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喫茶店です!

 

 はぁ、緊張しました。

 なんとか無事に終わって、みんなも喜んでくれたみたいなので、良かったです。


 そして!

 ステージ発表が終わると、お昼休みを挟んで直ぐに各クラスの出し物が始まります。

 準備は昨日のうちに完了していたので、ご飯を食べた後は時間を待つだけです。


 机を積み上げて教室を二つに区切り、狭い方にはお菓子、広い方には誰かが持ってきた丸いテーブルが置いてあります。みんなは空いているスペースに友達と集まって、楽しそうに話しています。

 私は狭い方のスペースで、お菓子を数えていました。


「円陣組もうぜ!」


 誰かの声に反応して、広い方に皆が集まりました。

 男子も女子も一緒になって円陣を組みます。


「……えぇ、では僕が代表して」


 と犬飼君。


「魔王様! じゃなかった結城さんの美味しいお菓子を届けましょう!」

「「「おぉぉぉ!」」」


 なんだか少し恥ずかしい掛け声と共に、私達のクラスにとっての学園祭が始まりました。


 

 

 喫茶店ですが、注文を受けてからお菓子を作っていたら何時間も待たせることになってしまいます。なので、お菓子は昨日のうちに用意しておきました。


 店長さんと一緒に考えた、オリジナル……なんだろう。ふわふわしたクッキーで、猫さんとか熊さんとかの動物の形をしていて……。


「咲ちゃん、ちょっといい?」

「どしたの魔王様?」

「やめてっ! その呼び方やめて!」

「えー、大人気だよ?」

「……恥ずかしいよ」

「じゃあ、まほう様?」

「もっと恥ずかしい!」

「冗談冗談。で、どうしたの?」

「まったく……このクッキー、名前はどうしようかなって」

「名前かぁ」


 うーんとうなる咲ちゃん。私も一緒に考えます。


 ……ふわふわクッキー、ふわくき。ふわっきー。ふなっしー?


「……いやでも、このネタはもう古いからなぁ……」

「まだ古くないなっしー!」

「え、なに?」

「……なんでもない」


 古くないもん。


「今は特製クッキーだっけ?」

「うん。メニューにはそう書いてある」

「じゃあ、それでいいんじゃない? もう書いちゃったんだし」

「そうだけど、なんか、名前つけたいなって」

「そう言われても……真帆のクッキーだから、魔法のクッキーとか?」

「……」

「あー、なにその目」

「咲ちゃん、小学生みたいだなって」

「うっさい」


 咲ちゃんが拗ねちゃったので、名前は保留になりました。


「ところでキッカさんは? まだなの?」


 私達の喫茶店は、キッカさんが監督することを条件に営業の許可を得ることが出来ました。

 ということで、この三日間キッカさんが来てくれることになっています。

 というか、もう来てます。

 でも咲ちゃんは見つけられないようで、きょろきょろ。


「あそこだよ?」

「え、どこ?」

「ほら、窓際に座ってるよ」

「んん?」

「カーテンのとこ」

「……あ、ほんとだ。全然気づかなかった」

「もう、失礼だよ?」

「だって、いつもとオーラが違うというか……」


 たしかに、咲ちゃんの言う通り元気が無いように見えます。

 もしかして体調が悪いのでしょうか?


「Are you ok?(大丈夫ですか?)」


 犬飼君です。

 英語で話しかけています!


「I'm from Italy(今は話しかけないでください)」


 あいほん痛い?

 キッカさん、スマホ落としちゃったんでしょうか?


「この中にイタリア語を話せる方はいらっしゃいますか~?」


 犬飼君の呼びかけに、みんなは首を横に振りました。

 えっと、何でイタリア語?

 ……良く分からないけど、


「ちょっと行って来るね」

「あ、私も行く」


 キッカさんに近付くと、犬飼君がビックリした目をしました。


「……結城さん? まさか、イタリア語をっ!?」

「いやいや……」


 ないない、そんな感じに咲ちゃんが手を振りました。

 ……冗談? 無視でいいのかな?


「ええと、キッカさん、大丈夫ですか?」

「……ナーダがいない」

「日本語!?」


 と驚いた犬飼君が咲ちゃんに引っ張られて、キッカさんと二人きりになりました。


「ナーダって、店長さんでしたっけ?」


 夏休み、どこかでこんな話題があったような気がします。

 勘違いじゃなかったみたいで、キッカさんが頷きました。


「あの。店長さんに、何かあったんですか?」

「ううん、てんちょ、は、大丈夫、だよ」

「えとえと、じゃあキッカさんが元気ないのは……」

「……てんちょの匂いがしない」

「え?」


 ふと、どこかで見たことがあるような気がしてきました。


「……てんちょから、2キロ、離れる、と、不安に、なる、よ」


 分かりました!

 ダメな時の華さんです!

 

「ええっと――」


『あー、はいはいワロスワロス。みんなぁ~!? きっこえってるぅ~!?』


 生徒会長さんです。

 なんだろ今のマイクテスト。


『学園祭、第二ステージの始まりだよぉ~! さぁ! コンプリート目指してぇ~、ふぁいとだよ☆』


 ……よ、よく分からないけど始まってしまいました!


「ええと、キッカさん! 良かったらコレ食べてください!」

「……なに、かな?」

「はい! 店長さんと一緒に作ったクッキーです!」


 華さんも店長さんのケーキで少し元気になったので、きっと大丈夫です!


「……一緒に?」


 ……ええと、あれ? キッカさん、固まっちゃった。なんでだろ。

 うわっ、わっ、無表情のままクッキーにかじりついてきました! ちょっと怖いです!


「……ど、どうですか?」

「まだまだ、だよっ」


 な、なんだか不機嫌そうですが、ちょっと元気になったみたいです!


「えとえと、今日はよろしくお願いします!」

「ううん、帰る、よ」

「え?」

「約束は、監督、すること、だよ?」

「……はい」

「時間の、指定は、無い、よ?」

「……はぁ」

「監督、した、よ?」

「……なるほどぉ」


 ええと、何か怒らせるようなことをしてしまったのでしょうか?


「あれ、キッカさんどうしたの?」

「帰っちゃいました……」

「え? あぁ、仕事あるからかな?」


 そうだといいな。


「結城さん! 早速お客さん来たよ!」

「あっ、はい!」


 あわわ、もう始まってるんでした!


「それじゃ、働きましょうか」

「うん、頑張ろうね!」

 

 初日の前半、私と咲ちゃんは当番です。

 まぁ、私は全部当番なのですが。


 さてさて、お仕事です!


 広い方ホールに出ると、まだ始まったばかりにも関わらず、三組くらいお客さんが居ました。


「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか!?」

「おー、元気だねぇ」


 近くのテーブルに突撃しました。


「あれぇ、その声は……魔王様?」

「真帆です! そういうあなたは、生徒会長さん?」

「うん! いやぁ、あのステージ面白かったよぉ」

「ありがとうございます!」

「うんうん。私、学園祭が大好きでさ、お祭り中のお昼は、こういうとこで食べるって決めてるんだよねぇ」

「そうなんですか」

「うん。というわけで、オススメなぁに?」

「ええっとですね……」


 少しだけ、迷いました。

 

「オススメは、この特製クッキーです!」


 でも、店長さんにアドバイスをもらって、頑張って考えて、みんなも美味しいって言ってくれたクッキーです。絶対美味しいに決まってます!


「そっか、じゃあそれと……あとチョコレートケーキとオレンジジュースをひとつずつ」

「はい、少々お待ちください!」


 ……ふぅぅ、緊張しました。接客はアルバイトで慣れているはずなのに、なんというか、全然違いました。


 そっと他の人達を覗き見ると、楽しそうに接客をしていました。


 友達が来てくれてるのかな? 私も部活の皆に声をかけたけど、来てくれるかな。

 ……ええと、お菓子を用意しなきゃ。


 用意するといっても、クッキーとケーキは紙のお皿に乗せるだけだし、飲み物はコップに入れるだけです。

 スタリナでも似たようなというか、あっちはキッカさんが全部用意してくれるから運ぶだけなのですが……。


「どうぞ!」

「うん、ありがと。では早速……」


 私は会長さんを見ながら、ごくりと何かを飲み込みました。

 会長さんがクッキーを見ました。

 会長さんがクッキーを手に取りました。

 会長さんがクッキーを口に近付けました。

 会長さんが動きを止めました。


「……あの」

「はい! なんでしょう!?」

「そんなにみられると、食べにくいなー、なんて」

「ごごご、ごめんなさい!」

「いいよいいよ。それより、もしかしてこのクッキーは魔王様が作ったのかにゃん?」

「はい、そうです! だけどえっと、魔王様じゃなくて真帆です!」

「そっか真帆ちゃんかぁ~、なら真帆のクッキーで、魔法のクッキーだね☆」


 咲ちゃんが笑ったような気がしましたが、きっと気のせいです。


 あらためて、会長さんがクッキーを口に近付けました。

 私は出来るだけ気にならないふりをしながら会長さんの反応を見守ります。


 結果は――




 学園祭初日。

 校内に「一年の魔王様、じゃなかった、魔法のクッキーがやばいらしい」という噂が流れた。

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