表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

最終日です!

「真帆の浮気者」


 最終日。

 咲ちゃん、朝からすごく怒ってます!


「私の誘いを断っといて、倉橋さん達と学祭まわっちゃうなんて、ひどい」

「ええとえと、アレはえっと、流れというか、それで……」

「電話くれればいいじゃん」

「昨日はケータイ持ってなくて」

「有志発表バックレようかなぁ……」

「ごめん許して!」


 いきなり大ピンチです!


「ええと、今日も犬飼君達が変わってくれるみたいだから、その、一緒に回ろっ」

「え、ほんと!? じゃあいいよ!」


 ……咲ちゃん。


 こうして、最終日は咲ちゃんと一緒に学園祭を愉しむことになりました。

 犬飼君達には悪いけど……でも、楽しみです!

 でもでも……いいのかな?

 華さんみたいになるっていう目的があるのに、結局ひとに頼ってばかり……。


「あははは! お化け屋敷楽しぃ!」

「……」


 ……はぁ、悩んでいるのが馬鹿みたいに思えてきました。

 そこそこ怖いのに、なんで笑顔なんだろ咲ちゃん。


「あっはははは! これは夢ェ! 夢ェ!」

「咲ちゃん落ち着いて! 白目になってる! 白目になってるよ!?」


 全然大丈夫じゃなかった!!


 お化け屋敷から出た直後、咲ちゃんはふらふらと窓際まで歩いて、ずるぅぅっと倒れました。


「……大丈夫?」

「ごめん無理……怖がる真帆をからかう予定だったのに、うぅ……」


 バチが当たったみたいです。


「怖がるお姉さまをからかう予定だったのに、うぅ……」

「はーいはい、しばらく大人しくしてろー」


 あ、お隣さんも同じような……


「って、矢野さんじゃないですか」

「ん? あぁ、ちーっす」

「早いですね矢野さん。まだ始まったばかりなのに」

「このチビが騒ぐから」


 やれやれという声とは違って嬉しそうな矢野さん。

 やっぱりいいお姉さんです。


「……ぉ、ぉねぇ様と遊びたかったから」

「……分かる、分かるよ」


 なんか咲ちゃんと妹さんが仲良くなってます。

 くっついてる姿だけを見ると、姉妹みたいです。


「……そうだ、真帆と矢野さんで、もう一回行ったら?」

「お化け屋敷?」

「……そう。ほら、片方が怖がってると、片方は怖くないって言うし……今度こそ」

「咲ちゃん本音、本音出てる」


 たしかに、咲ちゃん見てたら怖くなかったけど……。


「……ぉねぇ様も、是非」

「やだ、たるい」


 髪をクルクルしながら外を見た矢野さん。


「……なに?」

「いえ、何でもないです」


 矢野さんとお化け屋敷……お化けより矢野さんの方が怖そう、とか言ったら怒られそうなので、お口チャックです。


「……ゃーぃ、ぉねぇ様の怖がり~」

「すげぇ死にそうな煽りだな」

「……ゃーぃ、真帆のお化け屋敷~」

「ごめん咲ちゃん、よく分からない」

「ゃーだゃーだ、ォバケ屋敷で怖がるぉねぇ様みたぃ~」

「ゃーだゃーだ、ォバケ屋敷で怖がるまおう様みたぃ~」


 ちゃっかり魔王呼ばわりされました。

 咲ちゃん、実は余裕あるんじゃなかな?


 ……ふむ。


「矢野さん、一緒に行きます?」

「……は?」


 うわ、なんか、すっごい睨まれました。


「……えぇと、さっきは咲ちゃんが騒いでて良く分からなかったので、もう一回行きたいなぁと」

「一人で行けば?」

「一人は怖いです」

「ゃーぃ、ぉねぇ様の怖がり~」

「ゃーぃ、矢野さんの怖がり~」

「は?」


 ……あれ? 矢野さん、なんかいつもと違うような。


「怖いから行きたくないんだ~」

「ぉねぇ様の怖がり~」


 わわわ、小学生みたいな煽りだけど、少し効果があるみたいです。

 矢野さんぷるぷるしてます。


「……早く来いよ」

「あはは、はい」


 

 矢野さんとお化け屋敷!



 こういう所で良く聞く笛の音と、薄暗い教室に、ブラックシートを照らす赤い光、先に入った人達の悲鳴……雰囲気ばっちりです。


「あんなくっつくなし」

「……だって」


 やっぱり矢野さんは平気みたいです。

 表情もいつもと……ん? 少し硬いような。


「おねーさん」


 あれ、ついて来てたのかな?


「……誰もいない」


 あれあれ、さっきはこんな無かったよね?


「おねーさん」


 今度は右からっ、矢野さんしか見えない!」


「おねーさん」


 正面っ!


 ……だ、誰か座ってます。気が付かなかった。


「矢野さん、知り合いですか?」

「知らねーし」

「そうですか……」


 じゃあ誰なんだろう。演出かな?

 あ、分かりました。

 これ声かけたら振り向いて、わーってやつです。ゾンビメイクです。


「おーい、迷子か?」


 あ、あ、矢野さんは気付いていないみたいです。

 ……ちょっと楽しみかも。どんな反応するかな?


 とんとんと肩を叩く矢野さん。

 振り向いた女の子は……やっぱりゾンビメイクでした。分かってなかったら悲鳴あげてたかも。


「……」

「あれ、矢野さん?」


 返事が無い。


「矢野さーん?」


 かたまってる。

 

 てくてく、ちら……ごそごそ、カシャッ。


 しばらく待ち受けにしましょう。

 あの写真の恨み、まだ忘れてませんよ……っ!


 それから……


「矢野さん、こういうの苦手だったんですね」


 ふふ、ダメです。笑いが堪えられません。


「……忘れろ」

「へ? あの、矢野さん、ちょっと待って――」


 やっぱり矢野さんの方が怖かったです!




 咲ちゃんに振り回されながらの学園祭。

 あっという間に時間が流れ、ついに有志発表の時を迎えました。

 ドキドキしながら迎えたステージ、照明が付いたと同時に咲ちゃんがマイクに向かって大声で一言。



「結城真帆のっ、お菓子作り教室ぅ~」

「聞いてないよ!?」


 アドリブで進めるという覚悟はしていましたが予想外です!


「いやぁ、1-Aイチエーの喫茶店好評ですね~」

「あ、そういうノリなんだ」

「マイクっ、マイク構えて!」

「わっ、ごめん。ええと、スイッチどこ?」

「もうついてるよ?」


 あははははははは


 ……す、すごいアットホームです。今ので笑いが取れました。


「さてさて、話題の魔王、じゃなくて魔法のクッキーですが」


 あはははははははは


「なんでも、彼氏と作ったとか?」


 ぶー、

 ぶーぶー、


「店長さんです!」


 お客さんと一緒に抗議です!

 咲ちゃん、調子に乗り過ぎ!


「あーそうそう、店長さん。なんでも、有名なパティシエなんだとか」

「そうだったの?」

「そうじゃなかったの?」

「……」

「……」

「とにかく特別なクッキーなんですよね」

「はい、まぁ」

「どうやって作ったの?」

「ええと、まずは普通にクッキーの生地を作って、そこに」

「愛情を入れたんだよね」

「いえ、ココアを」

「心を込めて作ったんだよね」

「はい、まぁそうですけど……」

「結城真帆が心を込めて作ったクッキー120円! よろしくお願いします!」

「なにも間違ってないのに辛い!?」


 じゅ、ジュース一本と考えれば……でもでも、最近は増税のせいで百三十円くらいします。

 うぅぅ、ジュースには勝てませんでした。


「じゃあ宣伝終わりー! ばいばーい!」

「え、あれ、終わるの?」

「だってネタとか無いし」

「でもでも、まだ持ち時間が……」

「じゃあ真帆が何かやってよ」

「え、私!?」

「どうぞ……」


 ま、マイクを向けられても……。

 ど、どうしましょう、すっごく注目されてる。


1-Aイチエーの喫茶店、よろしくお願いします!」


 有志発表おわり!

 やったこと!

 宣伝!


 ……よ、良かったのでしょうか?

 不安だけど、お客さんは喜んでいるようなので、よかった……のかな?


「大好評だったね!」


 舞台から離れた後、咲ちゃんが満面の笑顔で言いました。


「……そう、かな?」


 一般の人も受け入れている三日目の学園祭は大盛り上がりですが、舞台の裏にあるこのテラスは、少しだけ静かでした。


「なーに黄昏てるの?」


 ぼーっと遠い所を見ていたら、咲ちゃんが覗き込んできました。


「……結局、全然成長出来なかったなって」

「華さんみたいになるって話?」

「……うん」


 けっきょく、


「結局いろんな人に頼って、助けてもらって、自分だけじゃ何も出来なかった……」


 なんというか、全然ダメでした……。


「いいんじゃない?」

「……咲ちゃん?」

「たしかに華さんみたいに一人で何でも出来るのは憧れるけど、でも、真帆には真帆の良さがあるじゃん」

「……私の?」

「うん。誰かに頼ることは誰でも出来るけど、誰かに助けてもらうのは、誰でも出来るわけじゃないよ」


 ……咲ちゃん、なんだか大人です。


「私、使えない部員に頼み事されたら丁重にお断りするし」

「……咲ちゃん」


 台無し!


「で、学園祭どうだった?」

「まだ終わってないよ、咲ちゃん」

「私的には、あとは真帆とイチャイチャするだけだし」

「あはは……えっと、楽しかった」

「そっか」

「うん。自分のお店を持ったみたいで、なんだかドキドキしました」

「三日で閉店かぁ……」

「やめてやめて!」

「冗談だよ。そうだ、将来本当にお店を開いたら?」

「……そうしたいけど、でもでも」

「出来るよ! 真帆なら!」

「……ありがと」


 ……自分のお店、憧れます。

 まだまだ先のことだけど……そうなったら、いいな。


「そういえば、真帆は予定とか無いの?」

「ええと、四時からお菓子コンテストに……ああぁ!!」

「ど、どうしたの?」

「お菓子コンテスト遠くの県です! 新幹線です!」

「えっと……今何時だっけ?」

「……二時くらい?」

「は、走れば間に合うんじゃない?」

「ちょっと調べる……電車で一時間、徒歩で二十分……」

「ギリギリ……?」

「アウト……」


 完全に、忘れてました。


「どどど、どうしよう!?」

「大丈夫、ちょっとくらいの遅刻はセーフだよ!」

「でもでも、一度家に帰って、お母さんに電車代もらわないといけなくて、着替えも!」

「おおお、落ち着いて、えっと、そうだ、華さん! こういう時の華さんだよ!」

「う、うん!」


 ――結局、最後も華さんに頼ってしまいました。


 はぁ、全然ダメです。ダメダメでした。

 でも、分かったことがあります。


 やっぱり、お菓子作りが好きです。

 お菓子を食べて、美味しいって言ってもらえるのが嬉しいです。

 お客さんの笑顔を見るのが、何よりも楽しいです。


 でもでも、その為に何をすれば良いのかは分かりません。


『――これより、第17回高校生お菓子作りコンテスト、本戦を開始します』


 だから今は、目の前にあることを一生懸命に――頑張ります!

 ご愛読ありがとうございました。

 少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。


 おかげさまで、一年に渡って書き続けた洋菓子店の経営と残念な美少女事情を完結させることが出来ました。彼女達の未来は、読者様の数だけあるということで、どうぞ忘れないでいてやってください。


 それでは、また機会がありましたら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ