表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜宮城  作者: 主
1/17

プロローグ1

今年から作家を目指してます!辛口で構いませんので講評を頂けると嬉しいです

火の国。孤立した小さな島にある小さな国。


海を隔て、船を使わないとこの地に来る事すら出来ない。民は笑顔に包まれ、何百年もの間大掛かりな戦や、大規模な天災も起きていない。


その平和が長きに渡ってどうやって続いて来たのか、皆が口を揃えて言うだろう。


「龍神様のお陰」だと。


その為、他国の者が中に入り自分達の平和な日々を脅かす存在になる事を嫌う。それだけではない。非常に閉鎖的なこの国には他国に知られてはいけない秘密がある。


年に一度、見目麗しい女子が天高く聳え立つ竜宮城にて舞踊を披露し、龍神様に差し上げる人身御供となる龍神祭。この日ばかりは盗っ人達も行為に及ばず、皆一様に祈りを捧げる重要な催しなのだ。


神聖な催しを他国の者に汚されては堪ったものではない。鎖国の背景にはその様な内情があるのだ。


古くから、何百年も続いて来たこの風習は、今年も当然のように行われる。


卯月に行われる龍神祭が近づくにつれ、都の人々はこの話題で持ち切りだ。


今年の人柱は誰になるのか、今年はどんな演舞を披露するのか。自分達に白羽の矢が立たないのをいい事に、人々はクスクスと笑いながら歓談を続けた。


ーー


活気ある街中とは打って変わり、都から少し離れた山の中。辺りが雪景色に包まれる中、薄い着物と藁で作った羽織を着て寒さに震える十四歳の少女が一人。

自然が作り出した洞穴で暮らす彼女はこの時期を嫌う。


普段は、都に降りて人様の残した残飯を漁り、収穫が無ければ山の山菜を食す日々。都が賑わうこの時期は食べ物を漁る事が非常に困難だ。その上、雪が溶けて動物や草花が顔を出すまでは山の中で食料を探す事も難しい。


毎年この時期になると、近場に生えている木の皮を剥いで空腹を紛らわせてきた。


過酷な生活を続ける少女は孤児だ。言葉を覚えて間もない頃、母はこう言っていた。


「私の身体は龍神様の元へ捧げるけど、心はずっと側に居るからね。ずっと見てるからね」


母の名前は早苗。自慢の母親だった。


幼き日の少女は母が帰ってくるのを待ち続けた。だが、母が戻って来ることはなかった。


母がずっと見守ってくれている。それだけを信じ、出来るだけ人様に迷惑のかからないようにひっそりと暮らしてきた。


だが今年、梅見の時期に差し掛かった頃、少女の空腹は限界を迎えた。


生きる為、人を襲ってでもお腹を満たす為、少女は都に向けて山を降りた。


誰でもいい。食べ物を持っていそうな人を襲い、奪えばいい。少女は獣のように五感を尖らせて獲物を探した。


都から少し離れた街道に差し掛かった頃、食べ物の匂いがする暖かそうな着物を着た男が歩いてきた。


少女はガラ空きだった男性の喉元目掛けて正確に噛みつき、男の動きを止めようと機敏に動いた。


だが、男は片手で少女を払い除け、腰にかけた刀を抜き払い、まるで犬畜生を見るような目で少女を睨んだ。


奇襲に失敗した少女も臨戦態勢を崩さず、男の眼光に負けじと睨み返す。一時の間お互いの目線が交差した後、先に折れたのは男の方だ。刀を鞘に収め、冷静な口調で話しかけて来た。


「おいガキ、お前孤児(みなしご)か?」


少女は臨戦態勢を崩さず、獣のように喉を鳴らし威嚇した。空腹は限界を迎えているのだ。冷静に会話など出来るはずもない。


だが、男が刀を鞘に収めたおかげで少女の緊張も一瞬だけ緩んんでしまった。その瞬間、グゥーっと大きな音を立てて少女のお腹が鳴った。


その音を聞いた男は完全に警戒を忘れ、大笑いを始めた。一通り笑い終えると懐から小包を出し、少女に放り投げた。


「今はこんなもんしか無いがな。食べるか?」


その小包からは食べ物の香りがする。少女は不器用な手付きで無理矢理小包を引き裂き、中に入っていたおにぎりを黙々と食し始めた。


男は何も言わず、少女が食べ終わるまで待ってからもう一度同じ問いをした。


「お前孤児か?」


お腹一杯になった少女は、栄養の回った頭から発せられる罪悪感を思い出し、自分がやってしまった事を悔いた。


「ごめんなさい。あなたに襲いかかってしまって……。本当にお腹が空いていたのーー」


「いいから答えろ。お前孤児か?」


「ーーはい……」


少女のその言葉を聞き、男の顔には笑みが溢れた。


「ーー俺は国の役人だ。お前、うちの子にならないか?ちゃんと飯も食わせてやるし、暖かい着物も用意してやる」


少女は男の言葉が理解出来なかった。


今迄出会ってきた人間は皆一様に自分の事軽蔑していた。あるものは汚物を見るような目を向け、あるものは罵声を浴びせながら石ころを投げつけて来る。人間とはそんな生き物だと思っていた。


だが、この男は違った。自分を一人の人間として真っ直ぐな瞳を少女に向いている。少女の事を受け入れてくれたのだ。


男の言葉を理解するにつれ、少女の瞳には涙が浮かぶ。


「ーーありがとう。本当にいいの?」


「泣くこたぁねぇだろ?それにな、ただとは言ってねぇ。お前にはやって欲しいことがある」


「……なんでも構わない。私を一人の人間として見てくれるなら」


「そうかい?なら話は早い。お前、名前は何ていうんだ?」


少女は直ぐには答えず考えた。母が自分を何と呼んでいただろうか。母が居なくなってから誰も自分の名前を呼んでいない。思い出せないのだ。


口籠る少女を見兼ねて男が口を開いた。


「なんだ?名前がねぇのか?それならお前の名前は今日から葛葉だ。それでいいな?」


「……葛葉」


どこか懐かしいような響きのある言葉を反復し、少女は笑みを浮かべて承諾した。


「因みに俺の名前は虎之助って言うんだ。よろしくな葛葉!うちの家で身体を清めてからまともな着物を見繕ってやろう」


虎之助が葛葉に右手を差し出すと葛葉はその手を強く握り、握手を交わした。そのまま葛葉の手を引いて、虎之助は都へと歩き出した。


ーー


虎之助の家で湯船に浸かり泥や埃で汚れた身体を洗い流した後、葛葉に合う着物を探しに、都の中を案内された。


今迄は市場通りしか来た事が無かった葛葉の目には、どれも珍しいものばかり。


興味を引く建物を見つけては立ち止まり、何をしているのか虎之助に尋ねた。


例えば街外れにある鍛冶屋。役人の刀の整備を主軸とし、時には罪人の小道具の依頼すら引き受けるこの店は、虎之助からしても困った店だそうだ。


鍛冶屋の中では、鍛冶師の老人が熱い炉から溶けた鉄を取り出し、刀の成形を始めていた。抑揚をつけて金槌を振り下ろし、辺りにはカーンカーンと鉄の音が鳴り響いた。


今迄聞いた事もない音に驚くと同時に、熱心に取り組むその老人の姿に惹かれた。


その様子を見ていたのは葛葉だけではない。


老人の孫だろうか?自分と同じ位の年齢の少年が息を潜めて老人の技を見つめていた。


葛葉も少年と同じく老人の技を見つめていると、痺れを切らした虎之助が先を急がせた。


「珍しいか?こういう職人連中は基本寡黙な奴が多い。そのうちまた来ればいいさ。さっさと行くぞ」


まだ見ていたい気持ちはあったが、葛葉は虎之助に置いていかれまいと後を追った。


続いて向かったのは市場とはまた違った趣きのある通り。食事処や宿屋、湯屋や髪結処など、市場にある店に比べ、普段生活を送っていくにあたって需要の低い店々が立ち並んでいる。


虎之助が、道行く商人達にお目当ての店の場所を聞いて回り、やっとの事で辿り着いた。


子供用の、しかも高級感漂う呉服屋だ。虎之助に続いて店の中に入ると、壁や棚には美しい織物が綺麗に整頓されて並んでいた。


「いらっしゃい!呉服屋金次郎の店へようこそ!何かお探しで?」


「こいつの着物を見繕ってくれ」


虎之助に言われるまま、商人の男は葛葉の身体のサイズを目測し、少し考えた後、何か閃いた様子で店の奥へと消えて行った。


葛葉は自分が現在着ている服と見比べ、厚手でとても暖かみのある織物が、自分の身に余る物だと感じた。葛葉の気持ちなどつゆ知らず、虎之助は戻って来た店の商人と値切り交渉を始めていた。


「生地は上物ですのでこれ位は貰わないとーー」


「おっさん、俺は知ってるぜ?あんた税金をちょろまかしてんだろ?その分と思って少しは値引きをだなーー」


二人の交渉が熱を増していく中、取り残された葛葉は、店の外に設置された丸太を真っ二つに切ったような長椅子に腰掛け、通りを見渡した。


すると、呉服屋の影からひょっこりと顔を出している女の子がいるのに気が付いた。歳は自分より少し幼い位だろうか?小顔で髪を肩ほどで短く切り、背も自分より低い。彼女は葛葉の着ているボロボロの着物が物珍しかったようで、じっくりと観察してきた。


やがて葛葉に見られている事に気付いた女の子は、ペコペコと頭を下げてから店の中に逃げてしまった。


小動物に逃げられてしまった時の感覚に襲われ、葛葉は何とも言えない気持ちになった。


言葉を失い唖然としていると、ようやく中で行われていた交渉が終わった様子で、虎之助が表に出てきた。

「お前に合う服が無かったみたいでな。この店の主人の娘の服を譲って貰うことになった。古着でも問題は……あるわけないか」


虎之助は葛葉の着ている着物に目を向けて、これよりはマシだろうと考えたのだ。


勿論葛葉も文句などあるはずがない。虎之助に感謝の言葉を告げて、二つ返事で頷いた。


ーー


葛葉が呉服屋を出る頃には、新品同様の新しい着物を羽織り、裸足だったところを高級そうな下駄を履いていた。ぎこちない様子で歩く葛葉を見て虎之助はまたもや大笑いをした。


生まれて始めて羞恥心を感じながらも、葛葉は逸る気持ちを抑えずに、虎之助を引っ張って都の中を見て回った。


太陽が山の彼方に沈む頃、都の中に出来た大きな格子状の影を見て、後光に照らされて存在感を増す建造物に目を向けた。


「竜宮城っていうのよね?」


「そうだ。一番上に城があるんだが、そこで龍神に舞を披露してそのまま身を捧げちまうのさ」


葛葉は遠い昔の母の記憶を思い出した。湧き上がる憎悪を押し殺し、下界からは見えぬ城を目掛けて睨み続けた。


その横顔を見た虎之助は、ニヤリと笑みを浮かべ、懐に入れていた右手で握り拳を作る。


鍛冶屋の時とは違い、完全に日が落ちるまでその場から動くことのなかった葛葉の様子を、何も言わず待ち続けた。


やがて辺りの店々に灯りが灯り出し、夜の街へと風変わりした都は、仕事終わりの酔っ払いや、客引きの男達でごった返してきた。


「葛葉。そろそろ満足しただろう?帰るぞ」


「待って、あそこの女の人達は何?」


「あぁん?あれは……お前にはまだ早い」


遊郭や賭博場の立ち並ぶ通りの方。それも高級感漂う遊郭の一つを指さしていた。


好奇心を頭ごなしに押さえ付けられた葛葉は、膨れた顔を作って見せたが、虎之助はそれ以上何も言わずに家路に着いた。


興味をそそられる雰囲気ではあったが、葛葉は虎之助の元へ駆けて寄った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ