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竜宮城  作者: 主
16/17

都襲撃

八雲に助けられた葛葉は近くにあった民家の屋根に落下した。


葛葉は自分の身体の状態を探った。かなりの高さから落下したにも関わらず四肢は健在、折れてもいないだろう。打ち所が悪かったのか、頭はボーッとする。目は虚ろで意識も薄い。身体の疲労は極限に達してはいるが、動く事は出来る。


(他の皆は何処?助かったの?生きているの?それとも……。)


最悪の事態が頭をよぎり、膠着していると民家の扉を勢いよく開く音が響いた。乱入して来たのは千鶴だ。葛葉が落下して来たのに気が付いて駆けつけたのだ。


「葛葉、良かった。生きていたのね。他の皆は?」


千鶴が生きていただけでも幸いだが、他の皆の事を考えただけで悪寒が走る。後を追うと言っていた虎之助も、自分を外に逃がした八雲も助かっているとは到底思えない。


「八雲と降りてきたんだけど……八雲は私を助ける為に……」


葛葉は八雲の最後の表情を思い出した。鮮明に残る映像の中、なんと八雲は笑っていたのだ。無骨で無愛想だったはずのもの彼の笑顔が頭から離れない。葛葉の瞳から一雫の涙が溢れた。


「ごめんね葛葉……私も残っていたら……」


千鶴は葛葉以上に涙に濡れていた。その事が葛葉を冷静にさせた。動ける自分がしっかりしなくては。そう考えて涙を拭った。


「いいえ。あなただけでも生きていてくれて良かったわ。それにまだ皆も生きているかもしれないもの。探しましょう」


都に突如鳴り響いた地響きは皆の心を震え上がらせた。窓から見えるのは竜宮城が崩壊して行く様子。空を見上げれば怒り狂う龍神の姿が映る。都中に悲鳴が立ち込めた。


千鶴と共に竜宮城の崩壊した現場に向かった。空の龍神に見つからないように歩き、最初に遭遇出来たのは睦月だ。彼は葛葉よりも先に降りていた事で無傷での生還を果たした。


残る二人は竜宮城跡地に着いても見つからない。葛葉は瓦礫の山に駆け寄って大声で二人の名前を叫んだ。


しかし何処からも返事は返ってこない。八雲はおそらく下敷きになっているだろうし、虎之助に至っては落下の衝撃で死に絶えているだろう。そんな事は分かっている。それでも僅かでも希望があるならば二人を探したかった。


必死で瓦礫を掻き分けていると睦月が深刻な表情で葛葉の肩を叩いた。


「葛葉、二人を探すよりも先に龍神の怒りを鎮めないと都が滅んでしまうぞ?」


「私には関係ないわよ!二人が居ないなんて考えられない!」


溢れそうになる涙を必死で堪え、闇雲に瓦礫の除去を続けた。そうしている間にも龍神は皆を探して都の街中を襲うかもしれない。


「……俺には母ちゃんがいる。千鶴にも両親がいる。八雲だって爺ちゃんがいるだろう?」


諭すように語る睦月を無視し続けた。


「いい加減にしろ葛葉!お前には妹が出来たんだろう?このまま放っておけばその子も死んじまうんだぞ!」


鈴音の笑顔が頭にチラつき、葛葉は手を止めて吠えた。


「じゃあどうすればいいのよ!あんなのに人間が勝てると思う?元々無理だったのよ!人間が怒りを鎮めるなんてーー」


怒りを鎮める方法は実の所一つだけ思いつく点がある。おそらく龍神の怒りを鎮めるにはそれしかないだろう。


熊との戦いで学んだ事。戦わずして解決するのだ。


つまり、もう一度龍神に舞を捧げるのだ。


だがそれは、同時に誰かが犠牲にならないといけなくなる。千鶴の母に頼むなんて以ての外だ。ならばどうする?


葛葉は必死で頭を悩ませて一つの結論に至った。


「千鶴、あなたの家には舞踊用の着物もあるわよね?」


「あるけど……まさか、葛葉が舞を捧げるなんて言わないよね?」


勘の良い千鶴に気付かれない筈もなく、即座に葛葉の目論見がばれてしまった。


「ーーそれしかないと思う」


「そんな……葛葉は良いの?自暴自棄になっているんじゃない?八雲も虎之助さんも生きているかもしれないのよ?」


葛葉は首を横に振った。


「大丈夫。私はさ、虎之助さんに拾われなかったら今生きていないの。だから私がやるしかないのよ。それとも他に良い案がある?」


千鶴も睦月も顔を伏せて考えていたが応えは返ってこなかった。考えている時間もない。憤怒にまみれた龍神が都の上空を飛び回っているのだから。


「そういうことよ。早速向かいましょう」


無理矢理二人を納得させて三人は呉服屋へ急いだ。


道中、辰二郎との合流場所に立ち寄り、龍神をおびき寄せるために楽器の手配を頼んだ。


千鶴に葛葉に合う衣装を見繕ってもらい、早急に着替えを済ませた。大太刀の代わりに呉服屋に飾ってあった一本の傘を拾い上げ腰に差した。


「葛葉……本当にやるのね?」


「勿論。それと、二人にお願いしたい事があるのだけどーー」


舞踊を捧げるにしても肝心の龍神に気付かれなければ意味が無い。龍神を誘き出して何処か開けた場所で捧げる必要がある。そこで葛葉が選んだ場所は竜宮城の次に大きな宮殿だ。役人以外立入禁止と前に言われていたが、この緊急事態にそんな事を気にする暇は無い。


二人にお願いしたい事とは葛葉の護衛だ。


宮殿内外にいるであろう役人を追い払う役目を担って貰う。


流石の葛葉でも丸腰の状態では厳しいと判断してのものだ。二人は葛葉のお願いに二つ返事で答え、足早に宮殿へ駆けた。


(こんな形でこの着物は着たく無かったなぁ)


葛葉は心の中でボヤくと、頬を叩いて気合を入れ直した。


ーー


宮殿には葛葉の予想していた通り何人かの役人がいた。しかし、鍛錬を積んでいない役人では千鶴や睦月の相手にもならない。


三人は邪魔をする役人達を蹴散らして宮殿の一番てっぺんに登った。道中見つけた小太鼓を叩き、龍神の呼び出しを始めた。


しかし、小さな太鼓程度では龍神の耳まで届かない。


続いて辰二郎が大太鼓を抱えて馳せ参じた。


「老人には荷が重いぞ。若い者が身を捧げるというのにこれ位しか出来んとはのぉ」


小言を言いながらも協力してくれたのは葛葉の思いを汲んでの事だろう。葛葉は苦笑いで応え、大太鼓を睦月に渡して再び龍神召喚の音頭を奏でた。


戦いの時以上に心臓の鼓動が早くなるのを感じる。もしも自分の舞が龍神に気に入って貰えなければここにいる全員は、いや都にいる人々まで殺されてしまうかもしれない。


葛葉は背中に感じる重圧を仲間達の笑顔を思い浮かべることで克服した。


やがて音に気が付いた龍神が宙を舞って寄ってきた。


龍神が視界に入るのと同時に舞踊を始める。見よう見まねで覚えた舞はどれだけぎこちなかっただろう。人知れず、見学して来た舞踊を思い出しながら練習した事はあったが、誰かに披露するのは初めてだ。


鈴音はどうやって踊っていただろうか?千鶴の母はどのような足運びだっただろうか?亡き母はどうやって踊ったのだろう。


葛葉は自分に出来る精一杯の舞を披露した。


その光景を龍神は黙って見続けた。初めは食い殺そうと近寄って来ていた龍神も葛葉の舞に興味を示したのだ。


何年も何十年も、あるいは何百年もの間毎年舞踊を見続けた龍神の目は確かだ。下手な舞踊では満足するはずも無い。そんな龍神が葛葉の舞に魅力されたのだ。


葛葉は腰に差した傘をも使い、ありったけの想いを込めて一晩中舞い続けた。


やがて朝日が昇る頃、ずっと黙ったままだった龍神が口を開いた。


「人間よ。見事であった。最初の一太刀はお主であろう?あれはわしを怒らせるに十分であった……」


葛葉は龍神の言葉に耳を傾けて舞を止めた。


「ごめんなさい……どうか私の身で怒りをお納め下さい」


腰を落として頭を深々と下げ、自分の出来る最上級の謝罪を行った。


すると龍神は最初に現れた時のように高らかに笑った。


「本当に人間は面白いのぉ!よい。それよりもお主の名前を教えよ」


「葛葉……です」


「葛葉か……良い名じゃな。葛葉よ、お主の舞は見事であった。わしの身体に傷を付けた事を許そう。正直な所嬉しかったというのもあるのじゃ。数百年振りの反乱じゃったからのお」


龍神はその小さな手で頬を掻き、明らかに恥ずかしげな素振りを見せた。神様らしからぬその行動に誰もが度肝を抜かれた。


「お許し頂き誠にありがとうございます」


「固い固い。もう良いのじゃ。最後まで残っておったあの男は納得せんじゃろうがこれからも貢物は要らん。毎年毎年増え続ける女子の世話が面倒になって来たからのぉ」


「え?今何と仰いました?」


龍神の口から出た言葉は完全に予想もしていなかったものだ。女子の世話をしている、と龍神はそう言ったのだ。


「じゃからの、龍神祭で捧げられた女達はわしが匿っておるのじゃ。人間なんぞ食べても美味しく無いわい」


葛葉は龍神が抜け抜けと発した言葉を直ぐには受け入れ切れず混乱した。


「そんなはずは無いですよね?私は去年あの場に居ました。あなたは女性を丸呑みしてーー」


「何といったかのぉ?<でもんすとれーしょん>とか言うやつじゃ。背に乗せて運んでいては格好がつかんじゃろう」


聞きなれない言葉を使う龍神は無邪気に笑い続けた。


「その言葉が真実なら……私の母を……八年前にあなたに捧げられた早苗という名前の女性を返してください」


「ほう?早苗は葛葉の母じゃったか。どうりで舞が上手いはずじゃ。良かろう。連れてくる事を約束しよう」


龍神は葛葉の願いを承諾すると、明後日の方向へ消えていった。


「龍神と争う必要なんて無かったんだな……お前達、すまなかったな……」


その声に後ろを振り向くと、そこには左肩から血を流し、日本刀を構えた虎之助が立っていた。

「虎之助さん!生きていたんですね!」

「あぁ、機会を見て首を落としてやるつもりだったがな……ちなみに八雲も生きているぞ。気を失っていたから置いてきたが」


虎之助の登場で皆の無事も分かった。全員の緊張の糸はそこで切れ、葛葉の意識は暗い闇の中へと沈んだ。


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