10歳 「未来のわたしに今のわたし」
草っ原のむこうで、女の子が歩いている。
かのじょの名は大田 ユイ。今夏休みでちょうどお使いから帰って行くところだ。
「あー、お使いってめんどうだな」
買い物かごをうでで持ちながらブツブツ言ってるユイに何やらきらきら光る石を見つけた。
上と下がとんがってて、ちょうど片手で持てるくらいの大きさだ。
「何だろこれ。きれいな色。むらさきと青をたしたみたいな色ね」 そう言ってそれをつまんだら、いきなり大きな光を出した。
「きゃっ?!」
その光はだんだん人の形になり、シュウッと光が消えると、変わった服を着た自分とにた顔をした女の子がおどろきながら立っていた。
「!?」
ユイはおどろいている。そりゃ、自分とにた顔で変わった服を着ていればおどろくだろう。
「何っ?!だれよあんた!」
そうさけぶと女の子はこう答えた。
「大田・・・ユイ・・・」
それは、ゆっくりと小さな声だった。
(わたしと同じ名前?!もう意味分かんなーい!!一体これはゆめなの?!つねったらいたくないの?!)
頭の中が大パニックだったがそれを出さずに、今度はこんな質問をしてみた。
「じゃ・・・じゃぁ・・・何年の何月何日生まれ?!」
「2649年の・・・9月8日生まれ」
全く自分と同じなのに年だけがちがう。しかも2649年なんて自分がとっくに死んでる年だ。
「だから何なのよ~この子!2649年なんて・・・、この子だれなのよ~っ!?」
ユイの謎は深まるばかり。
「ねぇ、何才・・・?」
「11才」
「えーっうそ!?」
自分と全く同じとし。これじゃ全く意味が分からない。
そんなユイの目にさっきの石のネックレスが目に入った。
「こっこれどこで手に入れたの!?」
あわててその石をつかんで言った。
「さぁ・・・?この石、ここに来る前に拾ったけどネックレスにはしてないわ」ともう一人のユイは答えた。
「今度はわたしから聞くけど、今・・・、何月何日?何年?」
「何言ってんの!今は7月26日よ!2003年なの!」
もう一人のユイはびくっと来た。
「家に帰りたい・・・」
ぺちゃんとその場にすわって、なみだぐんでもう一人のユイはそう言った。
そんなもう一人のユイに、ユイはかけよってこう言った。
「大丈夫!わたしな何とかしたげる!」
ユイはそう言ってもう一人のユイのかたに手をやり、
「わたしもユイって言うんだ!よろしくね、ユイ!」
ニッコリ笑ってそう言った。
しかし、うで時計を見て、「やばっ!もうこんな時間!怒られちゃうよ!走るよ!」ともう一人のユイの手を引いて言った。
「たっだいまっ」
ハァハァ言いながらユイは言った。
「もう!こんな時間まで何してたの!」
「ごめんごめん!ねぇお母さん!今日の夕ごはん何?!」
「カレーライスよ」
「やった!じゃ、わたしのへやに持って来といてね!」
そう言ってダンボールの中にもう一人のユイを入れて二階へかけ上がった。
「フーっ!何とかバレなかったみたいね!」
「ごめんね。わたしのせいで・・・」
「いいって、いいって!」
そんな会話してる時に、お母さんが下から声をかけた。
「ユイーッ!お友だちがいるのーっ?!」
ユイはあわてて、
「うっううん!テレビ見てるだけだよ!アッアハハッ!アニメはおもしろいなっっ!!」
「そう・・・ならいいけど・・・あんまり近くで見ないようにね!」
そう言ってお母さんは台所にもどった
「あー、やばかったっ!本当にバレるかと思っちゃった!」
「うん!わたしもびっくりしちゃたぁ」
二人はそう会話しているうちに夕ごはんになった。
「おまたせ!」
ユイは夕食をおぼんにのせて自分のへやに入った。
「何、コレ」
もう一人のユイはふしぎそうに見ている。
「カレーも知らないの?ハイッ!このスプーンで食べるのよ!」
もう一人のユイはまだなやんでいたがパクッと一口食べた。
すると、
「おいしい!」
「でしょー?うちのおかあさんのカレーすごくおいしいのよ!」
得意げにユイは言った。
そして、おふろの時間になった。
「行くよー、せーの」
お母さんがよそ見をしているスキにユイはもう一人のユイをダンボールに入れて引っぱった。
「ふーっ。セーフセーフッ」
「やばっ・・・かった・・・ね」
ゼェゼェ言いながら二人は話した。
「あっ、ちょっと待ってて、着替え持ってくるから!」
ユイは自分のへやにかけ上がった。
「・・・」
もうひとりのユイは変な気分で待ってた。
(わたし、どうなっちゃうんだろう・・・)
本当は不安でいっぱいだった。ユイにめいわくをかけないかとても心配だった。
もう一人のユイの目からなみだがあふれた。
「おまたせっ」
ユイは元気よくニッコリとわらった。しかしもう一人のユイを見て、「・・・泣いてたの?」と聞いた。もう一人のユイは、「うっううんっ、別に泣いてなんかっ・・・」と、そでで目をこすりながら答えた。
ユイはもう一人のユイのことをこう思った。
(この子・・・)
おふろからあがった。
「あっ、あなたの着替えも持ってきたからっ。ずっとそのかっこうじゃいやでしょ?」
ユイはそう言ってもう一人のユイに服をわたした。
「あっありがとう・・・」
そして、次の日。
「ジリリリリリリリリリ」
「うぎゃっ!」
もう一人のユイは目覚まし時計の音でとびおきた。
「んー?わっやばっ、もうこんな時間っ!ユッユイ!待っててね0っ!」
ユイはそう言って外に出た。
もう一人のユイがまどをのぞくと、神社でたいそうしているのが見えた。
「何してるのかな?」
ユイは首をかしげて言った。
「ただいまっ!」
ユイは元気よく自分の部屋でかけあがった。
「ねぇ・・・、さっき何してたの?」
もう一人のユイがユイに聞いた。
「えっ、あれはねー、ラジオたいそうだよ」
「えっ!?ラッ、ラジオたいそう?!」
もう一人のユイはよく分からなかったが、どうやら朝早く起きて神社へ行ってたいそうしに行き、ハンコを毎日一つずつもらうらしい。
「へぇ~、この世界は大変ねぇ」
「まぁね!けどね、すごくおもしろいところだよ!そっちの世界はどう?!」
「んーと・・・」
もう一人のユイは少し考えてやがてこう言った。
「んー?例えば・・・、自動家事機とかー。空の上に行ける風船とかー」
ユイはおどろいた。
「うわっ!すごい世界だねっ!いいなー。わたしもそんな世界へ行きたいなー」
けどもう一人のユイはニッコリして答えた。
「ううん。この世界もいいよ。だってユイみたいなやさしい人がいるもん!」
「ユイ・・・」
ユイはじわっとなった。
「しょうがないなーっ。これからもここにいていいよーっ!」
ともう一人のユイにだきついた。
そして、ユイは時計を見ると、
「うわわっ!やばい~っ!もう9時~?!」
ユイは急いでランドセルからノートとえんぴつを出して来た。
「何してるの?」
「えっ何ってぇ、宿題だよ?」
またまたもう一人のユイが考えこんでしまった。
「家で勉強することだよ!」
とユイは答えた。
「あーっ!それですか!けど、わたしのところはそんな紙に書かなかったよ!」
もう一人のユイは思い出したかのように、言った。
「じゃあ、どんなことしたって言うの?」
「えーと」
「えーと?」
「たしか~、本書いたり~、車を作ったり~、世界地図を書いたり~」
「・・・、少し紙書くじゃな・・・、えーっ!?しょしょ小学生でこんなことするのーっ?!」
「うん。毎年。もうなれました。そう考えるとあなたのほうがかんたんかもね」
もう一人のユイはニッコリ答えた。
(ユイ・・・。やっぱり、本当に未来から来たのかもしれない。けどどうして・・・?)
「あの・・・ね?ユイ・・・。あなたって・・・、あなたの世界ではどうくらしてた?」
おそるおそるもう一人のユイに聞いた。
「・・・。えーと、そりゃぁ、友だちと遊んだり、勉強をしたりとやってたけど」
「ならどうしてこの世界に送られて来たのかな?きっと何かあると思うんだ」
「同じ時にこの石を拾ったからっ?」
もう一人のユイは手でその石をさわりながら言った。
「そんなまさかーっ、石が人を選ぶわけないじゃーん!」
「やっぱそうだね」
二人のなやみはふえるばかりだ。
どうしてもう一人のユイがここに来たのか。
どうしてユイが自分が拾った石と同じネックレスをしてるのかなど、いろいろあった。
けど、ユイは、帰れなくて悲しんでるユイをいつもはげましてあげた。まるで、自分で自分をはげましているかのように。
そして、明日が夏休み最後になった。
「ねぇ!明日どっかいっしょに出かけない!?」
ユイがもう一人のユイに聞いた。
「えっ、けど、ばれないかな?」
「平気平気!んじゃ、明日のためによーくねとくんだよ!お休み!」
そう言ってユイは元気を消した。
次の日。
「えーとぼうしをかぶせて、チェックのズボンと、Tシャツにポーチで、ん!これでもうにてるなんて思わないわね!さぁ行こう」
ユイはもう一人のユイの手を引いて行った。
「うわぁぁ」
もう一人のユイはおどろいた。
「さぁ!今日はいっぱい遊ぼう!」
ヨーヨーすくいにたこやき・・・おこのみやき、しゃてき・・・どれもたのしそうだった。
(なんだ。結構たのしそうじゃん。)
そして、二人が出会った草っ原で休んでた。
「ハァーっ!面白かったでしょ!これがお祭りって言うのよ!」
「ええ。すごく楽しかった!けど、わたし、1コもヨーヨーやスーパーボールがとれなかったわ。わたしってヘタだなーっ」
「あははっ!そのうちなれるよっ!」
二人がしゃべってるともう一人のユイのネックレスが光り始めた。
「!!!」
二人はその石に目をむけておどろいてた。
もう一人のユイはユイのほうにゆっくり顔を受けてささやいた。
「お別れのときが来たようですね」
ユイはハッとした。
「・・・ねぇ・・・また・・・会え・・・るよ・・・ね?」
「分かりません・・・。きっとこの石が教えてくれるでしょう」
「ハイこれ!」
ユイはもう一人のユイに自分のヨーヨーやスーパーボール、しゃてきの商品をわたした。
「・・・!ありがとう・・・ございます」
二人は石に手をやった。ユイが
「じゃ!また会うときまで!」
もう一人のユイも、
「えぇ!また会おうね!」
二人は、もう一人のユイが消えるとき、同時にこう言った。
「もう一人のわたし」
「あっ・・・」
ユイは小さな声で言った。
すると目の前にあの石が落ちてた。
「う・・・」
ユイの目から涙があふれた。まるで、大つぶの雨のように。
「何がさよならだよぉ・・・何がありがとうだよぉ・・・。悲しいじゃっひっく・・・ないかぁ・・・」
ユイが泣いているとどこからか声が聞こえてきた。
「ユイ・・・ユイ・・・」
それは、なつかしくてとても温かい声だった。
「泣かないで・・・、ユイ・・・、わたしたち、どんなにはなれても、友だちだから・・・。友だちの印に・・・その石を拾って・・・」
ユイは石をスッと手を出して拾った。
「もう大丈夫・・・。これで、友だちの印だから・・・。いっしょにわらえなくても、しゃべれなくても、その石があるかぎりずっと友だちだから・・・、それをわすれないでね・・・」
やがて・・・、声は聞こえなくなった。
「ユイ・・・。うん!もう泣かないっ!」
あれから数年たった。
ユイはもう一人のユイの服を持って・・・こう思った。
(ユイ・・・。また・・・会えるよね?!)
これでお話は終了。えっ、二人は会えたかって?それはまた別のお話。会える機会があったら話しましょう。