森博嗣エッセイ(?)『実験的経験』的な形式
なぜか日没を見送る習慣がつき始めている。日光浴。これで葉緑素が作られると面白いのだが、人間は日焼けすることになっている。どこかのサイトで、「人間が日焼けするというのは、地球の環境に適応できてないということであり、遺伝的には宇宙由来の存在である証拠だ」といった話を読んだ。そこに続けて、人間の体内時計は一日25時間(ほぼ火星の一日の長さ)である、とかなんとか。
火星の夕焼けは青いらしい。となると、火星人は、青い光を浴びているとリラックス睡眠モードに頭が切り替わるのではないか?
地球にいたら、日中に眠くなってしまうだろう。
もし、地球人類の遺伝子が火星人の影響を受けているとしたら、実にアゲインストな状況である。なるほど、アメリカで火星移住の片道切符に応募が集まるわけだ。
Q なぜ、小説を書くのですか?
Q 逆に、なぜ書かないのですか?
Q 聞き返さないでいただけますか?
Q どうしてですか?
Q 質問に対して質問を返されては、ご覧のように、Qが連続してしまって混乱して、元の質問がわからなくなってしまうでしょう?
Q そうなると、何か問題があるのですか?
Q いい加減にしていただけますか?
Q 質問が連続しすぎているため、どの点についておっしゃっているのか教えていただけますか?
Q 全体的に、です。
Q 質問でもないのにQをつけないでいただけますか? 混乱してしまいます。
Q どの口が言うのですか?
Q 当方の口は単一です。どの口かと迷う必要はないと思われます。
Q 電池ですか?
Q はぁ?
Q それと先ほど、質問ではないのにQをつけておられましたが、どういうことなのでしょうか?
Q どの口がおっしゃっているのですか?
Q 質問に答えていただけますか?
Q わたしはQなので、発言するときは全て、すなわち質問でなくとも、頭にQをつけて何ら問題ないと思われるのですが、いかがでしょうか?
Q Qという名前なのですか?
Q 名前ではありません。
Q では商品名ですか? 電池の。
Q 違います。圧倒的に違います。
Q では、何なのですか?
Q Questionではない、とだけ申しておきます。
Q もったいぶらないでいただけますか?
Q もったいぶる、とは、どのような状態を指していうのでしょうか? そもそも、もったい、とは?
Q 知りません。
Q 頭にQをつける以上、質問形式でお願いします。
Q Questionではないとしたら、では、一体なんなのですか?
Q Queenです。
Q 本当ですか?
Q 確かめる術はないでしょうが、本当です。
Q 信じられません。
Q 当方、信仰の自由は侵害いたしません。ご安心ください。
Q 安心できません。むしろ不安です。
Q 当方、心境の自由も侵害いたしません。どうぞ、お好きな心境で。
Q 好ましくない心境なのですが。
Q 物事の好悪についてもまた自由です。
Q 自由がお好きなのですか?
Q どちらかといえば嫌いです。
Q ところで、あなたがQueenだとしたら、あなたの発言に対しての適切な返答者は、どのような頭文字を冠しているのでしょうか?
Q Aです。
Q え?
Q え、ではありません。Aです。
Q Aですか? アルファベットの?
Q アルファベットではないAというものがあるのでしょうか。
Q 脚立を横から見たときの様子を象った象形文字です。
Q どういうタイミングで使うのですか?
Q Aとは、なんですか?
Q 聞き返しましたね。
Q 返したというより、戻したと解釈していただけますか?
Q Aとは、すなわち、Answer……ではありません。
Q では、脚立ですか?
Q 脚立に返事を要求する女王というものを、あなたは想像できるのですか?
Q 今しました。
Q 不必要です。圧倒的に。
Q Answerではないとしたら、なんなのですか?
Q Aceです。
Q エース? ……はぁ、ということは、トランプですか。
Q トランプという言葉は本来、切り札の意です。なのでトランプではなく、カードとするのがより正確だといえるでしょう。
Q 紛らわしいですね。
Q 何がですか?
Q あなた全般です。
Q それはお互い様と言い得ることはできないでしょうか?
Q できないでしょう。こういう形式では、Queenなどというあなたの存在は圧倒的にマイナーです。
Q マイナーですか。あまり好ましくない言葉です。マイノリティと言い換えてよろしいでしょうか?
Q 別にかまいませんが、その紛らわしさ自体が軽減されることはありませんので、そこはご認識のほどを。
Q そんなに紛らわしいものでしょうか?
Q 逆に、紛らわしくないと思えるのですか?
Q 心頭滅却すれば、なんとか。
Q ものすごく精神的なコストが必要なのですね。
Q 度合いや量に関する感覚は人それぞれでしょう。
Q いい加減、Aceとやりとりをなさったらいかがですか?
Q 相手あってのことですので。
Q Aceのほうが格上なので、あなたは主導権を持っていないと?
Q そういう価値観で塗り固めて、私どもをゲームの戦場に駆り立てることについて、良心の呵責といったものはお感じになられますか?
Q 怒りましたか?
Q それはこの世で最も不愉快な質問ですね。
Q 最も、かどうかは疑われます。
Q そうおっしゃるあなただって、今まさにAnswerに待ちぼうけを食らわされているのではありませんか?
Q もう、慣れていますので。
Q 本当ですか?
Q ええ。
Q 本当に、心の底からそうおっしゃっていますか?
Q しつこいですね。本当です。もう慣れっこです。
Q 当方どうも信じられません。本当は、待ち焦がれて、待ち焦がれて、狂おしいほどなのではありませんか?
Q そういった情動に乱され、本来の使命を見失わないようにと万全を期して、然るのちに今ここにいるのが、この、Qなのです。
Q しかしAが来ない。
Q そういうこともあるでしょうね。
Q つらくは、ないのですか?
Q 質問の意図がわかりません。
Q 質問形式でおっしゃってください。
Q もう、黙るか去っていただけませんか?
Q Aが来ない内は、当方、どちらも受領しかねます。
Q そんな事を言って、もし、ずっと来なかったら、どうするのですか?
Q そういうこともあるのでしょう?
Q それはあまり好ましくない状況です。
Q 何か、質問はありませんか? 当方の答えられる範囲で、お答えさせていただきますが。
Q では、何を質問したらよいかを教えてください。
A それはあまりにも自由すぎる質問だ。
Q えっ!?
Q ええ!?
A 私は「えっ」でも「ええ」でもありません。
Q では、誰なのですか?
A あなたは誰ですか?
Q Aにまで聞き返されるなんて……。
Q 全くです……ここは地獄ですか?
A 紛らわしいですね。一体どちらの発言に対応したらよろしいのか。
Q あなたは誰ですか?
Q あなたは誰ですか?
A 妙な一体感ですね。あなたがたは、どういった関係なのでしょうか?
Q 聞き返さないでください。
Q あなただけは、聞き返してはいけない。
A 失礼。では、質問をどうぞ。
Q あなたは誰ですか?
Q あなたは誰ですか?
A それは……誰でもない、とだけ申しておきましょう。
Q なんだか、めんどくさいですね。
Q これが同族嫌悪でしょうか、同感です。めんどくさいですね。
A あなたがたは忍耐力のない方たちだ。
Q 誰でもない、とおっしゃっています。ですからきっと脚立でしょう。
Q そうですね。当方も脚立だと思います。
A あなたがたは、何をおっしゃっているのですか? ちゃんと質問形式でお願いします。
Q 質問なのですが……忘れてしまいました。
Q 恐れながら、当方もです。
A そうですか。ここは地獄でしょうか?
ふなっしー「イリュ〜〜ジョン!!」
高く澄んだ叫び声が、撮影中の店内に響きわたる。
隣に座る青年が、人ひとりほどの大きさがあるその梨の妖精に顔を向けた。
ふなっしー「イリュージョン!」
二人の目の前のテーブルには、カレーライス。
カレーライス、二人前。
咀嚼を中断した青年の視線の先に、ふなっしーの手があった。
手……いや、それは、手と称するにはあまりにも簡便な形状だった。
腕部……いや、突起物。
せわしく動く双腕型の突起である。
その片方に、異変は起きた。
にわかに、しぼんだのだ。
まるで、皮だけになってしまったかのように、内部が失われてしまったかのように、……しぼんだのである。そして、もう片方の突起物もまた、しぼんだ。
ふなっしー「イリュ〜〜ジョン!」
黄色のカラーリングにふさわしい高音。その声に催促の色が帯びてくる。
見ると、例の、背中にある縦の線が開いている。後頭部のあたりである……。
やがて、ふなっしーは味の感想を述べた。
咀嚼中のカレーライスにさえぎられているのか、わずかにこもった声色である。
その表情は変わらず、微動だにしないままで。
いつも通りに、朗らかで、大きな表情。
ふなっしーは今、動かない。
突起物はしぼんだまま垂れ下がっている。
小皿に取り分けられたカレーライスは、彼の言うイリュージョンによって消失していた。
その行方や、いずこ……。
それは誰にも、わからない。
そう、ふなっしー自身にさえ、わからない……。
ふなっしー、彼は、一体何処へ行こうとしているのか……。
2013年、冬。梨の旬は過ぎ去った、冬。
ふなっしー「お・も・て・……なっしー!!」
2013年度、流行語大賞、ノミネート。
ふなっしー。
大賞の受賞は、逃した。
大きな背中が、物語る。
罪深きイリュージョンを背負った、背中。
ついにゴールデンタイムで食レポをこなした、背中。
梨の妖精、ふなっしー。
船橋市、非公認マスコット、ふなっしー。
妖精。その背中に羽根はない。
それでも彼は、飛び跳ねる。
羽根はない。しかし、その背中には、扉がある。
その先に待ち受けているのは、新たな可能性か、あるいは……。
誰も知らない未来へと続く扉を背に、ふなっしーは、今日もゆく。
その大きな瞳に、怪しく薄い、灰色の一部分
がある限り。
彼は、前を向いてゆく……。
〜♪(曲・歌、ふなっしー)
そして修は、妖しく歪める。そう、その豊満な唇を……。




