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進まない訓練


 両軍が睨み合いを初めて数週間が過ぎたが、立花は相変わらず訓練を続けている。

 隊員総出の持ち回り立花強化訓練の成果は、目を瞑って行けば何とか打ち込めるところまで進歩していた。

 もちろん役に立たない成果がではあるが、進歩は進歩だ。


 一方、全く動く気配のない戦況は先に動いた方が負けるチキンレースになってきている、らしい。一生終わらないのでは? と思ったが裏では色々と動いている、らしい。大人しく待っていろと言われた立花は、訓練以外することもなく疲労困憊で空き時間は愛犬のロブと寝て過ごしていた。


 ロブは立花の訓練の間は森に穴を掘って過ごしてる。まるでどこまで掘れるかの実験でもしているように毎日掘り進めている。立花は掘り過ぎて生き埋めになることを心配していたが、埋まっても嬉しそうだった。立花はロブと一緒の多分人生で一番まとまった睡眠時間を得られている点だけは幸せを感じていた。


 そんな立花の訓練日々は街からの来訪者によって壊された。


「話は分かりました。それで何故ここに?」

 さっきまで寝ていた事を感じさせない澄まし顔の立花の前には街の代表を名乗る男が直談判に来ていた。


「そりゃあここが一番近いでしょう?」

「そうですけど……ここの街の領主はあちら側ですよ?」

「俺らにしたらどっちも変わらないんですよ! 同じレオモレア人でしょう?」

「確かに」

 立花は軍人にはいなかった自分と同じ感覚の人に会えて嬉しく思う。


「食料ぐらいなら何とかできますが……街に入れるかどうか……」

「大丈夫ですよ、俺がここにいるんだから」

「でも運ぶとなったらすごい量ですよ?」

「ここをどこだと思ってるんですか? 木材を運ぶルートがありますから」

「でも、そういうのは首席に抑えられてませんか?」

「ルートだって色々とあります。お願いします。このままじゃ街が飢えてしまします!」

「分かりました」


 立花は一応、上にお伺いをたてるからと男に持てるだけのお土産を持たせて返した。




「面倒なことになった」

 立花は部隊の幹部を集めて言う。

「別に聞いてくりゃいいだけだろ? 嫌なら見捨てろ」

 鬼田平が投げやりに言う。何故こいつがここにいるのだろうと立花は思う。

「通信が使えないんだ」

「知ってるよ、一応戦闘中なんだ当たり前だろ?」

 盗聴の危険や、いざという時の為に通信はしないのが鉄則だ。


「目立たないように移動すると本体が遠い……多分行って帰るより、街の食料が尽きる方が早い。二日は持たない」

「正確な量が分かるんですか?」

 鬱金がスカウトしてきた立花本隊の幹部の一人が言う。


「分かってる、というかこっちでそうしたというか……」

 立花の口は重いが、感情を消して説明を始めた。



 桐生軍は今までほとんど不戦勝で勝ってきた。しかしなんの手も打たずに不戦勝になった訳ではない。人に言わせればエゲツない手を使っている。

 その一つが買占めだ。

 敵の領地で通常より高く食料を大量に買う。転売でも金になると分かると一般人や時には役人まで食料を売りに来る。すると品薄になって価格が上がる。次に同じ事を武器でもする。一時的に敵の儲けになるが、いざ軍備を始めた領主達はお金が掛かって困る。困った領主を調略すると普通よりも効率が良いという訳だ。


 そうして経済で骨抜きにした後で戦闘を仕掛けた結果が不戦勝の積み重ねである。


 このやり方の為に桐生は戦争新世代と言われる。金に物を言わせて戦に勝つなんて昔は考えられなかったらしい。最も途方もない金がかかるので出来る所が桐生軍以外にはないが。


「事前にここら辺の食料は減らしてあったんだ。そこから更に問答無用で食料を接収されて、まずい事になっている」

「街に融通する程蓄えはあるのですか?」

「問題ない。腐りそうなぐらいだ。ウチの備蓄は手付かずだし」

「じゃあ助けてやれよ……何が面倒なんだよ……」

「だって独断でやると怒られるだろ?」


 鬼田平や幹部の質問に答えた立花は鬱金を見つめる。

「戻るまでの間なんとか出来る分だけ先に渡しておけばよろしいのでは? 多分問題ないはずですから」

 鬱金の言葉に立花は嬉しそうに頷く。


「後は誰が行くかですね」

「誰でもいいだろ?」

「他の隊の間を通って行くんだぞ、スパイに間違われたら大変だが、一々話を通していると余計な時間を取られる」

 鬼田平と鬱金が話していると立花が何か思い出したようだ。

「老師がどっかにいるかも」

 老師とは桐生軍の軍師で海棠の上官だ。


 老師は毎日定期的に色々な部隊を移動している。睨み合いの最中は普段と違ったことをすると警戒されるが、毎日やっていると相手も”注意する”ぐらいになるらしい。


「じゃあ探してみますか、立花様は訓練を続けて下さい」

 鬱金が言う。

「えっ? まだやるの?」

「出来るまでやりますよ」

 鬱金の言葉に立花は打ち拉がれる。




 立花の訓練はペシペシ棒で続いていたが、立花が攻撃すると必ずペシペシ棒のカウンターが来る。ペシペシ棒は強度がないので力を入れると簡単に折れてしまうのだが、鏑木などは”ペシペシ棒を折らずに如何に痛くするか”の工夫を始めている。

 最早、立花がまともに戦えるようになるか、新たなペシペシ棒マスターが誕生するのが早いかの勝負になりつつある。


「早く始まらないかなぁ」

 立花の呟きは切実だった。




 翌日の昼下がり、立花は鏑木に”可愛がられて”いた。

 ペシペシ棒は服を着ている所に当たっても痛くない。最初顔面を狙っていた鏑木だが立花が避けるので、指先を狙い始めている。地味に痛い。そして避け難い。


「はぁ〜なかなかいい音がしませんねぇ〜」

「アホか! 何を目指してるんだ! お前だけなんか違うぞ! 痛い」

「だって痛い方が訓練にはいいでしょう? こっちだって飽きるんですよ。だから楽しく続ける工夫をしてるんです。

 でも立花様は打ち込みより先に避ける方が上手くなってますね」

「変な癖つけると怪我するぞ!」

「だったら早く上達して下さい。私が怪我したら立花様のせいですからね?」


 言い返す言葉がない立花が落ち込んでいると、風音を立てて老師の移動機がやってきた。

「わざわざ来たのか?」

「あ〜あ、面倒な予感……」

 立花と鏑木が嫌そうな顔で見つめる。




  ▽▲▽




「こんちわ、鬼田平さん。調子どうですか?」

 老師の機体でやってきた海棠が鬼田平に話けてきた。

「ど〜も、副官様。暇持て余してますけどぉ?」

「あはは、相手全然動かないんですよ。鬼田平さんて首席のことよく知ってますよね? 助けてもらえませんか?」

「よく知ってんな、俺があいつのとこ居たのは大昔だぞ? 調べたのか?」

「はい。調べました。でも役に立たなくて……」

「そうか、手伝ってやらんこともない」

「本当ですか!助かります」

 海棠が嬉しそうな顔をしていると、鬼田平が手を差し出す。


「有料ですか?」

「今回は情報でいい」

「何でしょう?」

 鬼田平はいい笑顔を見せた。




「で? 何で俺が呼ばれんだ?」

「立花、お前無駄なことよく知ってんだから占いも分かるだろ?」

「占い?」

 鬼田平の感じ悪い言い方を無視して立花は海棠を見つめる。


「まだ覚えてるか?」

「……覚えてはいないけど……」

 海棠の質問に立花はどこからともなく端末を取り出す。

「データはあるけど? 何で?」


「首席は占いが好きでな。軍の進退も占いで決めるんだよ」

 鬼田平はニヤニヤしている。

「だから?」

「ちろっと占って一番ダメな日に仕掛けてみねぇか?」

「はぁ……」

 意味がわからない立花が海棠を解説を求めて見る。


「まぁ、ダメ元で、波風立ててみようかとね」

「? まあいいけど、少し時間貰えるか?」

「何で?」

 海棠が言う。

「いや、忘れてるし、明日街に行くから忙しいんだよ」

「え〜立花様使えない……」

「感じ悪……。なんだ? どうした?」

「そりゃお前、爺いと毎日一緒なんだぞ! 誰か代わってくれ!」


「ホッホッホ、んじゃ海棠も立花と街に行ってこい」

 現れた老師は作務衣姿に頭に手縫いのいつものスタイルだ。

「爺い、もういいのか?」

「ああ、わしは本体に帰る。そうさの〜何日かかるかの?」

 老師は立花を見る。

「とりあえず、三日下さい」

「じゃ、三日後に海棠を迎えに来るかの、任せたぞぃ」


「何しに来たんだ……」

 言うだけ言って立ち去る老師の背中に鬼田平が呟いた。

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