何もない街
立花は鬱金、海棠、鬼田平、そしてロブを連れて街に潜入していた。
潜入など下っ端の仕事と言われたが、立花の代わりはいないので強制参加。他はみんなが行きたがったので急遽”ペチペチ棒”による選抜大会が開催され、勝ち残った二人に海棠が加わった。参加しておきながら鬱金はみんなが退屈しきっているのが心配になった。
軍服を脱いだ立花様御一行は荒んだ街を適当に進む。
「お前なんか動きおかしくない?」
「お陰様で筋肉痛なんだよ」
老師から解放されてご機嫌な海棠に立花は苦笑いで答える。
「だらしねぇなぁ。お前はどうやったら大きくなるんだ?」
鬼田平は立花の頭を肘置きにして言う。
「こっちが聞きたいです……」
「それより何処に向かってるんですか?」
なんとなく立花について歩いていた鬱金が尋ねる。
「猟師協会」
「何処にあるか分かるのですか?」
「大体街の出口だろ? なんとなく分かる」
普段から色々な街を見ている立花は勘で分かるらしい。
「とりあえず、猟師から蟲と交易の情報を聞いて、それから街の子供に治安を聞いて、後は適当に店で話を聞けば大体分かる」
「そんなに簡単に教えてくれるんですか?」
「問題ない」
立花はサラッと言うが、鬱金には信じられない。しかし海棠も鬼田平も全く心配していないようだ。
「まあいつもやってることだしな」
「こいつには色々武器がありますから」
鬼田平と海棠が解説してくれた。
立花の武器の一つは金だ。一般人では想像もつかない資産を持つ立花は猟師協会の会員資格を金で買った。本来なら蟲の駆除が条件で屈強な者しか手に入れられない資格である。煙たがられる行為だが気にしていない。そんな空気の読めない立花は目当ての建物を発見するが、閉まっていた。
「すみませーん、猟師協会なんで閉まってるんですか?」
立花はすかさず近くのおばさんに声をかける。
「ああ、領主様に追い出されてね」
「追い出された? 誰も残ってないんですか?」
「そうなんだよ、参るよねぇこんな時に。戦争が起こるのに街から出られないし、食料も無くなるし……ってあんた達どうやって来たんだい?」
「実は頼まれてこっそり食料運んで来たんですよ。それでこれからの事相談しに来たんですけど……」
立花が困り果てた顔をするとおばさんは預かっていた協会の鍵を貸してくれた。
「こんな時に本当にありがとうねぇ。何か助けになるかも知れないし、ゆっくりして行ってぇ」
「ありがとうございます」
立花は嬉しそうに微笑んで協会に入ったが、閑散としてもぬけの殻だった。
「なぁ〜んもねぇなぁ〜」
併設している酒場のカウンターを漁っていた鬼田平が言う。
「うぁ、回線切られてる」
「どうすんだ?」
「これぐらいなら直せるけど、お前ら先に店の聞き込みしてる?」
立花と海棠が話合っているのを聞きなから、鬱金は入り口に立って街を眺める。
人が居るのに静かな街は不気味だ。そして街の出入りを禁じて隠そうとしている物は何だろうと考える。
「おい、鬱金。別行動だ、俺らは店を回るぞ」
「一人で平気なのか?」
「犬がいるから大丈夫」
立花の愛犬はいつの間にか姿を消していたが、鬱金は言われるままに建物を後にした。
「何隠してるんだろうなぁ……」
「あいつが見つけて来ますって」
鬼田平の独り言に海棠が返す。
「はぁ……向こうは何考えてんのかねぇ」
▽▲▽
レオモレアの首席将軍は国一番の戦上手と言われる。領地経営は多少下手だが弱小国を吸収していればさほど問題ではなかった、そう周辺に弱小国があるうちは。
切り取りを続けて国が広がり、いよいよ戦神が治める北の大国と国境を接することになると、問題が表面化してきた。
領地経営が上手くいかないと経済的にはもちろんだが、人口が増えずに軍隊の規模が小さくなってしまう。ただでさえ出生率が低いこの星では、完全に消費活動しかしない軍人は早々増やせるものではないのだ。
つまり首席は行き詰まっていた。
そして首席は名門領主の家柄だ。名門なだけに優秀な家臣も多いのだが、首席は他人の話を聞かない。そんな彼が壁を打ち破るためにした無茶な戦で、先王は死んでしまった。直接的ではないものの、原因を作ったことは間違いない。
そして首席は追い詰められた。
「将軍。街に見慣れない者が入り込んだと報告が来ました」
体力は落ち始めたが、気力と経験が自信になっている顔も立派な壮年の偉丈夫、首席将軍は基地の一室で報告を受けていた。
「偵察か?」
「部隊を送りましょう」
「まぁ、待て。街に入り込んだ所で得るものはない。捨て置け」
最近入隊したばかりの若者は無言の反論をする。功を焦る気持ちは分かるが、街の偵察など無意味だ。
「時期が来るのを待つのだ。焦ったら負けだ」
首席は厳しい顔で若者を下がらせると、入れ違いで白いマントのふくよかな女性がお茶を持ってくる。首席は桐生とは違うので本来なら戦場に女性は置かないが、彼女は特別だ。
この大陸では二つある宗教のどちらかを信仰している者が多い。
一つは白衣と呼ばれる一神教で、死後神のもとで裁かれる。神に近づく為に多くの他者を救いなさい、という教義を持つ。
もう一人は黒衣。この世を苦界と呼び、徳を積むことで苦界からの死に上がりを目指す宗教だ。
信仰している者は多くとも、冠婚葬祭と神事以外は宗教の事など忘れて過ごす者が多いので、どちらの宗教も資金難だ。
白いマントの女は白衣の神官で戦場に慰問に来てる。頼んだ訳ではないが、首席は白衣の良い庇護者なので押し掛けてくるのだ。
「神官殿、好機はいつ頃だろうか?」
「星は輝きを弱めています。再び光が増すまで待たれた方が良いかと思われます……」
女の容姿はそれほどではないが、声が美しい。そして相談相手の居ない孤独な首席の支えになりつつあった。
「それはいつ頃だろう?」
「……そうですねぇ……半月は掛かりませんでしょう……」
女は不思議な微笑みで首席を安心させてくれた。
▽▲▽
立花と離れた鬱金たちは営業中の店がなかったので、適当に通りで一番目立つ店に食料持ち込みで料理を頼んだ。木こりの街の女将さんは恰幅も人柄も良かった。
「あ〜暇ですね〜」
テラス席の一角で料理が出来るのを待っている海棠は何を楽しみにしていたのか知らないがひどく退屈そうだ。
「余程お日柄が悪いんですかね〜こうも反応がないとやり甲斐がなくて嫌になります」
「七割が準備で後はほとんど待つのが仕事みたいなものですから」
「よく飽きませんね〜」
鬱金の言葉に本格的な戦場の経験がない海棠が呆れた様子で答える。
「まぁ〜ここまで長いのは珍しいがな」
鬼田平は勝手に持ってきた酒を飲みながらいう。
「なんかの基地は作ってるみたいだし、動きがない訳じゃないんですけど、前から決まってる予定通りって感じで気分悪いんですよ」
「おじいさんが何か考えてそうですから、気長に待ちましょう」
「いつまでとか決まってたら待てるんですけどね〜」
海棠は相当ストレスが溜まっているようだ。
手持ち無沙汰な海棠が通りに視線を移すと子供とロブを引き連れた立花が歩いてきていた。
「何? なんかのパレード?」
「勝手に着いてきたんだよ」
立花は不機嫌に答える。
「おい、お前ら、料理来るから食べていいぞ!」
鬼田平の声に子供たちが嬉しそうな返事をする。
「またお前は勝手に……、まあいいか。
それよりここの回線は?」
「? 協会で調べなかったのか?」
「あそこは音声しか送れないんだって……まさか?」
立花の質問に三者三様の顔をするが、答えは一つだ。
「なんで?」
「大本から切られてるんだってさ〜ははは〜」
海棠が乾いた笑い声でいう。
「なんだそれ、嫌がらせか……」
「命懸けの嫌がらせの最中なんで、むしろスンナリ行ったら怪しいんで」
「もう嫌だ……」
立花は気力が失せた様子で呟く。
「大本ってことは街を繋ぐ回線ですか? どうやって切ってるんでしょうね? 物理的に切ってしまったら直すのが大変でしょうし……」
鬱金の言葉に立花は怪訝な顔で考えて込む。
程なく大皿に盛られた料理がどんどん運ばれてくる。いつの間にか子供以外にも街の人で店内は満席になっていた。
考え事に集中している立花の口元に海棠が食べ物を運ぶ。立花はそれを多分無意識で食べている。たまに立花が無視した物は足元のロブにあげる。一連の動きはとても自然な様子だった。
鬼田平は女将さんの料理を褒めながら追加の料理をオーダーしてる。
鬱金も食べながら立花を観察していたが、立花は不意に邪悪な笑みを浮かべた。そして何か思いついたようで女将と話をしながら店の奥に消えていく。
「どうするつもりなんですか?」
「さぁ? でもあいつが本気出せば何とかなるんですよ」
「はぁ……」
鬱金はよくわからない返事をすることしか出来なかった。
テーブルいっぱいの料理が粗方無くなった頃、立花がドヤ顔で現れた。
「出来たぞ。
これで分かるんだけど……あの人の生年月日って分かるのか?」
立花の質問に海棠は首を捻り、鬱金は苦笑いする。星占いには最低限必要な情報だが、調べていなかったらしい。
立花もどうするの? という顔をしている。
「俺、知ってる」
鬼田平が相変わらず口に食べ物を入れたまま言う。
「えっ? なんでお前知ってんの? ファン?」
立花が嫌そうな顔でいう。
「俺と一緒なんだよ」
『…………』
ようやく食べ物を飲み込んだ鬼田平の言葉に三人の占いに対する信頼が地に落ちた。
「そうか、ご愁傷様。教えてくれ」
いち早く立ち直った立花は鬼田平の情報を元に天体配置図を作っている。
「なんで占いなんて出来るんですか?」
「あいつは白衣の神官の資格があるんで」
鬱金の質問には海棠が答える。立花には聞こえていないようだ。
「神官? 何でまた?」
「儀式とかやる時に便利だから、ですかね〜? 後はあのお方の所為です」
桐生は色々な席で取り巻きに派手な芸をさせるが、立花や海棠は自分の側に置く事が多い。
「みんな何か出来るんですか?」
「あ〜ぁ……俺は、手品が出来ます。あのお方は手相と人相を見るんですわ」
下心が分かり易す過ぎていっそ清々しい。
二人がそんな話をしていると立花の占いの結果が出たらしい。
「断言は出来ないけど、五日後ぐらい迄は星が悪そう……」
立花は言ったものの自信がなさそうな顔をしていった。




