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わたくし、結城真帆ですわ

 次の日、土曜日。

 更衣室。


「…………」


 矢野さんが笑いを堪えてる。

 すっごく堪えてる。

 ほんと、すっごく苦しそうな顔で堪えてる。


「矢野さん、何か面白いことがありましたか?」

「…………」

「わたくし、気になりますわ」

「……ムリっ、ほんと、ふざけんなよ……」

「失礼してしまいますわ」

「……おま、わざとやってんだろっ」


 矢野さんが笑ってる。

 すっごい笑ってる。

 ほんと、すっごく苦しそうに笑ってる。


「……なんか、言ってやれよ」

「何も言うことなんてありません」


 と華さん。

 眩しいですっ!

 大人の余裕です!


「妹が姉を慕い、模範とすることで成長する。素晴らしいではありませんか」


 良く分からないけど褒められました!

 やったぁ!

 ……でも、まだ妹のまま。

 もっと頑張らないと。


「ところで真帆、此方に向かって何か言ってみてください」

「ケータイに? お電話ですか?」

「思い出の保存ですわ」

「思い出ってか黒歴史」

「矢野さん、お静かに」


 華さんがキラキラした目で私にケータイを向けています。

 相変わらずお腹を押さえた矢野さんが、震える手でケータイを取り出しました。

 こっそり後ろで笑っていた咲ちゃんもケータイを構えています。


 ……これは、分かりますよ。

 ええ、分かりますとも。

 流石にもう覚えました。

 たまには、怒りましょう。そうしましょう。


「皆さん、わたくしを玩具にするのは止めて頂けませんか?」


 カシャカシャ。

 フラッシュです。


「……もぅ! いい加減にしてください!」


 諦めません……諦めませんよ!

 まだ始まったばかりなんですから!

 絶対、華さんみたいな頼れる大人になってみせます!




 バイト中。


「あはは、真帆ちゃんなにそれ」


 負けません。


「うーん、私はお姉さまじゃなくてお姉ちゃんがいいかな」


 まだまだ!


「お兄様……? おにいたま、でお願いします」


 まだ……まだっ。


「あははははは、真帆ちゃん、なにそれ、あっはははっはは……」




 学校。

 窓際で黄昏る私は、溜息を吐きました。


「……無理なのかな」


 私が華さんみたいな頼れる大人になるなんて、ムリだったのかな……。


 決意してから三日。

 早くも、心が折れそうです。

 三日坊主というのでしょうか?

 どんな坊主なんでしょう。

 鏡を見たら出会えるのかな?

 ……なるほど、三日坊主はみんなの心の中に居る、そういうことですね。

 何言ってるんだろ私。


「ねぇ、結城さん」

「……はい?」


 同じクラスの倉橋さん。

 今時珍しい三つ編みの女の子です。


「お願いがあるんだけど」

「なんでも言ってください!」


 頼られてます!

 私、頼られています!


「じゃ、じゃあえっと……今度の学園祭なんだけど」

「はい、なんでしょう!?」

「結城さんって、当番前半だったよね? 実は私、後半に用事が出来ちゃって……変わってくれないかな?」

「はい! もちろんです!」

「ほんと!? ありがとぉ!」


 手を掴み合って、ぴょんぴょん。

 なんか、これ、いいです。

 頼られてる感じ、すごくいいです!


「じゃあ、当日はよろしくね」

「はい、任せてください!」


 倉橋さんは手を振って、どこかに行きました。


「ねぇ結城さん」


 また声をかけられました!


「なんでしょう!?」

「次の学園祭なんだけど、有志の数が足りないの……結城さん、何かやってくれないかな?」

「喜んで!」

「本当!? じゃあこれ申請書っ! よろしくね!」

「はい!」


 すごい!

 なんだか、すっごく頼られてます!


「えっと、結城さん、ちょっと頼んでもいいかな?」

「はい!」


 またです!

 なんなんでしょう今日は!?


「例のお菓子なんですが、実は秘密裏にコンテストに出品しまして……なんと、入賞してしまったのです。その関係で学園祭最終日の午後四時から本戦があるのですが……出場、しませんか?」

「はい! 喜んで!」

「そうですか。では、そのように進めておきます」

「はい!」


 よく見ると犬飼君です!

 委員長にも頼られてしまいました!


「あの、結城さん」

「はい!」

「学園祭なんだけど、二日目の朝に用事が出来ちゃって……結城さん、その日は午後だったよね? 変わってくれないかな……」

「はい喜んで!」


 止まりません!

 夢のようです!

 ほっぺムニィ……痛いです! 夢じゃないです!


「結城さん」

「はい!」


 またしても。


「結城さんお願い!」

「はい喜んで!」


 またしても。


「結城さん!」

「分かりました!」

「ちょっと待ったぁ!」


 ……咲ちゃん?


「えっと、どうしたの?」

「いやいや、それはこっちのセリフだから」


 なんだか、頭を抱えています。


「困りごと!? だったら、私が!」

「アンタだから」

「え?」

「……真帆、どんだけ頼み事受けてんの?」

「沢山!」

「それ、全部出来るの?」

「……」


 途中からメモ張に書き込んでいたので、それを取り出します。


「……ど、どうしよう」


 一行目で、私は青ざめました。


「今からでも謝ってきたら?」

「でもでも、せっかく頼って貰えたというか、喜んでもらえたというか」

「……はぁ、じゃあどうすんの?」


 考える。

 いっぱい考える。


「どうにかします!」

「どうにかって……」

「大丈夫です!」


 出来る……違う、やらなきゃ。

 これくらい自分で解決できなきゃ、華さんみたいにはなれない!


「任せてください!」

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