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ステージ発表です!

 ついに、学園祭が始まります。

 演出の為か電気が消えた体育館の中で、私を含む千人くらいの人達がそわそわしているのかと考えると、なんだかとってもそわそわします。

 最初はこそこそ聞こえていた声も時間が経つにつれ徐々に聞こえなくなりました。


 あと何分かな?

 まだかな?


「みんなぁ! 盛り上がってるぅ!?」


 パンっという音と一緒に舞台の電気が付いて、マイクを持った生徒会長さんが大きな声で言いました。

 少し遅れて、後ろの方に居る三年生が「うぉぉぉぉぉ!」


「一年生元気ないぞぉ!」


 ご、ごめんなさいっ。

 でもこの空気で声を出すのは……。


「いえぇぇぇぇい!」


 ……。


「いえぇぇぇぇい!」


 会長さんすごい、めげない。


「……いえーい」

「その辺の子! ありがとう!」


 わっ、小さい声だったのに、すごく耳がいいです恥ずかしいです……。


「……いぇぇぇい」

「やめて咲ちゃんっ、やめてっ」


 こんな感じで、学園祭が始まりました。


 一日目は在校生の為の日です。

 開会式の後、直ぐにステージ発表が始まって、それが終わったら各クラスの出し物を見て回る時間になります。


 部活の先輩が「一日目が一番すいてるよ」と言っていましたが、私には関係ありません。ちょっとだけ寂しいような気もしますが、クラスのみんなと一緒にやる喫茶店、とにかく精一杯頑張ります!


 そのまえに!

 まずはステージ発表のお手伝いです!


「あ、真帆ちゃん。こっちこっち」

「はい!」


 先輩に案内されて、体育館の裏から調光室に入りました。体育館の裏側はテラスになっていて、舞台と隣り合う調光室に繋がっています。演劇部の部室だそうです。半年くらい学校に居て、この前のリハーサルで初めて知りました。びっくりです。


「はいこれ、台本っ」


 先輩から台本を受け取りました。

 ちょっと薄い本って感じです。

 管理は先輩達がしているから持って帰ったことは無いけど、何度か読む機会があって、話の流れくらいは分かっています。ただ、読む度に台詞が変わるのが少し不安です。


「あのあの、今更ですけど、本当に私でいいんでしょうか?」


 学園祭の直前に、部活の先輩に誘われたのがきっかけでした。三年生にとっては最後の機会だし、私なんかが参加してもいいのかなと不安に思っていますが、先輩は、決まってこう返事をします。


「真帆ちゃんしかいないの。大丈夫っ、多数決で決まったことだから自信持って! 満場一致だったんだよ!」


 どうして三年生の多数決で私の名前が出てきたのか気になりますが、今はそれを言っても仕方がありません。


「頑張ります!」




『むかしむかし、あるところに、お兄さんと、お姉さんが居ました』


 あ、真帆の声だ。眉をピクリとさせて反応した咲。

 

 ……まさかのナレーション担当かぁ、なんかい噛むかなぁ。


 リハの時は聞けなかったから、咲にとっても他の生徒と同じく初見である。

 マイクで届けられる声に合わせて舞台両側から同時に制服姿の男と女が現れ、中央に向かって歩き始めた。


 ……昔話か。お兄さんとお姉さんって……オリジナル? なんか嫌な予感する。


 高校演劇には大会がある。

 地区、県、地方、全国と徐々に規模が増すしっかりとした大会で、五十年以上の歴史を持っている。

 演劇の大会って何を競うの? と疑問に思う人は多いだろう。

 高校演劇の大会には吹奏楽における課題曲のようなものは存在しない。高校生が好き勝手に作った芝居を見て、審査員が主観的に評価するという、なんとも胡散臭い大会である。


 好き勝手にといっても、既成台本を使うことも許可されているから、良い台本を選び出せば自動的に劇の質は上がる。しかしながら、評価項目に台本に関する部分があり、同程度の芝居であったならば、創作、つまりは自分達で新しく作った台本を使った方が圧倒的に評価が高い。


 そんなわけで、高校演劇には創作脚本で大会に臨む高校が多々あるのだが……。


 ……ほとんど黒歴史なんだよなぁ。


 部活ですら黒歴史を量産するのが創作であるのに、それが学園祭レベルとなればどうだろう?


 ……ま、でもナレーション真帆だし、いっか。


 と、咲はニコニコしながら続きを待つ事にする。


『ある日のことです』


 ……ああ、この絶妙な棒読み具合と一生懸命頑張ってる感、すっごく可愛い。


 咲が頬を緩ませていると、周りから「ナレーションの子、声かわいいね」なんて声が聞こえてくる。

 あとで真帆に教えてあげようと思いながら、咲は続きを待った。


『お兄さんはトラックに轢かれて異世界に、お姉さんはイジメを苦に紐無しバンジージャンプをして、乙女ゲームに悪役として転生しました』


 思わず、咲はむせた。


 ……誰が考えたのこれ!?


 咲が心の中でツッコムと同時に、舞台に居た男女はその場に倒れ、同時に舞台は暗転した。


 ……どうなるの? 二十分じゃ絶対に終わらないでしょこれ。


『チート能力を使ってそれぞれの世界で成り上がった二人は、やがて魔王を討伐する為に第三の世界で出会うことになるのでした』


 舞台が明転すると、なにやら中世風の服を来た男が上手かみて(舞台の右側)から走りこんできて、何かを探すような仕草を見せた。やがて口元に手を当てると、大きく口を開く。


『お姉さん! 聞こえますか!?』


 ……やっぱり口パクかぁ……ん? なんか聞いたことある声だったな。


『聞こえたら返事をしてください!』


 あ、この声って真希先輩じゃん。

 すごい、声だけだと本当に男の人が喋ってるみたい。


『お姉さん!』


 下手しもて(左側)から中世風の服を着た女の人が……あれ、あの人最初に出てた人じゃん。

 すごい、着替えるの早い。


『ご無事で何よりです! あの光は、本当に何だったのでしょう……』


 女の人は黙って首を横に振った。


 ……お姉さんって名前なのかな? それともそういう関係なのかな?

 

 そんな風に咲が考えていると、今度は上手からドラ○エっぽい衣装を来た男が現れた。


 ……あれ最初に出てた男の人じゃん。すごい、はや着替えだ。


 中世っぽい男の人は、ドラ○エっぽい人を見つけると、一歩前に出て腰の剣に手を当てた。


『貴様っ、何奴』

『わ、我が名はお兄さん。リリルリリリリ王国の勇者だ』


 まさかの真帆!? なんで真帆!? よくラ行言えたねすごい!

 それと、お兄さんとお姉さんって名前だったんだ。


『聞いたことの無い国だな……貴様、ここが何処か知っているか?』

『いや、俺も来たばかりで、よく分からないんだ』


 やだこれ可愛い! 真帆が「俺」だって!

 ……さておき、真帆と先輩の共演かぁ。なんだか感慨深いな。というか、なんで真帆が三年の手伝いやってるんだろう。他の三年生は?


『ひゃっはぁ! 見ろよ、金になりそうな服着た連中がいるぜぇ!』


 先輩のゲスい声に続いて、下手から奇抜な服を着た男が現れた。


『ひゃっほぃ! ほんとじゃねぇか!』


 あ、もう一人。


「「「獲物ダァ!!!」」」


 全員集合!?


 その後、ヒャッハーな集団がお姉さん達を囲み、戦闘っぽい音楽と共に照明が暗くなった。

 臨戦態勢に入った三人は、それぞれ派手な剣を構えて腰を落とす。ヒャッハー達は、ダガーみたいな刃物を持って、舐めたりジャグリングしたり、なんだかノリノリ。


 ……ちょっと緊張感あるかも。


 やがて一人のヒャッハーがお兄さんに近付くと、お兄さんは迷わず剣を振った。それを受けたヒャッハーの武器がキンという金属音と共に宙を舞い、舞台に刺さった。


 ……え?


 驚く私を置いて、双方が入り乱れる殺陣の演技が始まった。


 ……どうしよう、音が本物にしか聞こえない。


 そして、色んな意味で殺伐としたシーンが始まる。まるで受験生が溜め込んだストレスを吐き出すかのように、激しく勢いのある動きが続いた。動きだけでは無く、謎の映像技術で魔法みたいなのが表現され、大変ファンタジーで、かつ手に汗握る殺陣が繰り広げられ、客席がどんどん引き込まれていくのが咲には分かった。やがて、勝負は敵の親玉っぽい人とお兄さんの一騎打ちになる。


 バク転などのアクロバティックな動きも取り入れた一騎打ちに、客席からは何度も声が上がった。果たして、ふらふらになりながらも勝利したお兄さんは、途中で倒れたお姉さん達に手を伸ばす。どうやら生きていたらしい二人は、その手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。


 共闘によって友情が芽生えたらしい三人は、それぞれ素性と目的を話した。そこで同じ魔王討伐の目的を持っている事を知ると、突如現れた妖精(cv真帆)に連れられて、魔王城へ向かうことになった。


 三人が舞台からいなくなった後、黒子達が無駄に豪華なパネルを持って下手から現れた。次々と組み立てられるパネルは、どうやら城の中を表しているらしい。


 パネルの組み立てが終わると、客席からは感嘆の声が漏れた。それに迎え入れられるようにして、豪華な服を来た女が上手から現れる。


 ……あれが魔王かな?


 女はゆっくりと下手側へ歩き、くるりと回って上手側へ歩く。また回って、舞台の中央に立つと、徐に両手で頭を抱えた。


『あわわわわわ、手下が皆やられちゃったよ、どうしよう』


 少し間が開いて、客席でドッと笑いが起こる。

 

 ……まさかの真帆!? しかもはまり役だよ! 違和感ない!


『魔王様! 敵が城に迫っております!』


 全身タイツの男が下手から現れ、魔王に跪いて言った(cv先輩)


『つよそう?』

『はい、すごく強そうです』

『じゃあ降参!』


 そして、舞台が暗転する。


『こうして、異世界は世界は平和になりましたとさ。めでたし、めでたし』


 ……え、終わり?


「ひゅぅぅぅぅぅうううう!」


 誰かの奇声を合図に、拍手喝采。


 ……確かに、面白いと言えば面白かったし、殺陣もすごかったけど、なんか、なんか……ま、真帆が可愛かったし、いっか。


 と無理矢理納得する咲の耳に、ふとこんな声が届く。


「……出落ちの連続だったね」


 そうだね、と咲は大きく頷いた。

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