助けてください!
学校はお昼まで。
終わった後、私は家に帰らずスタリナへ向かいました。
だって、大ピンチです……。
書類とか法律とか良く分からないけど、きっと店長さんならどうにかしてくれるって思って、それで、そういうことを言おうとしたんだけど、そしたら何だかキラキラした目で注目されて、勢いで「任せて」って言い切っちゃった……。
これでダメだったら皆悲しむよね……でもでも、店長さんなら!
と、お店に向かう途中でふと気付きました。
……まだ営業時間だ。
忙しいかな?
迷惑かな?
でも平日だから……たぶん、大丈夫!
「こんにちは!」
お客さんは……八人くらい。
大丈夫そう……かな?
「おー、結城、さん」
「キッカさん!」
レジの向こうにいるキッカさんと目が合いました。
私はダッシュで近寄ります。
「聞いてくださいっ、学校で、その、店長さんが、店長さんで、えっと、大変なんです!」
「てんちょ、厨房、だよ?」
「ええと、お邪魔しても大丈夫でしょうか!?」
「どんな、用事、かな?」
「大ピンチなんです!」
「……んん?」
なんだか伝わってない。
ええっと、つまり……。
「店長さんが大ピンチなんです!」
「っ!?」
やった、キッカさん真剣な表情になった。
「……どういう、こと?」
「書類が通らなくて、中止になるかもしれないんです!」
「……書類? 中止?」
「だからっ、えっと、店長さんに助けて頂きたくっ」
「ん? てんちょ、が、大変で、てんちょ、に、助けてもらう?」
「はい!」
「んん?」
あれ、やっぱり上手く伝わってない……?
「つまり……えっと」
「実は学園祭で喫茶店を出すのに必要な書類に不備があったんです」
「咲ちゃん!」
「その件で、プロの方に手を貸していただけないかなと」
「おー、なるほど、だよ」
やった、伝わったみたい!
流石咲ちゃん!
「てんちょ、呼んでくる、ね?」
「お願いします!」
ああよかった。これでなんとかなりそう。
「咲ちゃん、いつから居たの?」
キッカさんが見えなくなった後で、咲ちゃんに声をかけました。
すると咲ちゃん
「ずっと。まったく、無視されて寂しかったよ?」
「ご、ごめんね。いろいろ考えてて」
「いろいろ考えたら、店長さんが大ピンチだったの?」
「からかわないで!」
思い出したら恥ずかしくなってきた。
うぅぅ、考えてみたら、私って焦るといっつも失敗してる。
「そうだねぇ。真帆はまだお子ちゃまだからね~」
「うそっ、今の声に出てた?」
「うん。バッチリ」
「…………」
ダメだ。
このままじゃ、ダメだ。
今まで考えたこと無かったけど、今ハッキリと分かりました。
「私、変わる」
「ど、どうしたの?」
「大人になる」
「……うん、頑張って」
「笑わないで。私、真剣だよ」
「ごめんごめん。で、具体的にどうするの?
「具体的に……?」
「たとえば、目標とか」
目標……あの人みたいになる、そんな感じかな?
身近にいる立派な大人……。
立派ってなんだろ。
えっと、私と違って落ち着いてて、慌てて失敗したりしない人……。
頼りになって、それから憧れちゃうような人……。
そうだ!
「私、華さんみたいになる!」
「……やめてっ、笑わせないでっ」
「こほん。さき、わたくし、真剣ですのよ?」
「……ダメっ、苦しいっ、真帆が……わ、た、く……はははは」
……い、今はまだ面白いかもしれないけど……見ててよ、咲ちゃん!
私、華さんみたいになる!
華さんみたいに、頼れる大人になる!
「こんにちは」
「あ、こんにちは~」
ちょうど店長さんが来ました。
ええと、挨拶しなきゃ。
華さんみたいに……。
「……てんてんっ、お邪魔してるよ!」
言った瞬間、咲ちゃんが大声で笑いました。
咲ちゃん、そろそろ失礼だよ?
「結城さんが困っているという話でしたが……」
あれ、店長さんまで微妙な感じの表情に?
「……華と結城さんが入れ替わった?」
「いやいやっ」
咲ちゃんが突っ込みを入れる横で、小さくガッツポーズ。
やった、伝わった!
「真帆のことは置いといて、実は学園祭で喫茶店を出す為に書類が必要なんですが、そこに不備があって、だからプロの方々なら、どうすればいいかとか、知ってるんじゃないかなーと」
「……なるほど。そういうことなら、キッカさんが資格を持っているので、彼女が監督すれば問題ないと思います」
「本当ですか?」
「はい。キッカさん、お願いできますか?」
「うん、分かった、よ」
「ありがとうございます!」
おぉぉ、なんとかなったみたいです。
私、何も言ってないのに。
……ええっと。
「ありがとうございます!」