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白雪姫好きの方、ごめんなさい。

白雪姫

母親である前王妃がその誕生にさいし、庭に降り積もった雪のように真っ白な肌と、刺繍している時には指を指してしまい、その指から流れた血のような唇になるといいと願ったといわれる、美少女。

リスや小鳥と戯れるその姿は可憐で、幼い頃から近隣諸国の王族から求婚が後を絶たない。


そんな彼女が今、王妃の部屋の魔法の鏡に映し出されている。



『約束の時間も守れないのか、お前らは。』


慈愛溢れる、可憐な王女様。

そんな民たちの噂とは大違いの、硬く引き結ばれた表情に、人に癒しを与えるような柔らかなソプラノの声音に似つかわしくない言葉、そして、鏡越しに見える範囲だけでも分かるその身を包む迷彩柄の軍服。


あれぇ?

あまり、可愛い奥さんを除く人の容姿や装いに興味がないロークではあったが、その違和感ばりばりの白雪姫スノーホワイトには、ニヤついた笑みも引っ込み、首を傾げた。


「あわわわぁ、ごめんなさいぃ。

 ちょっと、先輩が来てましてぇ~。

 あっそうです。オウル様が元に戻れるんですよ、白雪姫スノーホワイト様!」

白雪姫スノーホワイトの映る鏡の前でペコペコと頭を下げていたベルテだったが、すぐにその顔に満面の笑顔を浮かべ、嬉しい報告をした。


『ふん。戻らずともいいものを。

 そうすれば、私が戻った暁には玉座につけるというものだ。』

『おい、おい。父はまだまだ現役だぞ?』

『義母上の実験の邪魔をして巻き込まれたなどという軟弱な王など、不要なだけだ。

 それに、私には王として行いたい政策が山ほどあるのだ。

 さっさと王位につけば、それだけ計画も早まるというものだろう。』


鏡の中に映る白雪姫スノーホワイトと、映っていないものの鏡の中にいるオウルの親子の会話は、聞いているものに戸惑いを生ませるに十分だった。

しかし、それを鏡の前のベルテはニコニコと笑ってみている。

ベルテにすれば、毎日交わされている親子のただの会話だった。


「ねぇ、ベルテ?

 白雪姫って今何処にいるの?城じゃないんだぁ」

たった一人の王位継承者。

白雪姫スノーホワイトの言葉を読み取るに、どうやら彼女は長い間城にはいないらしい。

大切に守られているはずのお姫様が、どうして迷彩柄の軍服なのか、城にいないのか、興味に駆られたロークは、ニコニコ笑っているベルテのつむじを突いた。

「止めて下さいよぉ、先輩。

 白雪姫スノーホワイト様ですか?

 今、毎年恒例のサバイバル訓練で魔の森に行かれてるんですよぉ。

 教官役の『七人の小人』さんたちにも気に入られるくらいに優秀なんですよぉ。」

ベルテがニコニコ良い子の笑顔で答えた言葉に、流石のロークも口を引き攣らせた。

魔の森は、魔獣が悠々自適に闊歩していることで有名な、古代竜を主としている広大な森のこと。ヘタな軍隊や冒険者、魔法使いが入ったとしても無傷で、いや無事に生きて出ることも難しいといわれているような場所だ。

そして、『七人の小人』。

これは、泣く子も黙る最悪の傭兵集団の名前だ。

立てば戦慄、座れば血の池、歩く姿は地獄の華 とその名を轟かせている七人の兵たち。

どうやら全員が全員ともに、人間を辞めているのか、人外の血を引いているのかは分からないが、ロークも何百年か前に今と変わらない姿の彼らと戦場でやりあったことがあった。

あの時は久しぶりに全力を出したし、久しぶりに自分の血というものを見た。

もちろん、負けたわけではない。

でも、勝ったわけでもなかったが。

珍しく最後には正々堂々と戦ってしまった、ロークにとっては若い頃のちょっと恥ずかしい話の一つだった。

そして何故か、そんな『七人の小人』とこのドジッ子魔女ベルテは茶飲み友達だったりする。

世にも奇妙な事実の一つである。


「私の結婚式の時に、招待した彼らを白雪姫スノーホワイト様に紹介したら、

 是非鍛えて欲しいって御自分で頼まれたらしくってぇ。

 それから、毎年この時期になると二ヶ月間サバイバル訓練をされているんですよぉ。」


『その通りだ。

 義母上には、良い教官を紹介して頂いた。

 おかげで、国を守る王として必要なものを多く得ることが出来た。』

『まぁ、そうだな。

 有事には先頭に立って、そして生き残らねばならない王族として必要なものは

 しっかり得られたよな。』


なに、この親子。

こんな王族、ここだけだよ。


ロークが知っている王族は、何カ国も、色々な時代も見てきたが、こんな過激な武闘派初めて見た。

そして、よく妹弟子ベルテはこんなところに嫁いだなとも思った。

どう見てもひ弱で幼い見た目に三歩歩けば何かにぶつかるという体質もあり、ベルテは生粋のインドアっ子だ。


『そういえば、義母上。

 面白い噂が流れているようんだぞ。』

そこで初めて、白雪姫スノーホワイトの口元が笑みを生み出した。

凛としたその様子に笑みが加わると、それは妖艶な雰囲気となり、王女というよりは女王という貫禄を生み出した。

「噂、ですか?」

「あぁ、僕もそれ聞いたよ、城下では笑いながら否定されたけど、

 王都から離れた辺りでは流行っているみたいだねぇ」

顔を引き攣らせていたロークだったが、白雪姫スノーホワイトが切り出した話題には込み上げてくる笑いを抑え切れなかった。


なんでも、私は継母に苛めれ、その美貌に嫉妬した王妃は狩人に命じて森でその命を奪ってしまうようにしたんだそうだ。

そして、哀れに思った狩人に逃がされた私は、森に住む七人の小人たちに助けられて、森で生活をしているのだと。



「・・・・・・・・・・」


声の端々に笑いの音を潜ませながら、その美しい声で紡がれたその話に、途中オウルの「ぶふぅぉ」という噴出す音も混じったが、ベルテはただ目を丸めて口を大きく開けて固まってしまった。


「お~ぃ。大丈夫?」

「っふ、えぇぇぇぇぇ!!!???」

笑いを堪えながらロークが突くことで、ようやく正気に戻ったベルテは城内に響き渡る程の大きな声で悲鳴にも近い驚愕の声を上げた。

しかし、ベルテによる、その手の奇行は珍しくもないことなので、城内に勤める人々は「あぁ、今日も王妃様はお元気ね。また実験かしら」くらいで業務の手を休ませることもなかった。

「な、な、ななな、何でそんなことになっているんですかぁ!!!」

『なにやら、昔から私に攻撃してきていた公爵家の次男坊が面白半分に流したようだな。

 あぁ、そちらは心配はいらん。長男殿と一緒に仕置きはしておいた。

 だが、娯楽に乏しい地方の民らは面白可笑しく広めてしまったようなのだ。』

そう報告して笑う白雪姫スノーホワイトの後ろに、ほんの少しだけ、樹に逆さで吊るされた少年とそれを鞭で突いている青年の姿が見え隠れしている。

「そ、そんな。私にそんなことできるわけないのにぃ」

「まぁ、そこん所は王都辺りの住人なら承知しているみたいだけど、

 地方となると自分のところの王様の顔も知らない民もいるんだしぃ?」

『まぁ、こちらから諜報部隊『狩人』に命じて事態の収終を図るようにしておいた。

 時期に噂も無かったことになろう。

 ただ、しばらくは何かと言ってくる愚か者もいるやも知れん。

 だから、義母上。

 大方が終わるまで、また、こちらに遊びにこられてはいかがか?』

「行きます!!!」

間髪も入れない返答だった。

『おい、おい。

 俺はどうしたらいいんだよ。』

「先輩に元に戻して頂いたら、またお仕事に忙しくなられるから良いじゃないですかぁ。」

ゴソゴソと部屋の中を駆け回り荷物を纏めていくベルテから、なんだか全国の仕事馬鹿な旦那様の耳が痛くなる言葉が放たれた。

オウルとベルテの結婚生活の大体を、ロークが別に知りたくも無いのに理解出来てしまった瞬間だった。


白雪スノーホワイト姫様。

 御土産にアップルパイ焼いていきますねぇ」

丁度、戸棚の中から熟したリンゴを3つ見付けたベルテは、鏡に映る白雪姫スノーホワイトへとリンゴを見せ、さっそくと王妃の部屋に特別に作らせたキッチンに向かっていく。

『森にあまり甘味が無い故、それは嬉しいが・・・

 義母上、前の二度程のドジのようなことは困る』

『あれは困るどころじゃないぞ、白雪スノーホワイト

 お前はベルテには甘いなぁ。』

「えっ、何?

 また、こいつ何かしたの?」

白雪姫スノーホワイトの言葉に動きを止めたベルテに一瞥をくれるローク。

『一昨年の差し入れは、身だしなみの為にと洗髪効果があるという魔法の櫛であった。』

『間違えて、諜報部隊『狩人』特性の猛毒を染み込ませた暗器だったんだよな。』

これは何とか早めに気づいた『狩人』たちが全速力で森に駆けつけ、使用直前に回収したことで事なきを得た。結果、『狩人』たちの半数が数日間寝床から抜け出せないという被害を生んだが。

『昨年は、少し厳し目の訓練で着る物が無くなった私の為にとドレスだった。』

『そっちのドレスは問題無かったけど、

 帯として持っていた物が毒竜の髭で、長い事手にしていると毒にやられていた。』

これは、薬物に詳しい『七人の小人』の一人が気づいて、自分の研究の材料として引き取っていったことで被害は無かった。

あるとしたら、それによって生み出された毒物で殺された標的たちくらいだろう。


「あららぁ。相変わらずなようで。

 もう、ベルテ。それって才能だよぉ?

 それか、暗殺狙いって思われてもしょうがないって言うか。」

「そんなこと、考えたこともありません!!」

「でもねぇ、

 その手に持っているリンゴも、熟したら竜とも倒すって言われてるやつだし。」

『・・・さすがに、そんなので作ったアップルパイは食べれんな。』

ころころと、ベルテの手から落とされて床を転がる毒毒しいまでに真っ赤なリンゴ。

『だが、教官が持ってきて欲しいそうだぞ、義母上。』


グス グス

ベルテは鼻を啜りながら、お泊まり用の荷物を纏めたカバンにリンゴを三つ、押し込んでいった。


 

シリーズとしては出来上がったら、ちょいちょい載せていこうと考えています。お待ちいただける方は気長にお待ち頂けたら嬉しいです。



一応、シンデレラ、白雪姫の後は

シンデレラの義姉たち編

白雪姫、婿捕獲編

白鳥の王女編

(王女と侍女が入れ替わって・・・)編←題名忘れました。

かぐや姫

人魚姫

などを予定しています。

それ以外でも、なんか面白そうなの見つけたらヤリます。

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