オープニング
暗闇の中をレーダーを頼りに飛んでいた立花は目的地を目の前にして機体を止めていた。
自分の目でも確認すると、進行方向の森には見慣れない武装の男達がウロウロしている。
目的地まではまだ距離があるし、服装を見ても味方ではないだろう。このまま突っ切ってもいいのだが、何だか胡散臭い。
「降りて進むか、戻って遠回りするかどっちがいい?」
立花は癖で後部座席のロブに話しかける。後ろのロブは少し落ち着きなく鼻を鳴らす。
「降りるか」
ロブの反応のどこを見て判断したのか分からないが立花は機体から降りて進むことにした。
降り立ったのは小柄な若い男だ。
胡桃色をベースに胸の部分が淡い緑色の軍服に黒いブーツ。黒髪で前髪が長く顔を隠してしまっている。
続いて耳のピンと立った黒い短毛種の大型犬が降りてくる。
周囲を警戒してから特に危険はないと判断したのか、怪我で片方しかない目で立花を見つめる。
一人と一頭が、人を避ける様にして進んでいると遮蔽物の多い岩場が見えてきた。
嫌な予感がする。
ロブも明らかに周囲を警戒している。とりあえず軍服と揃えの帽子を被る。
しばらく行くとロブが何かに気付いた様子を見せる。
その瞬間立花は銃声と共に側面から撃たれていた。
突き飛ばされる程度の衝撃はあったが、武装のおかげで無傷だ。
立花は射線上にロブが来ないように気をつけながら帽子で顔が隠れる様に下を向いて動き出す。
岩場は緩やかに包囲されている。やはり進行方向は人影が濃い。
続けて何発か撃たれるが、警戒しながら動いていた為、一発掠っただけだった。
そのままロブに合図を送り、全速力で別々の方向に走り出す。
側面の、わざと人の気配のする方に走り込み、間隔が詰まる前の人垣をすれ違い様に体当たりして走り抜ける。
岩場を抜けた辺りで方向を変え少し走ると、様子を見る為に隠れて立ち止まる。
微かに人の気配がするが、しばらくすると別の方に探しに行ったらしい。
目的地からは遠ざかっている為に、このまま歩いて進むか機体まで戻るか少し迷い、足音を殺して走り出した。
数分走り続け、方向を確認しようとしていると突然腕を引かれた。
「うぁっ」
思わず声が出たので慌てて声を殺していると、腕を取られたまま男にぶつかった。
見上げる立花と同じように、顔を覗き込んでくる。見下ろしていたのは壮年の体格のいい男だ。
薄明かりの中だったが、顔が見える。
顔見知りだった。
立花の小ぶりだが端正な顔立ちとは対照的な、強面だが落ち着いた雰囲気と優しげな目元が渋い男。
「鬱金様? どうしてこんなところに?」
「戻るのは諦めた方がいい。見張られています」
囁き合うような会話の結果、少なくとも敵ではないことを認めた立花は大人しく鬱金についていく。
立花と鬱金は三日前に初めて会ったばかりだ。その時に一週間後に会う約束をしたが、期限よりはだいぶ早い。
しかも立花がここに来たのは緊急の呼び出しで数時間前に決めた事だ。
立花に会おうとしていたのならここに居るのはおかしい。
鬱金がここに居る理由が分からずに困惑していると鬱金の物らしい機体に乗せてくれた。
「どちらへ?」
立花が行き先を伝えると鬱金は静かに機体を飛ばした。