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恭平から電話のあった日から一週間が経った。
「はーすることないやることない楽しいこと何にもない!」
俊也はため息をついた。
彼は学校にいた。彼は今学校にいて、お昼の時間を過ごしている。
しかし彼の頭の中は、だいたい恭平の問題で占められている。「おかしい。あんまりにもおかしい。やっぱりおかしい。おかしすぎるだろ。まあとてもじゃないけれども信じられん。異世界? 異世界ってなんだ。あいつマジで異世界に行ってしまったというのか?」
教室を見渡してみる。
みんな机をいい感じに合体させて、お弁当を食べている。やっぱり今はお弁当を食べる時間だ。そしてこれからこのお昼の休憩時間を挟んで、午後の授業が始まるのだ。
俺だって今お弁当を食べている。
お母さんが作ってくれたお弁当!
今日はウインナー二本でご飯をすべて平らげたよ! あとは残りのおかずを食べるだけさ。するととたんにまた俊也の頭にこういうことがよぎった。「ところであいつこねえな。マジでこねえじゃねえか」
恭平は、本当にあの電話の会った日から本当に学校に一度たりとも姿を見せていないのであった。
なぜか。
心配になって彼の携帯電話に連絡してみたり、家に直接行ってみたりしたが、どうやらどこにもいないらしい。彼の親も彼のことを心配して、あれこれと行動を起こしているらしいけれども、彼は見つかっていない。
マジなのか。
あいつマジでその異世界とやらに行ってしまったのかよ。
マジか。
異世界ってなんやねん。どこやねん。異世界ってどこにある世界のことやねん。
っていうか実在すんのか。
異世界って実在するもんなのか。
弁当を食べ終わった。いつもならすぐに恭平のところへいくか、彼がこちらの机までやってきて、ぺちゃくちゃと話をしたり、昼休みにどこか出かけたりするのだけれども、彼がいないとなるとやることがない。
俊也は再び思う。
「あーあいつマジで異世界に行ったのかよ。異世界ってどんなところ? どんな料理があるの? どんな料理があって、あと服とかもどんなものを着ているの?」
たとえばほかの友達のところへ行ってみても、何かしっくりとこないのである。当然クラスメイト達も、恭平の失踪じみた今回の欠席のことをいぶかしがっている。
だってあきらかに変だろ。風邪だとしてもこじらせすぎ! 一週間も風邪で休むなんて、まさか恭平君いきなりひきこもりになっちゃったとか?
ひきこもりになって何をしているんだろう。
一日中ネットとかゲームとか?
何か嫌なことがあったのかしら? それとも私たちの知らないところでいじめとか? え、恭平君って誰かにいじめられていたの? いじめられるような子にはとても見えなかったけれども。世の中何があるかわからないものねえ。ああ怖い怖い。私たちも気を付けないと。
そんな謎の憶測がとんでも仕方がない。
そんな謎の憶測がとんでも仕方がないのだぞ、恭平!
「はあ、でも本当にこなくなっちゃったな」
だらだらと机にほっぺたをくっつけて、適当にため息をつきながらただ時間の過ぎていくのだけを待っていると、俊也に声をかけてくる者があった。
「ちょっと顔かしてくれないかな」
同じクラスメイトの豊中という奴だった。下の名前は何だったっけ? 覚えていない……
豊中についていくと、あまり人通りのない階段の踊り場に連れてこられた。
「何? 何か用?」俊也が言う。
「恭平のことだけどさ」
恭平か。
「ああ、恭平がどうかしたの?」
「噂では引きこもってるってきいているけど」
「引きこもってるのかな? わからん」
「わからんことないだろ。君が彼の一番の友達じゃないか」
「友達だけど、わからんことはわからん」
「そうか」
残念そうに豊中が言う。「でも俺は、もしかしたらこれが原因なんじゃないかな、と思っているんだけれども」
「これって?」
「これさ」
そう言うと、豊中はこちらに手のひらを見せてきて、そこからブオンと光の剣を出してきた。
ブオン!
光の剣!
うわ、こいつも恭平と同じように光の剣を出せるっていうのかよ。
「え、お前も出せんの?」俊也は思わず言った。
「お前もかよってことは、やっぱり恭平君も出せるんだね」冷静に豊中が言う。
「いや、出せるっていうか」
やばい。
このことは恭平から口止めされているからな。でも豊中も出せるんだったら、黙っていてもあまり意味はないかも。恭平も、まさか自分以外の人間がこの能力を使えるとは思っていなかっただろうし。「やっぱりこのことが原因で、恭平君は学校に来ていないんだね」
「いや実はあいつ、これで異世界がどうたらこうたらとか言い出してさ」
「異世界? 異世界って何のことだろう?」
あ、知らないんだ。
豊中も異世界のことまでは知らないのか。
俊也は言った。「なんかその剣が出せる奴は、そのうち異世界の人たちに召集されるらしいね。恭平もそれで学校にこなくなってしまったんだ」
「異世界に召集だって?」急に態度を変える豊中。「わけのわからない話はよしてくれ。これだから一般の中学生は! 一般の中学生は気持ちの悪い奴らばっかりなんだ。何かの精神病なんじゃないのか? 何かの精神病だから、そんな異世界とかわけのわからないことをいきなり言う出すんじゃないだろうか。妄想を現実の世界だと思っているんだろう。おい、しっかりしろよ!」
いやマジか。マジかこいつ。
お前らのその光の剣もよっぽどやろ!
「でもマジなんだよ。それを最後に恭平は学校にこなくなってしまったんだ」俊也は言った。
「じゃあ僕もその異世界に?」
「多分そうじゃないかな」
「そうなんだ」豊中がしょぼんとして答える。「じゃあ仕方ないね。いつでも旅立てるように、家のデイバックなどに最低限の食料品や薬など詰めて、それとあとは、お母さんたちにはそれなりの手紙をしたためておかないと。僕頭痛持ちなんだ。だから頭痛薬は欠かせない」
「あ、そうなんだ」
知らんがな。