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最悪を想定して戦え(読み飛ばし可)

(注:敵方に興味のない方、読み難い時はどうぞ次のお話に)


 その日の夜半。首席将軍は戦闘機が飛び交うような風音で目を覚ました。そして夜空を見ると、ほぼ思ったままの景色が広がっていた。


 これは戦闘開始か! と思ったが戦闘機の数は少なく、向こうの谷の稜線を微かに光を灯しながら街とは逆の方に向かって飛んでいる。


『将軍! 敵に動きがあります!』

 禁じていたはずの通信で将官が報告してくる。

「落ち着け、数が少ない。何処に向かっている?」

『未確認ですが、安全圏を出たと言う話もあります』

「外だと? 一体何が目的だ?」

『不明です。ただ、多くはいないようでせいぜい小隊程度の規模です』


 通常睨み合いになるような戦闘の場合は先に動いた方が不利だが、それはこちらに挑みかかってきた場合である。意図が全く分からない敵の行動への対処は難しい。

 挑発行為と決めつけて静観せいかんするか、敵の動きを牽制けんせいするか。

 下手に動けば隙を作り、見逃せば後で手痛い目に遭うかもしれない、実に悩ましい問題である。何よりも問題なのが今は星が悪いという事だ。


 首席としては今は動きたくない。だが、他の者への説明が簡単ではない。戦い急ぐ者に星が悪いなどと言って納得させられる訳がないというのは首席にも分かっている。


「皆に集まるように伝えろ。対策を話し合う」

 首席は時間を稼ぐ事にした。




 そして対策会議の序盤で首席はすでに後悔していた。

 何をどうやっても動きたい者がほとんどで静観派はいないに等しい。普通に戦っても桐生になど負けない。まして今回は万全の準備がある。負けるはずがない、というのが大半の意見だ。


 首席もこの意見には同意しているのだが、今回はこちらが決めたのではなく相手に動かされている。つまり後手に回っている。しかも先程の通信は確実に傍受されている。これで相手が対処してこないと思うほど首席も桐生を舐めてはいない。


「桐生など、それくらいのハンデがあって丁度いいくらいです! それに今は戦闘機が減っている。奴らの失策です!」

「目的が分からないのに、失策と決めつけるのは危険だ。例えば外を回って我々の後ろを取るつもりではないのか?」

「それこそ、外はしばらく猟師が手を入れていない。失策中の失策だ」

「それもそうだな。ヌシのいない外など死にに行くようなものだ」


 しばらく話し合いを続けていた将官達の話は纏まったらしく、後は首席が決めるだけとばかりに沈黙が訪れる。


「分かった。ただ、敵の目的は分からないままだ。そして……日が……悪い。

 最悪を想定して戦え!」

 首席は意を決して命じた。

『オー!!』

「くれぐれも油断するな!」

『オー!!』

「少しでもおかしかったら止まれ!」

『オオー!!』


 会議室に鬨の声が響く。

 うるさい……。首席の呟きは誰の耳にも届かなかった。




 この大陸での戦争は戦闘機がメインの空中戦である。前後に座席が並んだ二人乗りの羽根のない機体で、前方の下部と後方の上部に円環えんかん状の部分があり、ここで周囲の風を集め圧縮し高圧で噴射したり気流を起こしたりして飛んでいる。ホバリングもでき、三六〇度の機動性能がある為にドックファイトというよりは蜂の戦いに似ている。


 首席の乗る大きな旗艦の周りを中型と小型の機体が取り囲む。動力が風なので集団になると凄まじい風音がする。そんな音を響かせながら地上の布陣から戦闘用の立体的な隊列へと組み直して行く。

 この隙を突いて攻めかかられると痛いのだが、敵軍も同じように展開を始めたばかりの為問題はなさそうだ。


「始めろ」

 首席が落ち着いて指示を出すと、敵軍に向かって街の方から砲撃が始まり、隠れていた伏兵が横合いから襲いかかる。


 縦一列になって敵軍を突っ切って行く数十機の最後尾が見えなくなった頃、首席は本隊を動かし始め、隊列が完成していない敵軍に向かって味方が谷を越えて向かっていく。


 首席は旗艦を上昇させながらゆっくりと進む。思ったよりも自軍の砲撃が少ない。予定では敵軍の中央に雨あられと振らせるはずだったのだが、最初こそ連続していた攻撃も今ではほとんどない。


 首席は砲撃の事は忘れて正面から敵を倒す方法を考える。

 敵には大型の機体がなく、その代わり中型の機体が三機ある。自軍には同じ規模の機体が五機ある事から考えても敵軍は小型の戦闘機での接近戦で勝負に出てくるだろう。そんな事は大分前から情報で掴んでいた首席は火力で勝負することに決めていた。


 最前線で戦闘機が始まったことを確認した首席は上から押しつぶすように自軍を動かしながら戦闘を進める。どちらが優勢とは簡単に言えないが自軍はほぼ予定通りに動いている。

 そんな中、街の近くで爆発が起こる。丁度砲撃部隊の位置だ。敵の対処が思ったよりも早かったようだ。

 そして敵軍後方の中型機体が旗艦の射程に入る。舌打を堪えながら次の行動に移ろうとし始めた時、最初に突撃した伏兵が数を減らしながら敵軍を抜けてきた。その後ろには敵が迫っている。対処を指示しようとした時、自軍の左翼の部隊が勝手に持ち場を離れて敵に向かっていく。


「おい! 何を勝手に動いている!」

『敵の陣形が乱れています! 今が好機です!』

 通信で若い部隊長が返事をする。

「バカが! 誘いに乗るな! 接近戦になると予定が狂う! すぐに戻れ!!」

 言ったものの無理だろうなと、首席は思い。案の定味方の動きを助けたら戻ると言ってそのまま進んでいく。長い膠着のストレスか功名心か知らないが焦り過ぎだ。


 首席は呆れつつも予定通り旗艦の主砲で敵のど真ん中を狙う為に射線上の機体に移動の指示を出す。

 そのタイミングを狙ったかのように全く想定外の安全圏の外側からのミサイルが来た。本来なら旗艦まで届かないはずだが、先程左翼が手薄になってしまっている為に何発かは旗艦を掠める。

 外装が頑丈なので損傷はないが機体が激しく揺れ、周りの戦闘機がそれを躱す為にバラバラに動き、乱れる。そこに敵の戦闘機が集団で流れ込んできて、首席はやりたくなかった接近戦をする羽目になる。出来るだけ自軍の損害を減らす為に火力勝負で終わらせたかったが、残念ながら最善策は潰れてしまった。


「仕方がない。いつも通りやれ!」

 首席が命令すると物凄く威勢のいい返事が返ってくる。皆接近戦がやりたくて仕方がなかった様子だ。

 首席は味方がバラけ過ぎないように指示を出しながら戦闘を継続していると、敵が中型機を先頭に左右から同じように突撃してくる。首席は慌てず騒がず敵を通り抜けさせるように指示を出すが、敵は途中で部隊を分け味方の隊列を引っ掻き回していく。


「意外とやるな……」

 首席は始めて桐生を見直した。

「将軍。何かおかしいです」

 旗艦のレーダー担当が言う。

「なんだ?」

「味方の損害が予想以上です」

「何が起こっている?」


「敵の戦闘機が普通と違います。風圧が強すぎる……」

 将軍の質問には別の分析官が答えた。

「なるほど、これが敵の奥の手か」

 どうやら桐生はスピードや火力を犠牲にしても風圧を高めて接近戦で弾き飛ばす手に出たようだ。


 そして首席は努めてゆったりと、指示を出す。

「ゆっくり後退しろ」

「将軍!!」

 周囲からは反対の声が上がるが仕方がない。何しろ今日は日が悪いのだ。


 そして後退を始めると、白み始めていた空に太陽が昇った。山の稜線から強い光が現れた時、轟音と振動共に旗艦からは炎と煙が上がる、何が起こったのか分からないまま首席は戦線を放棄して城へと撤退した。


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