3.プリンを作る
決意を胸に翌日である。
魔法学院が終わった私は、早速市場調査をする為、家のある地区にある商店をはしごして回った。そこでわかった事といえば、基本的な調味料や小麦粉等の材料類はこの世界の物価を考えると、適正価格である事。果物類は運送の問題か、確かに高めに感じるが、庶民では手が届かないと言う値段ではないのだ。
「じゃあ、なんで御菓子が発展していないの?」
と言う疑問が生じるが今は気にしても、解る訳ではないので考えない。
続いて、形抜き等の御菓子造りの為の器具を金物屋へと見に行ったけど、これはよくよく考えれば、無駄足だと、直ぐにわかっただろう。何せ、御菓子がない世界だよ。それなのに器具だけあるとかないよ。
「ふ~む、材料は有るけど、調理器具が不足してるのか。...っと、なると、今ある器具で出来る御菓子を作るしかない。」
なにごともポジティブが大事である。調理器具がなくて作れないなら、今あるので作れるのを作れば良いのだ。
「そう言う訳で『プリン』を作ろうと思う。」
「なんですか、それは?」
プリンは現代に置いて、クッキーと並ぶ家庭御菓子の一種である。その種類は多岐にもおよぶが、オオソドックスな物は家庭でも簡単に作る事が出来る為、大人から子供まで幅広い層に人気がある御菓子だ。
語源は英語のプディングと言うのは有名な話しになるが、今は気にしても、仕方ないのでスルー。
本来ならカスタードプディングと呼ぶべき代物が、日本ではプリンなのだが、こっちでは纏めてプリンと命名してしまおう。何せ日本人ですからね、慣れ親しんだ名前の方が良いからね。
「プルプルの御菓子だよ。甘くて美味しいから、きっとリースも気に入るよ。」
「は、はぁ~?」
要領を得ないのか、リースが困惑の表情で私を見てるよ。まぁ、それも仕方ないかな。いきなり、知らない料理の名前出されて『美味しいよ』とか『作るよ』とか言われても、どう反応して良いかわからないよね。
「まぁまぁ、リースは見てて。」
とりあえず材料は準備万端。器具も代用品は見繕ったから、それっぽいのは作れるけど、パティシエールのプライドがあるからね、できるだけ完璧に作るよ。まぁ、今回は家族分だからそれほど量を作らないけどね。だいたい、入れ物がないよ。
まずはカラメルから、鍋に砂糖を入れ、砂糖の大半が浸るぐらい水を入れ、鍋を回す。鍋を回すって言うのは鍋を静かに動かして、味を均一にするって言うことらしい。それと、この世界の砂糖は上白糖じゃなく、グラニュー糖だったからそのまま使う事にしたよ
それを魔導コンロに中火で約5分煮詰めていく。沸々(ふつふつ)としてきて鍋縁辺りが褐色になってきたらカラメルの色を均一にする為、また鍋を回す。これを繰り返し、煙が立ったら火から離して、鍋を動かしてカラメルの色を余熱で変えていく。私は濃くない方が良いから、薄めで行こうかな。
「ああ、お鍋にお砂糖が焦げついてしまいます。」
なんだか、後ろでリースがハラハラとしてるけど、今は気にしない。あとでちゃんと片付けるから心配しないで良いのに。
カラメルの色を決めたらお湯を加えて、弱火で火にかけ、鍋底にこびりついたのを溶かす。
そして、あらかじめ出して置いた予備の器にバターを薄めに塗り、カラメルを注いでおく。
あとはプリン液を造って、味付けに御父様のお酒を少々拝借して、数的加えます。それを器に注いで、蒸し上げて行く。
中心部分がプルプルして来たら、火を止めて、更に余熱で10分程蒸し上げる。それを魔導冷蔵庫に入れ冷やせば完成である。
「あとは冷やしていけば、完成だ。」
「随分と手間がかかるのですね。それよりも、作り終えたならわかりますよね。」
「ええ、わかってるわ。夕食を作るまで時間がないから早く片付けなければね。」
思っていたよりも時間がかかっていたのか、時計を見ると、夕食の準備をする時間まで、あと少ししかなかった。リースの手も借りてなんとか間に合わせたけどね。
現状で出来うる限りのプリンを作った事もあり、私は終始ご機嫌でした。