観察
気まずい。そして恥ずかしい。
立花は簡易テントの中でイカツイ男たちに囲まれていた。必要以上に人が多いのはみんな鬱金が見たいからだ。
立花は一人床に座ってロブに隠れながら会話を聞いている。
情けないのは分かっている。でもどうすればいいのか分からない。
鬱金は立花に勧誘されて気になったから、最近立花が関わっている街に見物に来たと言った。
それを聞いたみんなの視線が痛い。そんな生暖かい目で見ないでくれ。
「それにしても田平がここに居るなんて知らなかったな」
鬱金は周囲の視線に少し疲れた様子で言う。
「ここって、お前ここが何か分かってんのか?」
「レオモレアの桐生軍だろ?」
全然違うと鬼田平は首を振る。
「その中の懲罰部隊だ。立派な通称があってな、大体ゾンビで通ってる」
「何をして懲罰部隊に?」
「気に入らね〜上官をぶん殴ったら死んじまったんだよ」
鬼田平に反省の色はない。だが軍隊など大体こんなものだ。
「何故ゾンビと?」
「前の陛下がそれはそれは厳しくてな、軍規違反は大体死刑だ。んで俺らは死刑から生き残ったからゾンビなんだ」
「死刑って生き残れるのか?」
普通死刑は銃殺だ。とても生き残れるとは思えない。
「そこにいる立花様がな、殺すのも面倒くさいって、ナイフ一本で街の外に追い出して下さってな。んで別の街に辿り着けた奴を集めて部隊を作ってくださったんだよ」
「それは、非情なのか温情なのか分からんやり方だなぁ……」
視線を集めた立花はものすごく居心地が悪い。
あの時は何も考えてなかった。蟲が近くで暴れて大変だっただけなのだ。立花は心の中で訴える。
「まあ、そのお陰で俺らは一応罰を受けてるって事で自由にさしてもらってるけどな。何年かいりゃあ戻れるみたいだし」
「お前はどれ位居るんだ?」
「おい立花、あれは何年前だ?」
「四年前です……」
「だとよ」
「それで何でまだここに?」
「まー嫌な仕事ばっかり来るけど居心地いいからなぁ。元戻るとか考えた事もね〜んだわ
最近じゃなんもしてなくてもここに入りたいって変態も来るしな?」
ガハハハっと鬼田平は豪快に笑う。
「あの、それより、今回の事情を説明して貰いたいんだが……」
立花は勇気を出して会話に加わる。
このままではいじめられに来たようなものだ。
「あ〜、待ってな。二人が調べてっから」
「お前が知ってる事でいいから教えてくれよ」
「いやぁ、俺疲れてっし」
鬼田平は立花の思い通りにはならない。多分鬱金に断られたらこの男に頼む事になるのだが、不安しかない。
結局、ゾンビの幹部をしている他の二人が来るまで何も進まなかった。
「んじゃ、鬱金に紹介するな。俺の自慢の部下だ。
こいつは蓬郷。副隊長だ。こいつも俺と同じような事やってここに来た」
蓬郷は二m以上ある身長に女性のウエストぐらいありそうな上腕筋を備えた大男で顔立ちもそんな感じだ。非常に無口な為簡単に頭を下げる。
「んで、こっちが鏑木。お前は何やったんだっけ?」
鏑木と紹介された男は見た目は上品な細身の男だ。
「俺は何もしてませんよ?併合された国で武官をしていました。立花様が戦後処理にいっらっしゃって、その時の縁です。どうぞよろしく」
鏑木は黒く微笑む。鏑木はいつもこんな感じだ。
「あともう一人女で医者の芹ってのがいて、四人がゾンビの幹部だ。
お前ら鬱金の紹介はいるか?」
鬼田平がみんなに聞くが全員が首を振る。紹介されなくてもみんな知っている。それが鬱金だ。
だからみんなの、鬱金を勧誘するとか何様? 感違いし過ぎなんじゃない? という立花への視線が痛い。早く出て行ってくれと立花は願う。
「鬱金です。これも何かのご縁ですからよろしく」
鬱金は涼しげに笑っている。
▽▲▽
「つまり、俺らがまだ会った事のない領主がいて、そいつらがここの王家に反発して睨み合ってるって事か?」
立花は鏑木の説明を要約する。
「そう。でもなんか、同盟みたいな感じで、国としては別だね。だから前回は会ってない訳だし」
鏑木は軽い口調で答える。
「何に反発してるんだ?」
「それは本人に聞いてみないと……でも道が切れて孤立してるみたいよ?」
「こっち側は分かるけど、向こうはなんでだ?」
今いる街は桐生軍が停戦中の南の連合国に隣接している。
敗戦でレオモレア側の道が切れるのは分かるのだが、向こうの国と行き来できない理由が分からない。
「ん〜途中でなんかあったのかなぁ? そういうのは立花様調べてよ、得意でしょ?」
「で? 俺らは何するんだ? 観戦か?」
鬼田平はすっかり飽きている。
「道が切れてるだけならこっちが開ければいいだけだろ? 俺が交渉する」
「んっんっんっ? 立花様ぁ。ここの王家はそれが嫌なんじゃない? レオモレアと取引したいならうちを通せって事でしょ?」
鏑木は介入には消極的のようだ。
「そんな事を決める権利はあいつらにない」
「それは……ねぇ? でもどうやって交渉するのさ、もう直ぐ始まっちゃうよ?」
この会議と言えるのかは分からない会話を鬱金は黙って聞いている。
遠慮しようとしたのだが、意外にも立花が問題ないと同席させてくれた。
「仲裁、すればいいんだろ?」
「どうやって?
まさか、私の為に争わないで! って割り込んで行くつもり?」
「面白そうだな」
鬼田平が嬉しそうに笑って言う。
「危ないでしょ!」
「まだ始まってないだろ? やるなら今のうちだな」
「でっかい旗あったか?」
「ある」
立花の質問に蓬郷が答える。
「じゃそれで、一機でいいか?」
「見た目的に三機は要るんじゃねえか?」
鬼田平はやる気になっている。
「三機って、俺と蓬郷は一緒に乗るだろ?あとは田平と…… 一人足りないな」
立花は鏑木の顔を見るが、すかさず外方を向かれている。
「じゃあ、自分が行きますよ」
鬱金が言うと鬼田平以外の三人に驚いた顔で見つめられる。
「お〜鬱金なら完璧だな。じゃあ急いで行くか!」
「本気ですかぁ? 何があっても俺は知りませんよ?」
「何かあったら後のことは鏑木に頼む。よし出発!」
鬼田平はさっさと決めて、さっさと出て行ってしまう。
立花は不安そうな目で鬱金を見ていてたが、結局何も言わずに出て行った。