うれしい日です。本当に。
銀河ヒーロー列伝
もんじゃ〜常闇の平面に粘りついた混沌〜
大手グルメサイト『エンゲル係数ブレイカーたべろう』
このサイトにおいて、利用者たちから大量の票を集め続ける、ひとつのメニューがあった……。
最初は小さな火種だったはずだろう。だがある時に、その火種は爆発的に膨張し、巨大なかがり火となった。そして皆が一斉に、そのメニューの存在に気づいた。
そうして突如複数のランキングの一位に躍り出ると、その座を守り続けることはもちろん、さらなる票を集め続けた。マラソンの集団を抜き去ったフォーミュラカーの如き独走である。そのぶっちぎりぶりは、2位以下のすべての票を合わせても遠く及ばないほどであった。
……だがしかし、その快進撃は、まったくもって誉められたものではなかった。
なぜならそれは、とても栄誉とはなり得ない、黒く暗いネガティブなランキングばかりでの一位だったからである。
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嫌いなメニューランキング……1位
『この世にあっていいものではありません! 思い出しただけで続々と鳥肌が立ちます』(お茶漬け大好きさん 20代女性)
『途中までは悪趣味ながら見た目で楽しませようとしている、が、最終的に混ぜてしまうためほぼ無意味な上に、肝心の食味もゴミと同等。恐らく、ここの店主は食材への愛をはき違えているか、単に狂っている。これは言わば、狂気の沙汰です』(ニッコリマッコリさん 50代男性)
オススメできないメニューランキング……1位
『完成までとにかく長い。そしてようやく一口して、ノックアウト。全力ドクターストップです。フルマラソンの果てに大量の粉薬を飲まされる感覚を味わいたい方なら試してみればいいと思います』(トンポロポーローさん 30代女性)
『家族で目の当たりにしました。他の方が仰る通り、あの終わりなき黒魔術的儀式に似た公開調理はいただけません。あれでは店内でのいい晒し者です。途中、7歳の息子が静かに泣き出し、私に声をかける間も与えず、脱兎のごとき素早さで店の外へと走り去ってしまいました。あの夜の闇へと駆けて行く息子の、遠ざかり小さくなっていく背中を見ると、親としては胸をかきむしりたくなる思いです』(カロリーモンスターさん 30代男性)
許せないメニューランキング……1位
『そもそも食用のメニューじゃないんでしょう。観賞用というか、よくわからない現代アート的なパフォーマンスを見せて、それで結構な料金を取ると。そういう意味ではこのグルメサイトに掲載されるべきではないだろうし、一刻も早く消えて欲しい。めくるめく臭いが、今でもたまにフラッシュバックして辛い』(もぐもぐコンボさん 30代女性)
『絶対呪われていると思う。これを見て何日後かに霊感のある友達に会ったら、結構ロコツに距離をとられたし。その後フェイクフックの友達リストから消えてたし。自分はほとんど食わなかったけど、食ったら絶対ヤバイと思います。たぶん孫の代とかまで何かが伝わっちゃう勢いだと思います。つか今これ書いててなんか逆に笑えてきしw いやもうマジ怖いあのもんじゃwww』(解凍マンモスさん 10代男性)
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……このほか、まだいくつかのランキングでも1位に君臨しており、多数の過激で黒いコメントを集めている。それらはもちろん、ここに書くことは到底できないようなコメントばかりで、読んでいると眉間のシワが増え、そのまま刻みつけられそうなほどの、手加減なしの罵詈雑言がひたすらに並んでいた。
その様子は、一番高いところで無数の雷を浴びる避雷針のようでもあった。
都内某所。
もんじゃ焼き専門店『吐瀉物って言わないで』は、その嫌な店名を抜きにすればまったく不審なところの無い、至って健全な佇まいであった。あのメニューの評判を知らない人ならば、何の抵抗もなく、むしろ期待しながら入店できることだろう。
しかし、知ってしまった者にとっては、この感じの良い素朴さがかえって恐ろしい。精神病院の綺麗に真っ白い外壁を見る思いである。
……多くの人々の心に、容易には拭い去れぬ闇を植えつけてきた恐るべきメニュー。
それが、この店の中にある……。
さすがにと言うべきか、そいつは簡単に注文できるものではなかった。3日以上前に予約をする必要があり、その際には来店時間まで決めさせられる。
1日5食限定。写真撮影は不可。値段は3675円(税込み)で、完食出来なかった場合は、その食べ残しを持って店の裏庭へ行き、そこでお焚き上げの儀式をせねばならないそうだ。具体的には、うちわである程度冷ました後、生ゴミコンポストに入れるのだが、先客が多すぎて入りきらなかった時にはドラム缶で焼却するらしい。
……いよいよ、その店へと突入する。
かつては藍色であったと思われる、短いのれんをくぐって店に入った。外まで漏れていた香ばしい空気が、この虎穴の中ではさらに濃く充満している。
広くも狭くもない店内。夕方の半端な時刻にも関わらず、すでに常連らしき客の何人かがカウンター席を埋めていた。彼らの前には、白いおしぼり、ビール瓶と直線的で小ぶりなグラス、さらに小鉢や割り箸のかかった皿などが並ぶ。
団体客はおらず、テーブル席は奥の座敷も含めて全て空いていた。
カウンターの奥に、夫妻の姿を見る。ふたりは共に先客の話し相手となっていたが、新たな客の来店に際して機敏に反応した。
若くない奥さんがわざわざカウンターから出て来て、予約などの確認の後、わずかに表情を変えて奥のテーブル席へと案内した。
わずかな表情の変化……相手が例の予約を入れた者だと知ったその時、彼女の目元にあった笑みが、一瞬にしてアルコール発酵したかのように、密かな妖しさを加えたのである。
くたびれた薄い座布団が敷いてある椅子に座ると、動きを止めた店内の景色が、じわじわと圧力を加え始めるようだ。空気は、柔軟性を失っていった。
独りで向き合うには大きすぎる鉄板が、テーブルの中央に堂々と広がる。プールとプールサイドといった比率だろうか。
……ここまで来ては、もう引き返すのは難しい。如何に水が怖いしても、料金を払い、わざわざ水着に着替えた上でここに立っているのだ。水面をじっと見つめただけで逃げ帰るのは、あまりにも情けない。
準備はした。それはここまでに至るためのセッティングと、そして、この先に必要な気構えである。
鉄板は黒く、暗く、なにか苦悩に満ちた底知れない存在の表面に見えた。
お冷では慰めきれない、高粘度•高密度な数分間ののちに、どこか超然とした動作で店主がテーブルの横に立った。上は白い調理服、下はハーフパンツに前掛けといういでたち。やや面長で褐色の顔には、ランドマークのように太い鼻梁と、感情が行方不明な無表情が目立つ。手には年季の入ったコテが鈍く光り、その他には、何も持っていない。
と、奥さんが小さなワゴンを押してきた。小さいとはいえ、その天板には所狭しと食材を乗せた大皿小皿がひしめいている。
一見して、最終的なボリュームは通常のもんじゃの倍するほどになることが予想された。
だがそれ以上に何よりも、そこに並んだ食材の顔ぶれがまったく不可解であった。方向性がてんでバラバラなようでもあり、異様な統一性があるようでもある。
だがとにかく、およそもんじゃの具材に相応しいと思えるものは、ほぼ皆無と言ってよかった。
そんなおぞましい食材群を眺めていると、店主の伸ばした腕に視界を遮られてしまった。
筋張った腕によって、熱を高めつつある鉄板の上に素早く油が散らされる。その淡い琥珀色は、すぐさま鉄板に支配され、強い光沢と微かな臭いだけを残す。
それが、調理開始の合図であった。
奥さんがまず最初にどんぶりを差し出し、店主はそれを見もせずに受け取る。それは通常のもんじゃにも使われる器だった。遠目に覗き込むと、中には確かにもんじゃの生の姿がある。しかし具材らしき具材はなく、どうやらほぼキャベツだけの極めてプレーンな生地のようであった。いや、手早く混ぜられて今、底の方からコーンフレークの一団が現れた。ワゴンに乗った食材達に比べれば軽いジャブ程度に感じられるが、この段階ですでに常識や現実といったものから決別をはかろうという意思があるのだろう。すでにもう、道を踏み外しているのだ。
コーンフレーク。確かにコーンフレークが入っていた。
恐らくは、あの直立の虎が勧める、白く甘い種類だろう。
店主は、そのすでに不愉快な生地を、ついに鉄板の上へと降り立たせる。
接地。熱にゆがむ空気を裂き、香りと音が放たれる。黒く無機質な鉄板に、いま生命の躍動が密着した。
全てをいっぺんには焼かない。どんぶりの中に液状の生地を残している。いま鉄板には、キャベツを主とする固形物達が山を作っている。しかしそれもつかの間、店主がコテでその山を頂上より突き割ったかと思うと、すぐに円形の土手へと姿を変えた。
広い円である。通常がコロッセオだとするならば、これは高速増殖炉といった広さと平らさだ。なぜここまで広げたのか、その理由は、続いて注がれた液状の生地が土手の内側で沸き立ち始めた頃に、すぐさま明らかとなる。
奥さんが動く。なめらかな連携で、最も大きな皿が店主の手に渡った。
次の瞬間、その皿の上から、土手の内部へと向けて、巨大な食材が移動していく。
見間違うことは出来ない。
わずかな匂いと、こぼれ落ちた細かい破片が、本物であることを主張している。
よく似た別物ではない。
それは、どうしようもなくバウムクーヘンであった。
それが、鉄板に置かれる。
その目にも止まらぬ移動の速さは、未確認飛行物体の墜落を思わせた。
今、なだらかな土手の内側に、垂直のぶ厚い城壁がぐるりとそびえ立った。そう、使われたのはワンホールまるごとなのである。
土手の内径と、バウムクーヘンの外周は見事に一致しており、つまり両者は全周において接していた。
早くも味のクーデターが始まっている。そしてさらに恐ろしいことに、下部の液状の生地が黙っていないのだ。吸水性に富んだバウムクーヘンの内部へと侵入し、駆け上っていく事だろう。心なしか、バウムクーヘンの穴の底に見える水位が徐々に減っていくように感じられる。
と、その穴に店主の手が伸びた。
次の食材の投入である。
手品のごとく無駄のない手際を見せ、店主の手がまた離れると、油揚げが、バウムクーヘンの内壁に張りついていた。
どうやら両端を切り、筒状にした油揚げである。綺麗にぴったりと、垂直の穴の内側で曲面を成している。高さまで正確に切り揃えられているため、その色合いも含めて、もはや最初からバウムクーヘンの一部であったかのように馴染んでいた。
だが当然、歴然たる違和感は拭えない。取り返しのつくはずもない。残る食材次第で、あるいはバウムクーヘンの築いたスイーツ方面への進路も活きたかも知れないが、ワゴンに控える実際の食材達は紛れもなく敵軍である。戦火は猛り狂う一方だろう。
そしてもう、店主の手は止まらないようだ。
……
紙芝居太郎「はーい、きょうは、ここまでで〜す」
スウィートキッズたち「え〜〜!」
紙芝居太郎「ごめんね〜、おじさんも、生活かかってるんだよ……。じゃあ、いつもので、おわかれだ」
スウィートキッズたち「は〜〜い!」
「……理解の度を〜?」
「超えていた〜〜〜!」
太郎は、じわりと微笑むと、自転車を押し、帰路についた。
♪プロフェッショナルの業(作シカオ)
うむ、感涙である。
さて、ちらと思い出したが、コスミというペンネームは、囲碁用語からお借りした。短くかんたんに、という理念はとーよー君からのパクリんぐで、星新一先輩も囲碁が好きで小説構造の勉強になったと仰っていたので、おお、と思い、それ以前に高校生のときにあの素晴らしい漫画、伊集院の碁にどっぷりしていて、現国の先生の半ギレ視線もものともせず闘った、そういう授業の楽しい記憶がある。ごめん、ほんと、それは。
なんといっても伊集院が自分の囲碁をとりもどす流れはもう、無条件涙である。ナイスクライマックスであり、そしてそれでもなお切ないのだ。それは、自立の真の輝かしさ、そして切なさなのかも知れない。
最近知ったのは、漢字で書くと、尖、というパターンもあるとか。まあ、ギュッとしたら光みたいにも見える。ねえ、伊集院さん。
といった具合で、僕はペンネームからして借りものずくめのパッチワークライフである。ミスターパッチワーカーと呼ぶがいい。そう呼んでも振り向きはしないけど。
お裁縫は、不得意なのである。やはり女性に任せ、それを全力で観察していたほうが楽しめると思う。個人の意見なので、通報はやめてください。
きょうは、もうとめどないほどポカポカ日和だった。どんなもんじゃい、ってなもんである。
魂の快進撃は、キムタクの魅力のごとき普遍性を帯びている。そういうことなのだ。
SMAPは、沖縄の名産品であるカンズメ、SPAMのアナグラムなので、縁があると思う。まったく、なんにも根拠はない。
ビッグジャニー「……YOUはさあ、確かさあ、あれだよね、YOUだったよね」
YOU「そっすよー」
出会うだけで、面白い。
この、ありがたい世界へ、ありがとう。




