表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/23

商業都市パウロニア

 立花は白っぽい部屋の中を落ち着きなくウロウロしている。


「だは〜! 邪魔! 気が散る! 落ち着け!!」

 仕事の手を止めた清白は今日もご立腹だ。


「いや、だって清白が鬱金に会いたいって言うからここで待ってるのに……」

「大人しく待てないのかよ?」

「なぁ。俺騙されてないよな?」

「誰に?」

「自分で都合良く記憶改竄きおくかいざんしてるとか…」

「そんなの俺に分かるわけないだろ?」

「ううう〜」

 立花は頭を抱える。


「ああ、そう言えば海棠も呼んどいたぞ」

「何で?」

「お前鬱金様の事、他に誰にも言ってなかったのな。

 こないだ会ったらお前の様子おかしいって聞いてくるから、喋った」

「それはいいけど。なんか自分でも疑ってるから人に言えなかっただけだし……」

「本当になぁ。でもこれでますますお前嫌われるなぁ」

「え? なんで?」

 立花は怪訝な顔をする。


「だってさ、普通鬱金様が味方になったら大喜びだろ?

 それを隠してて、いきなり鬱金様連れてったら感じ悪いだろ?」

「そうか?」

 立花にはイメージが湧かないらしい。

「分かんないけどな? そんな気がするって事。まあ立花には分からなくてもしょうがないな」

 お前は人の気持ちが分からないからと清白は思う。



 二人がそんな話をしていると海棠が鬱金を連れてやってきた。

「街で会ったから連れてきたぞ〜」

 鬱金だ! と思うと立花は妙に緊張する。

「お邪魔します」

「ようこそ鬱金様。立花の風見研究所へ、俺はここの所長の清白です」

 清白が固まっている立花の代わりに挨拶する。


「初めまして、鬱金です。二人は立花様の幼馴染みなんですよね?」

「まあ、俺はこの二人程長くないですけど、そんな感じです」

 清白も少し緊張した感じだ。そして先程から黙っている立花を海棠は呆れた様子で見る。


「だって、信じられなかったから……」

「それでも言えよ……」


「それで立花様、自分はこれからどうしたらいいのですか?」

 鬱金は三人それぞれの様子を優しい眼差しで見ながら言う。


「準備はしておいたけど……住むところはどうする? 寮があるけど?」

 信じられなくても準備はだけはするのが立花だ。


「寮ですか……なんか面倒そうですね……」

「城に居なきゃいけない訳でもないんだし、街にあったほうが便利だと思うけど?」

 海棠は少しも緊張した様子がない。

「鬱金様、俺らに案内させて下さい!」

 清白は目を輝かせる。

「そうですか? ではお願いします」




  ▽▲▽




 レオモレア国、商業都市パウロニア。

 ここは四方を海と山に囲まれ、古くから交通の要所で交易が盛んな土地だ。

 街には多くの露店が立ち並び、人の出入りが盛んな為、家々は開放的で簡単な作りが一般的だ。


 王都と繋がる川が流れ、その川の北には桐生軍の基地が、南には城と街がある。城の西側にはお店が集まり、南には住宅地、更にその南に工場地帯がある。


 研究所は工場地帯の一角にあるが露店は大通りに満遍まんべんなく出ている。パウロニアは特に商いへの規制が緩いので商人が勝手に集まってくるのだ。商人の中ではパウロニアで売れなければ諦めろ、と言うほどである。



「賑やかですね」

「鬱金はここ初めてなのか?」

「前に来たのは大昔ですから」

 立花の質問に鬱金は昔を思い出して可笑しくなる。その頃の三人はまだ幼児だ。


「桐生様が来てから変わったよな〜道も広くなったし」

「訳わからない店も増えたよな」

 海棠と清白は鬱金たちの前を並んで歩いている。視線の先には簡単に何屋と言えない、雑多な品揃えの露店が並ぶ。

 桐生の影響で派手な物が多い。


「お前ら住むならどこがいい?」

「普通は南町だろ?」

 清白の質問に立花が答える。

「まあ、西町に住んでもうるさいしな」

 海棠も同じ意見のようだ。


「これだから城住まいは」

 清白は二人を見下した様子だ。

「いいか? これからは東だ!」

「東なんて何にもないだろ?」

 海棠が反論する。

 パウロニアは東には海があり畑が広がっている。水辺は魚が怖い為人が住まないのが一般的だ。


「甘いな。最近我々が開発した新技術により、魚の脅威は激減した。これからは狙い目なのだ」

 清白は自慢気だ。

「でもあれまだ量産できないだろ?」

「そんなことない! 今はある工場で合成が可能だ!」

「またやってるのか……今度はちゃんと考えてから金使えよ?」

 立花が呆れた様子で言う。


「清白は一獲千金を狙って破産するタイプなんです」

 事情が分からない鬱金に海棠が説明してくれる。


「鬱金はどこがいい?」

 立花の質問に鬱金は少し考える。どうせ滅多にここには居ないのだ、住む場所などなんでいい。

「東に興味がありますね」

「じゃあ行ってみよう」



 街の中の移動は吊り下げ式のゴンドラに乗る。道の中央にワイヤーが張られ、一定間隔で六人乗りの座席が流れてくるのだ。動力は風で、さほどのスピードはでない。遅くなったタイミングで乗降りするので風の強い日は使えない。



 ゴンドラから降りた四人はまだ閑散としている町を歩く。

 建物がない為に海からの風が心地いい。


「のどかでいいなぁ」

 立花は嬉しそうだ。

「そういえば爺いもここに家買ってたな」

 海棠が周囲を見ながら言う。

「何個目?」

「知るか。物が増えて置場がなくなると増やすんだよ」

「海棠と同じだよな?」

「俺は寮だけです」

 ここの師弟は片付けられない病を受け継いでいる。


「どうですか鬱金様? ここがこれから発展していくんです!」

 清白の微笑ましい様子に鬱金は頷く。

「ここにします」

「早っ……」

「どこか空家はないんですか?」

 鬱金の即決に戸惑った三人だが、建設中の長屋を見つけてくれた。


 全く時間も掛けずに決めた鬱金を、立花はしきりに心配していたが、特にこだわりはないので問題はなかった。しかも海棠の上官、老師がご近所さんで住み心地は大変良かった。





 部屋を決めた翌日、鬱金は城内にある立花隊の詰所で簡単な紹介と挨拶を済ませると、二階にある立花の執務室にやって来た。

 そこには何故か将軍の桐生、立花の上官の竹杉たけすぎそして海棠と、その上官の老師が揃っていた。


「あ〜皆さん何故ここに?」

 立花の声は硬い。


「ようこそ。鬱金君。私は立花の上官の竹杉です。

 この度はウチの子に協力してくれてありがとう。不束者ふつつかものだけどよろしくね? 何かあったら私に言ってくれれば、なんでもするから」

 竹杉はシワの深い柔和な顔を感動か何かで歪め、新婦の父のような妙なテンションで鬱金の手を握る。それを見た立花が焦って竹杉を制す。


「こちらこそ、よろしくお願いします。竹杉大臣」

 鬱金は若干戸惑いながらも微笑んで返す。


「初めましてじゃ鬱金殿、わしは海棠の上官じゃ。老師と呼んで下され」

 そして老師も勝手に挨拶を始める。

 老師は軍の幹部で軍師のようなことをしている。

 老師と呼ばれているが年齢は桐生とあまり変わらない。ただ見た目が老けているのと本人がおじいちゃんキャラで押しているために周囲もおじいちゃん扱いをしている。


「初めまして鬱金です。将軍の軍師様のお話は良く耳にします。お会いできて嬉しいです」

「いんや、いんや、そんなこと言われたら照れるの〜」

 小柄な老師はとても嬉しそうに鬱金を見上げている。


「お前が鬱金かぁ……思ったより小さいんだな」

 二人に先を越された桐生はニカっと音がしそうな笑顔を見せる。


「噂と違うとよく言われます。将軍は噂通りですね。お目にかかれて光栄です」

「そっかぁ? え〜どんな噂だろ〜? 恥ずかしいなぁ〜」


 いつも通りの桐生を見ているこっちが恥ずかしいと立花は思う。

 そして視線を海棠に移す。


「見つかっちゃって……」

「どこで情報を仕入れてるんだ?」

「俺らの知らない隠密とかいるのかもな〜」

 その隠密とは海棠のことだろうと睨むが、爽やかな笑顔が返って来るだけだった。


「よし、挨拶はこれぐらいにして。立花これからどうするんだ?」

 突然桐生が仕切り始める。


「うちの秘書と護衛を付けるので隊員を集めてもらうつもりです」

「そうか、やり方は鬱金に任せるから一ヶ月でよろしく!」

 桐生は明るく言う。


「はあ? 一ヶ月ですか? 何人集めると思ってるんですか?」

「お前の所なら一五〇ってとこだろ? 余裕余裕」

「どこがですか?」

「だってお前。訓練とかもしなきゃだし、時間ないだろ?

 集まらなかったらそれで仕方ないから、大丈夫だよな? 鬱金?」

「了解です」

 鬱金は笑顔で即答する。

 立花はものすごく不服そうだ。


「よし、決定決定〜。急がせて悪いけど。次は飲みに行こうな〜」

 三人は話は終わったと出て行ってしまう。


「海棠?」

「いや、時間ないのは事実だし。三ヶ月って言ってただろ」

「いきなりは無理だろ? その次からじゃダメなのか?」

「立花様、俺に心当たりがありますから大丈夫ですよ」

 鬱金がフォローするが立花は納得しない。


「最初が肝心なんだ。ここで無茶振りに応えると際限なく来るぞ?」

「無茶ではないですよ、現実的ですから大丈夫です」

 鬱金は真剣に立花を説得する。あの面白そうな戦に関われなければ来た甲斐がないのだ。


「分かった。じゃあ俺は一人でいいから、みんなに手伝わせる……」

「はぁ? 何言ってんのお前?」

 立花の譲歩案は海棠には信じられないものだったらしい。


「だって人集めるなら色々いるだろ?」

「そういうのは集まってから考えたら?」

「イヤ、二度手間になる」

 立花がこの世で何番目かに嫌いなのが二度手間だ。好きな言葉は一石二鳥。数羽を一度で落とすための手間なら惜しまない。


 海棠は諦めたような様子で鬱金に向き直る。

「鬱金様、申し訳ないんですが、三週間で戻ってきて下さい」

「心配いりませんよ」

 深刻な海棠を安心させるように微笑む。


「鬱金様のことは、何も心配してません」

 問題は立花だ、と海棠の様子は語っている。


「言い出したら聞かないんですよね……」

 立花は鬱金のための準備に取りかかっていた。



 結局鬱金は立花の秘書と護衛全員を引き連れてスカウトの旅に出ることになった。

 秘書官の話では鬱金の名前のプラス評価には勝てないが、立花のマイナスの評価を考えると色々難しいとのことだ。


 だが鬱金の考えている者たちなら、立花の評価はあまり関係ないか、むしろ高いだろう。

 軍人になりたい者が皆、名誉や評判を気にする訳ではない。鬼田平の話ではないが、仕事として戦争を考えるなら、立花は裏方の仕事は完璧。かなりやり易いはずなのだ。



 そんな訳で鬱金が意外に多くの者を集めてパウロニアに戻ってくるのは、色々な事情で予定よりも少し早くなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ