで、機能にはほとんど違いがない。

 立花の機体は畑の中央にゆっくりと降りていき、人の背丈ほどの高さで器用に留まる。


「へぇ……すごい技術だな」

 鬱金が感心したような様子で言う。


『だろ? 機体も操縦士も特別だからな』

 通信で聞こえてくる鬼田平の声は自慢げだ。


「蓬郷は見かけによらず器用なんだな」

『いや、あいつ操縦できねぇの。だから立花と一緒なんだよ』

「じゃあ、操縦してるのは……」

『立花だ』

 張り切って交渉すると言っていたので鬱金は感違いしていたらしい。


 立花の機体は扉を開け、大きなレオモレアの旗を持った蓬郷が立ち上がって威圧する。何か言っているようだが、鬼田平の機体と共に立花の機体の上空を旋回する鬱金には聞こえない。


「聞こえないな」

『? ああ、お前のは通信来てねぇんじゃねか? 俺のは聞こえてるぜ?』

「そうか、なんか残念だな」

『立花が立派に演説してるから問題ねぇ、それよりライトつけろ』


 言われるがままに照明を点けると、ちょうどスポットライトのように二機の機体からの光が蓬郷を照らす。


『おお〜いい感じじゃね〜の。イケメンは得だねぇ』

 蓬郷がイケメンかどうかは鬱金には分からないが、どうでもいい事なので口は挟まない。


 周波数を探すと立花の声が聞こえてきた。

『こちらはレオモレア軍である。直ちに武装を解除し此方の指示に従え。

 交渉には立花が応じる。言い分は聞こう。速やかに投降しろ』


 声は立花、姿は蓬郷。そして威圧するように飛び回る機体。

 デモンストレーションとしては完璧に近いだろう。

 しかも両軍からすればレオモレアはこれから仲良くしたい相手で、立花が交渉に応じてくれれば解決は約束されたようなもの。

 これで投降しないわけが無い。


 ふと、鬱金は疑問に思う。

「立花様がいなかったらどうするつもりだったんだ?」

『あ〜? とりあえず観戦して、勝った方と決勝戦だな』

 鬼田平は何故か格好つけて言う。絶対にそれをやってはいけなかったと鬱金は思う。


「立花様が駆けつけた理由が分かるな」

『いや、もしやってても立花は怒んねぇぞ? 証拠隠滅すれば許してくれる』

「でもそれじゃあ、誰も得しないじゃないか」

 なんだか立花のイメージと違うなと鬱金は思う。

『今回は起こってもいないし、考えるだけ無駄だ』


 二人が暢気な会話をしていると片方の軍から一機近づいて来て、立花機体の下に降りる。

「あれはどっちだ?」

『多分、領主だろう。王家のはもっと派手だ』


 下の二機の間で何かやりとりがあったのだろう。再び立花の声がする。

『領主側は投降した。交渉に参加するか、梯子を外されるか好きな方を選べ』

 交渉というより脅しだろう、と鬱金は思う。


 この状況でレオモレアに相手にされない王家など、水のない川のようなもの、存在価値がない。まともな神経なら投降してくる。立花が下手に出る理由がない。


『田平、王家の方は武装解除してるか?』

 立花から通信が入る。


『いやぁ。バッチリお前を狙ったまんまだ。なんか揉めてんじゃね〜か?』

『そうか、じゃあ帰るか。領主側を誘導してくれ、とりあえず……王宮の庭にでも集めとけ。話は明日する』

『了解。タイショー』

「王家はどうするんですか?」

 鬱金は立花に話しかける。


『相手もいないのに喧嘩しないだろ? 対応は……ん〜明日考える。みんな帰ろう』

 鬱金は立花の機体の後についてゾンビの拠点に戻る。鬼田平はそのまま領主側に行ってしまった。




 ゾンビ達は王宮の離れを占領して拠点にしているらしい。

 贅沢ですねと鬱金が言ったら、立花は不便だけど頼まれたから仕方ないと言っていた。


 一行が離れの豪華なエントランスに入ると、けたたましいヒールの音がして白衣の女が現れた。

「立花ちゃんおかえり〜ぃ」

 鼻にかかった声で言うと立花に抱きつく。立花は死んだような目で無抵抗だ。


 立花より少し高い身長にショートカットにメガネの女、さっきの話の芹だろう。同じ医者でも鬱金の妻とは大違いだ。


「も〜来てるなら、そう言ってくれないとぉ」

 芹の足元では立花の代わりにロブが牙を向いている。いつでも殺れると目が語っていそうだ。


「ねぇねぇ、新しいサンプル手に入った? いいものが出来たのぉ」

 嬉々として立花に絡んでいた芹が鬱金を見つけて目を向く。

 鬱金は思わず顔が引きつった。


「誰? このいい男?」

 芹は先ほどの声とは全く違う声で言う。


 拘束が緩んだ立花は芹の腕を逃れ、目の前に立ち塞がる。

「この人は客だ。絶っ対に関わるな」

「え〜そんなぁ」

 芹は立花には甘えた感じで文句を言っている。


 唖然として見つめていた鬱金は鬼田平に呼ばれて部屋に案内される。


「言わなくても分かっただろうけど、あれが芹だ。

 あいつはマッドサイエンティストとかいうので、人間を改造してここに来た。将来的には本気で人間を変身させるつもりだから、命が惜しければ近づくな」

 鬼田平の忠告は割と本気だ。鬱金は重々しく頷いた。


「今回は立花が生贄になってくれて良かったな。次があったら本気で逃げろよ?」




 鬱金の部屋として案内されたのに、鬼田平と鏑木は当然のように入ってきて酒盛りを始める。

「自分の部屋で飲んだらどうだ?」

 別に構わないのだが一応は言っておく。


「え〜そんなつれないこと言わないで下さいよ。鬱金様となんて二度と飲む機会ないですよ」

 鏑木が情けない顔で言う。

「どうだろうな?」

 鬼田平は早くもグラスを開けながら笑う。


「えっ? 鬱金様仲間になってくれるんですか? 冗談でしょう? だって立花ですよ?」

「立花だから、だよ。

 おい鬱金。お前、迷ってるなら来いよ。嫌なら抜けりゃいいんだし。立花はかなり使えるぞ。

 戦闘はお子ちゃまだが裏方は完璧だ。面倒なことは全部立花にやらせればいい」


「そう言えば領地からの上がりは全部使っていいと言われたが、立花様はそれで大丈夫なのか?」

「ああ、あいつは気象予測の…… 何つったっけ?」

風見かざみですよ、隊長」

 酒が入って饒舌になった代わりに思考が低下している鬼田平に鏑木が補足する。


「そうそう、それ! その会社をやってるから金には全然困ってね〜の他にも運送屋とかついでにやってるしな」

「そうですね。ついでに出来て手間が掛からないなら何でもやりますよ、立花は」

「そう! だから心配するな! しかも時期がいい! これから最高!」


「何がいいんだ?」

 鬱金にはさっぱりわからない。

 それを聞いた鬼田平はよくぞ聞いてくれましたと嗤う。


「いいか? 陛下が死んで後継もいねぇ。ってことは次の王は将軍から選ぶのが妥当だ。だが桐生と首席は仲が悪い。

 話合いになったら桐生は勝てねぇ。

 かといってお互いに引く気はねぇ。

 これはもう、負けたら破滅の戦争しかねぇってことだ!」

 鬼田平は突然立ち上って語り出す。鏑木はまた始まったという顔をしている。


「うんざりしてんだ俺は! 何が落としどころだ! 妥協なんてするなら殺し合うな! 形だけの戦争なんて戦争じゃねぇ! 何の為に死ねばいい?

 俺がやりてぇのはなあ!」

 鬼田平は鬱金の目を覗き込むようにして言う。

「 ……喰うか喰われるかの本気の殺し合いなんだよ……」

 その目が嬉しそうに嗤って語りかけてくる。お前も同じだろう、と。



 戦争は単なる殺し合いではない。国家戦略の一環として勝てる場合でも先のことを考えて引いたり、逆に勝てないと分かっていても、戦っておかないといけない場合もある。密約で勝敗が決まっていたり、他国に見せる為のデモンストレーションの時もある。

 それが悪いなんて思わない。なんでもありが前提で、生活と将来が掛かっているのだ。中途半端な理想や正義感で戦争をするような主に鬱金は仕えたくはない。



 それでも、死ぬ奴は死ぬのだ。鬱金はデモンストレーションの為に人が死ぬのは嫌だ。殺すのも嫌だ。命を奪うからには命懸けで、参加料はそいつの命だと鬱金は思う。確実に死なない、必死でない奴に殺されたくはない。


 何故隠居したのか。何故戦争に飽きたのか。何に追われていたのか。

 言葉にしてこなかった気持ちに名前をつけられた気分だ。あやふやだった物が形になって、もう無かった事には出来ない。まるで呪いのように……。



 結局鬱金は何も言わなかったし、二人も何も聞かなかった。


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