表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ランナー

作者: ダブル

人は何故走るのか?

目指すゴールまでただひたすらに走り出す…。

時に疲れては歩き、また顔をあげて走る。

苦しくとも自分の求めるゴールまで…。


昨今の我が国のランニング愛好者は800万人を超えそのブームは衰える事なく、愛好者が増加している

ある者は人生を懸けたトレーニングの為、ある者は

ダイエットの為、その目的は様々だが、自分の求めるゴールまで…。


今日もいつもと同じコースを1人の青年が走っている。

彼は…何を思い‥何故走るのか…。



いつもよりペースが早い気がした、イヤホンから流れる音楽も、乗り気にならないのは何故か?

その理由なんてわかりきっていた!!


それでも…。僕は今日もいつもと同じ時間に同じコースを走る。


家を出て直ぐにある池の回りを2周してから大通りを東へ向かって坂道を登る、坂道を登りきると下り坂が大きな川まで続く、その川に架かっている橋を渡り堤防を北に進めば大きな神社がありそこに咲く桜の木までの10㎞がいつものコースである。


このコースを毎日10年間、休まずに走っている。


往復で20㎞あるコースは今でこそ走れているが、走り始めた中学生の頃は苦しくて直ぐにやめてしまおうと何度も思っていた。


そもそも飽き性な僕が毎日このコースを走っているのには当然下心があるからで、メリットが無ければ

10年前の自分‥即ち中学生の頃の僕なら直ぐにやめようとしだろう。


家を出て大きな池に差し掛かった所で、その頃の走り出した理由を思い返していた。


あの日も、桜が咲いていた。


今から10年前、中学一年になったばかりの僕は、どのクラブに入ろうか迷っていた。

どちらかと言えば運動は好きではない。

かといって文化系のクラブも気になる事もなく。

帰宅部決定だな!!ってやる気もない僕はそう思いながらクラブ勧誘に走る先輩達を見ていた。

「なあ、部活どうするんだ?」

となりにいた小学校からの同級生が聞いてきた。

「別に決めていないよ・・・。」

そう言いかけて辞めた・・・。

13歳・・・。

思春期ってのはあるかも知れない。

一目ぼれ・・・。

人生初の体験だった。


「一緒に走ってみない?」


そう声を掛けてきた女の子、陸上部の一つ上の上級生だった。


思えばその瞬間から10年・・・。


呪縛にとらわれたかのように僕は彼女が好きだった。


いつものランニングコースである池の周りを二周目に入ってから、その事を思い出して少し笑えた。


半ば強引に友達を連れ、陸上部に入部した僕は、そのうち彼女のランニングコースを教えて貰えた!


それからだ・・・。


このコースを日課のように走るようになったのは・・・。


池の周りを二周走り終えると、大通りに出る、上り坂を東に・・。彼女の家に向かって走りだす。


そう。


中学の先輩。


よくあるいたって普通の恋愛パターンだ。


その彼女と中学三年間一緒に走っていた。


それがこの距離を克服させた一番の理由だろう。


「おはようございます!」


不意に声をかけられた。


すれ違いざまに最近よく見る女性が声をかけてきた。


軽く会釈をして、大通りに出た。


彼女の家を横目に見て、川の方へと足を進めた。


中学の頃と違い、今はもう彼女は家からは出てこない。


毎日往復20kmを走っていた僕は次第に陸上部でも目立つ存在になりつつあった。


地区大会でも上位に進出できるようになり、陸上競技。走る事が楽しくなってきていた。


そして一つ上の彼女の後を追いかけるように高校へと進学した。


「中学の時と一緒だね~」


毎朝いつものように一緒に走る時間が好きでずっとこのまま時間が止まれば良いと思っていた。


「また、神社の桜の木を一緒に見れるね」


高校三年間桜の木を見てはそう語っていた。


一つ年上の彼女は高校を卒業しても、今までと同じように僕に付き合ってくれた。


また一緒に桜を見る。


それは永遠に続く事だと思っていた。


川にかかる橋を越えて、神社までの道を走っていた。


そんな彼女との別れは僕の卒業と同時だった。


成績の良かった僕は、彼女の後を追わず・・・。


体育大学への進学が決まった。


だが・・・。


靭帯の故障により・・・。


今までのように走る事は出来なかった・・・。


そんな自分に幻滅した。


夢と希望・・・。


全てが水の泡に・・・。


気が付けば彼女との距離は遠くなっていた。


本格的にランナーを目指していた僕とは正反対に彼女は普通に短大へと進み・・。


趣味のランニングを時折こなしていた。


そしてたまにこのランニングコースで一緒になる。

  ・・・

そのたまにだけを走る糧に僕は走り続けた。


でも・・・・。


もうやめよう・・・。


それは先月の事だ・・・。


「私、結婚するの。式に出てくれる?」


僕にとっては死刑宣告に等しい言葉だった。


不純な動機で始めたランニング。


生きる価値を見つけた、彼女がいる事にひたすら感謝した。


でも彼女は僕を選ぶ事は無かった。


また、神社の桜の木の下にきた。


ここが中間点。一応のゴールだ。


ここで今まで彼女と色々な話をした。


将来の夢、好きな食べ物、異性、休日の過ごし方。


何かを知る度に彼女が好きになった。


でも言い出せなかった・・・。


何か・・・。


告白をするきっかけが欲しかった・・・。


でも怪我をした僕には・・・。。。


いわゆる・・・。。。


自信が無かった・・・。


年下だった事もあるかも知れない。


弱い男だった・・・。強くなりたい・・・。


桜の木のしたで・・・。


今日も一人涙が出そうになるのを堪える・・・。


でも・・・。


今日は、堪えきれない・・・。


彼女のいない時間を今まで知っていたのに・・・。


でもかすかな希望を胸に今まで走り続けてきたのに・・・。


きっといつか彼女が桜の咲く頃、僕に逢いに来てくれるんじゃないかと・・・。


そんな草食男子の都合の良い妄想・・・。。


そろそろ・・・。


終わりにしないといけない、そして彼女の幸せを祝福しないといけない・・・。。


桜の木の回りの草むらに僕は寝転がり、新しい自分と向き合おうと決心した。


淡い過去の恋と決別する事を心に誓い・・・。


そんな彼を見ていてもうどれくらいの時が立つのだろう・・・。


よく言えば純粋。


そう彼には幸せになってほしいものだ。


私は、少し休憩してまた走り出す彼を見送った。


私?


私はこの町の街神。


今日もこの町に住む人々を監視している。


それ以外にこれと言って能力は無い・・・。


でも。


応援することは出来る。


彼の幸せを祈って。


今日もランナーを見守ろう。


人は何故走るのか?


その答えは人によって違うのだろうけど・・・。


その答えを誰も笑う事は出来ない。


おっと!


次はいつものあの子を見にいかないと・・・。。


ランナーは今日も走っているからな。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ