16.パンケーキを作ろう 2
どうもこんばんは。雪月です。ちょっと、研修がありまして、投稿が遅れました。相変わらず2000文字ぐらいですがよろしくお願いいたします。
「重曹、ですか」
笑みを浮かべた私にベリちゃんはさも「それは何なのか」と視線で問いかけてくる。まぁ、この世界の人は知らないモノだしね。
さて、この世界のパン事情について説明したいと思う。
この世界のパンはとにかく硬い。物凄く硬い。岩かと言いたくなるぐらい硬いパンだ。
いわゆる、中世ヨーロッパで食べられていた黒パンと呼ばれる類いのパンで、時間がたったモノは凶器に使えそうな程硬くなる。
まぁ、学園や王都では硬くなりきる前に食べられるから、私は最硬度のパンを食べた事は無いけど。それでも、今回の旅行中に立ち寄った衛星都市で触る機会があったけど、アレは人が食べるモノじゃないよ。うん、でも昔はアレ食べてたんだよね。スゲェよね、昔の西洋の人。
まぁ、そんな事はどうでもいいんだけどね。さてそんなかで岩黒パンを作る際に重曹を含んだ水を使うとどうなるのか。
答えは少しだけふっくらパンになるんですよ。イースト菌を使った時みたいにはならないけど、重曹、炭酸水素ナトリウムは熱すると二酸化炭素を発生させる性質があり、その性質ゆえに食品に混ぜて加熱すると多孔質のサックりふわふわの生地が出来るのよ。まぁ、重曹でやると焼き上がりがどら焼きとかみたいな生地になるんだよね。
はぁ、ベーキングパウダーもそのうち作れないかな。重曹あるならベーキングパウダーも作れないかな、割りとマジで。
そんな話をパンのぐだりやら、ベーキングパウダーの話やらをはぐらかしながら説明して上げると、ベリちゃんも納得してくれたのか引いてくれた。
「...で、アリア。その重曹があるとふっくらするのはわかったけど、それでどんなの作るの」
リリスちゃんがズイっと顔を近付けてくる。いつもの無表情で鼻頭が着きそうなぐらい近づかれるとちょっと怖いんだけど。怖いから私は苦笑を浮かべながら、すすっと身を離し説明を続ける。
「うん、さっきも言ったけどパンケーキをね、作ろうと思うんだ。」
そう、パンケーキ。前回も言ったけどパンケーキ。みんな大好きパンケーキなのですよ。ふわふわなパンケーキに生クリームと蜂蜜をたっぷりかけて食べるパンケーキは、ま・さ・に至福!?。
そんな事をハイテンションでみんなに説明をしたりしてしまった訳だけど、幸いにも引かれる事なく、むしろパンケーキへの期待値がました感じだった。
「アリアがそんなに言うんだったら、よっぽど美味しいんだね。」
「それは楽しみ」
「早速調理致しましょう」
ああ、3人とも試食する気満々だ。
まぁ、いいや。とりあえず。材料をっと混ぜ混ぜっと。
少量の重曹水に小麦粉と砂糖と鶏卵を混ぜて生地液を作ったら、油を引いて熱したフライパンにお玉で掬って生地液を軽く流し込んでいく。
「生地液ですか?なんだかプリン液のようですけど、随分と粉っぽいですね」
「うん、なんだか美味しくなさそうな感じ」
失敬な。まぁ、気持ちは分かるけどね。パンケーキの生地液って粉っぽく見えるし、美味しくなさそうだもんね。ドロドロしていてまるで吐◯物...いや、止めよう。食べれなくなる。
フライパンに流し込んだ生地液はふつふつと気泡を出しながら、ゆっくりと生地を膨らませていく。ある程度膨らんだのを見計らってひっくり返すと濃い茶色の焼けた生地から立ち上る甘い匂いが鼻腔を擽る。
ああ、良い匂いと色合いだ。
生地が焦げ付かないように気をつけながらフライ返しを操り、パンケーキを仕上げていく。
「うーん....(なんだろう、この感じ。何かが噛み合ってない感じ...前にもどこかで)」
焼き上がっていくパンケーキを見ていると良い得ぬ感覚が沸き上がってくる。なんだろう、この感じ。前にもどこかで感じた事が......うーん、どこだっけ。
「わー、美味しそうだね」
「「「「「美味しそう!!」」」」」
うん、分かるよ。確かに美味しそうだ。
精霊ちゃんズ、テンション上げすぎだよ。少しテンションを下げようか。はぁ、とりあえず軽く生地の状態を確かめようか。
「はむ......モグモグ......うん、おい─ヅ!? 」
火を止めたフライパンをコンロから降ろしてから、生地を皿の上に盛り付ける。そのパンケーキ生地の端をちぎり、口の中にほおりこんで味を確める。
生地のシットリ感、ふわふわ感と確かな甘味を舌と口内で感じていると突如として渋みと苦味が味覚を襲ってきた。あまりの味に思わず私は口元を押さえ、慌てて水で流し込む。
ああ、びっくりした。
ええ、何で?何で、こんな味なの?確かな甘味の後にくるから普段なら問題ないような苦味でも酷い苦味として感じちゃったよ。でも、何でこんな味になったんだろ?
アリアは知らなかった事だが、重曹とベーキングパウダーは別物であるという事を。そして、重曹を使用するとベーキングパウダーを使用した時に比べると生地が硬く重くなり、味も苦味と塩辛さを感じる物になる。普通の洋菓子店ではベーキングパウダーを主だって使用するためにアリア―御堂 絢香は重曹が単なる膨らまし粉のような物と認識してしまったのだった。
うーん、どうしよう。
こうして、アリアのパンケーキ計画は振り出しへと戻ったのだった。
とりあえず来週には挙げられるかな。




