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スイとスズの世界征服  作者: 妄想ねこ
3/6

スイとスズの戯れ

 しばらく歩いて郊外に出てくると周囲に田園地帯が広がってきた。

 親に聞かされた話だけど、大沼市といえば昔はこの地帯を指していたらしい。

 今では都市開発が為されたわたしたちの住むいわば「新大沼市」のほうが大沼市として認識されている。

 道幅が馬鹿みたいに広くって何に使われているのかわからないような小屋がぽつぽつと見受けられる。

 時たまある赤い自販機にはコンビニでは見かけない古くさいデザインのコーラやスポーツドリンクたちが誇らしげに並んでいる。売り切れになっていないということは誰かが律儀に補充しているということで、つまりいまだに古いデザインのものが製造されているということなのだろうか。


 


 「う~ん。いい!!いいね。エモい景色になってきたよお~~~!!!!」


 スズさんが満足げに空に向かって叫ぶ


 「さっきから気になってたんだけど、あんたのそのエモいってのは何?」


 「エモいってのはね、言葉で説明できる概念じゃないんだよ。ネットで調べれば感情的とか物寂しい気持ちなんて出てくるけどね。でもそういう言葉にすると途端に陳腐に聞えちゃうような気がするんだよね。」


 なにか文化や独特の情緒に連れ添った言葉なのかな。


 「よくわかんない。」


 「うん、わたしも。」


 言ってスズさんははにかんで見せる。

 どこに向かっているのかも分からずにただ後を追うようにして進んでいく。

 段々と建造物の少ない景観になっていき、学校のみんなが放課後集まるような灰色の都市部に逆行するように緑色が増えていく。

 木造の家ばかりで、屋根は瓦だ。その家も進めば進むほどに一つごとの間隔が広くなっていく。

 道路は舗装が甘く、ところどころにコンクリートが荒れているのがわかる。

 誰からも祀られていないような祠がある。紙垂は破れていて、屋根の部分が苔に覆われている。当然お供え物なんてなく、なんともいえない侘しい雰囲気を醸し出している。

 都会の人々はこういった風景に憧憬を覚えるらしいけど、田舎としても都市としても中途半端な街で育った身からするとわざわざ好んで訪れたりはしない。

 だからこそこうして来てみると空気が綺麗だな、空が広いなと一応は思うことはある。

 けれど同時に(ひね)くれたわたしからするとこういう人口の少ない地域には独特のルールがあったり、そのせいでコミュニケーション能力の欠けた人にとっては地獄のように生きづらかったり、村社会ゆえに噂が広まるのが早くそれによって発生するいじめがあったりするのだろうなと考えてしまう。

 さらに歩を進めるとお約束と言わんばかりのいかにもな廃駅が姿を現した。

 無人駅で、そのサイズは非常に小さい。

 駅名の掛かれた看板は名前の判別がつかないほどに錆びているし蔦が巻き付いている。

 時刻表に目をやると今の時代からは信じがたいほどに少ない本数が掠れた文字で記載されていた。

 プラットホーム、なんて呼ぶのが憚られるほど簡素で線路の近くにバスの停留所がある、みたいな感じだ。

 線路は単線で列車同士の衝突を避けるための待避線が見受けられる。

 他には………と見慣れない光景に気を取れていると唐突に手を握られた。


 「ふふふん。ここからが本番だよ。っと」


 わたしの手を握ったままにスズさんが簡易ホームから飛び降りる。

 バラスト(砕石)がジャキと普段聞きなれない音を鳴らす。


 「スタンドバイミーごっこ、しよう。」


 何の脈絡もなくスズさんが提案してくる。


 「なんで?死体を探すなんて御免だよ。」


 「青春だからだよ。大丈夫、結局死体なんて見つからないんだから」


  線路の間にある枕木の上を歩いていく。スズさんが前でわたしがその後ろをゆく。


 「周りの女子たちは恋愛やカラオケやボーリングやファミレスこそ青春のあるべき姿だと思っているけどそれは絶対に間違いだと思うんだよね。恋愛は欲しいものを手に入れようとする欲求に過ぎないし、カラオケもボーリングもファミレスもただのビジネスだよ。こういうふうに、何もかも投げ出して周囲の風潮とか関係なしに自分の美しいと思うものをこの目で見に行く。これが青春だよ。」


 「語るね。」


 あ。スズさんの顔がみるみる赤くなる。自分でも熱いことを言ってる自覚はあったらしい。

 困ったみたいに眉を寄せてこちらを覗いてくる。


 「いじわる。」


 拗ねた子供みたいに声を漏らす。


 「どっちが正しい青春かは置いといて、わたしも、こっちのほうが好きだよ。」


 わたしの言葉を聞くとスズさんはぱあと表情を明るくする。

 何も言わない代わりにうんうんと頷きながら親指を立ててみせた。

 その表情を見たわたしはなんだか彼女のことを凄く可愛く感じてしまった。


 「なーつがすーぎーかーぜあーざみー♪」

 手と足を両方いっぺんに動かしながらずれた音程で某少年で時代な曲を唄うスズさん。

 露骨に鼻に掛けてるけどモノマネのつもりだろうか。似てないけど…………。

 しばらくするとこちらに振り返ると両手を後ろ手に組んで後ろ歩きのままこう提案した。 



 「ねえ暇だし暴露ゲーム、しようよ。」


 「暴露ゲーム?」


 「一人4つずつ嘘をつくの。でもその中にひとつ人に秘密にしたいような本当のコトを織り交ぜるんだ。それを当てられたら負け。」


 「秘密にしたいのにわざわざなんで初対面のあなたと」


 「ちっちっち。初対面だからこそだよ。わたしの持論ではなにが好きとかのプラスの感性で共感すると親近感が湧いて、人に知られるのが憚られるようなマイナスの感性に共感すると、本質的な人間性の部分で仲良くなれる気がするんだ。もし仲良くなれなそうなら別にそれでいいしね。クラスも違うんだしほっとけばいい。お互い秘密をバラす相手もいなさそうだしね。」


 そう言われるとそうな気もしてくる。

 しかし、わたしそんなに友達いなさそうだろうか。見た目はそんなにあからさまじゃない、と思うんだけど。


 「それにスイちゃんと仲良くなりたいしね。」


 思わず面食らう。

 こんなこと言われたのはいつ以来だろうか。恥ずかしげなく提案するスズさんの表情はまるで無垢な天使のようだ。


 「仲良くなろう、と言って仲良くなるのは、なんか違うよ。友達ってなろうと思ってなるものじゃないと思う。」


けれど、わたしだって年季の入ったぼっちだ。一筋縄でいかない。


 「およよ。」


 目をまん丸くされる。そんなに変なことを言っただろうか。


 「スイちゃんも、なかなか語るね。」


 さっきのスズさんの反応をトレースしたみたいに今度は自分の顔に熱が帯びていくがわかる。

 これは、ああ相当に恥ずかしい。自分の価値観を人に晒すのってこんなに恥ずかしいのか。

 教室で恋を語ってる人たちはいったいどういう気持ちで語っているのだろうか。


 「じゃあ言い出しっぺのわたしからね。」


 わたしが悶々としている間にもスズさんは自分の暴露を始めようとしていた。


 「嘘その1、わたしは未来人です。 嘘その2、わたしは宇宙人です。嘘その3、わたしは異世界人です。嘘その4、わたしは超能力者です。」


 「全部嘘。」


 「ぶっぶー。全部嘘じゃあルール違反になっちゃうでしょ?」


 じゃあスズさんはこの世ならざる存在だとでもいうのだろうか。

 とすると、超能力者かな。第六感とかだったらギリギリありえなくもない気がする。


 「超能力者…………かな。」


 「うーん、ざんねーん不正解。ESPもPKもPIも持ち合わせてないよん♪」


 勝ち誇った顔でにやにやしながら見つめてくる。

 よく考えたら何らかの比喩表現だったのかもしれない。額面通りに受け取りすぎた。


 「次、そっちの番ね。」


 う~ん人に知られたくないこと。知られたくないこと。と自分の中身を手探る。

 その中でふと指先に触れたものを嘘として混ぜ込む。


 「じゃ、じゃあわたしの。嘘1、実は女の子が好き。嘘2、小説家になるのが夢。嘘3、ドラマに出演したことがある。嘘4、オカルトに興味があって家の壁に魔法陣が描いてある。」


 声は震えていなかっただろうか。今が夏でよかった。額に汗が浮かび上がってくるのを抑えられない。想定外に鼓動が早まるのを感じる。

 スズさんは少し顎に手を当て思案する様子を見せた後、ビシイ!とこちらに指を向けて解を出した。


 「1番!!!!女の子のがしゅき!!!!」


 ………………。

 …………。

 ……。


「はずれはずれ!!なんでよりによって1番!?これだけは違うでしょ〜〜〜っ。」


 わたし、そういう風に見えるのか??


 「え~~~~~~~~~!!違ったか~~~。さっき耳赤くしてこっち見てきたのにっ。」


 からかうように言ってくる。その指摘でまた顔が赤くなりそうになる。いやいや、わたしそういうのじゃないし。耐えろ耐えろ。


 「まあ、3と4は違うだろうし2かな~。」


 当然の結論とばかりに2番──小説家を指摘してくる。


 「それは……いや、ダメだよもう回答権消費しちゃってるから。はいこのゲーム終了!」


 「引き分けだね。」


 と言って余裕ある表情を見せつけてくる。何なんだろうか、引き分けな気がしない。 


 「何か意味あったの?コレ」


 思わず訪ねてみる。互いに引き分け。毒にも薬にもならない時間つぶしに終わった気がする。


 「わたしにとっては大きな収穫があったよ。」


 「収穫って、なに?」


 「スイちゃんと少し仲良くなれた気がする。」


 そう言い放つスズさんの口角はにやりと吊り上がっていた。

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