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山田と歴史研究同好会

 社会科資料室の壁は、ほとんどスチール本棚で埋まっていた。そこに歴史関係と思しき本や、段ボール箱に整理されているらしい資料が収められている。中央には学校机が六つ固められていて、ぼくらは勧められてそこに着席した。ぼくの左に山田、右に倉吉。同好会長は山田の正面に座った。

 同好会長の木谷きたに 紗英さえさんは、二代目の会長だという。この同好会を立ち上げた代が非常に熱心で、展示で市の賞をもらったこともあるらしいけれど、彼らが卒業し会長が木谷さんになってから、兼部の部員ばかりになり、活動もあまり活発に行えない。

「あの、最近、マンガとかゲームとかで、歴史ものが流行ってますよね。みんな、それで歴史に興味があるみたいで」

 己の好きな武将やらなにやらを語るだけで、彼女らは満足してしまうのだという。

「あ、ごめんなさい。せっかく興味を持ってくれたのに。もちろん、ゲームとかでも、歴史が好きになってくれるなら、嬉しいんだけど」

 木谷さんは慌ててフォローを入れた。同好会に不信感を持たせないためか、山田もゲームで歴史が好きになった口と踏んだか。

「いえ、僕はゲームとかは興味ないです」

 山田は真面目な口調で言った。篠はマンガもゲームも好きみたいだけどな。こないだゲームセンターにいるのを見かけた。……同じく長命だからと言って、いがみ合っている二人をセットにして考えちゃだめか。

「そ、そう。えっとね……見学って言っても、あんまり大したことはしていなくて。文化祭も終わっちゃったので」

 木谷さんはそんな山田の様子にやっぱりたじろぎながらも、懸命に同好会紹介を行う。

「だから今度、フィールドワークに出ようって、話をしています。この近辺、駅は再開発されちゃったけど、古いお寺とか神社とかがあるので、お話を伺いながら。このあたりは、旧街道が通っているので、宿場の痕跡が残っているはずです」

 かなり真面目に活動しているようだ。でもぼくも倉吉も、その存在を全く知らなかった。校外での活動が多いのか、会長のやる気が会内で空回りしているのか。

「素晴らしいと思います」

「あ、は、はい。ありがとう……ございます」

 率直な褒め言葉に(これも実に山田らしくない)、木谷さんは照れたように笑った。

「敬語は不要です、先輩。僕は二年生ですから」

「はいっ。わかりました、違った、わかったよ、山田くん」

 それから、木谷さんは不思議そうにぼくらを見た。

「あ、そういえば、君たちは……」

 山田のおかしな様子に圧倒されて、ぼくも倉吉も、先ほどから一言も発することができなかった。ようやく木谷さんもぼくらに注目することができたようだ。

「ぼくら、付き添いです。こいつ、転校してきたばかりなので、案内がてら」

「ああ、そうなの」

 ぼくらがいかにも普通の男子だったからか、木谷さんはほっとしたように息をついた。どうにも山田にびびっているようだ。無理もないけど。なんで、山田は無駄にはきはきとしゃべるんだ、さっきから? そういうキャラじゃないだろ。

「で、その、過去の展示の写真とかはあるんだけど、多分見てもよくわからないかも……。でも、他に見学と言っても、特には……ごめんね」

「はい、じゃあ、入部します」

「はっ?」

 とうとう、木谷さんの動きが止まった。小さい目をめいっぱい見開いて、山田を見た。ぼくもつられて山田を見た。山田は真剣そのものの顔をしていた。

「もう、見学するようなことはないんですよね? それで十分です。もともと、入部前提で見学に来たんです」

「え、あ、そうなの……?」

「はい。思っていたよりもさらに素晴らしい部活だったので、良かったです。これから、よろしくお願いします」

 山田は立ち上がって木谷さんに頭を下げた。木谷さんも慌てて立ち上がり、お辞儀を返す。

「あ、はい。よろしくお願いします」

「では、今日はこれで失礼します」

「え?」

 立ち上がったそのまま、鞄を持ち上げて山田は教室の出口に向かう。それからまだ着席してぽかんと山田を見ているぼくらに一瞥をくれると、

「何してんの。帰ろうよ」

 と言った。

「え、もういいの?」

「入部届け、持ってないし。他の先輩のいるときにもう一度挨拶に来る」

「あ、そう」

 ぼくらも立ち上がり、山田に続いた。木谷さんは、まだよく分かっていない顔をしている。

「え、えっと、山田くん、入部するんだね?」

「はい」

「部員、山田くん以外、みんな女子だけど、大丈夫?」

「大丈夫です」

「えっと……あと……」

 木谷さんはぐるぐると視線を動かし、必死に考えている様子だ。

「あ、あと、活動日は毎日っていうか、私は毎日いるけど、他の子がくるのは月曜と木曜が多いかも! あ、入部届けは、寄田先生に出してね」

「はい。ありがとうございます」

 そこでようやく、山田ははっきりと微笑み、そのまま退出した。


 山田はなんだか機嫌が良さそうにぼくらに礼を告げ、一人でさっさと帰って行った。取り残されたぼくらは、再び顔を見合わせる。

「なんだったんだ、ありゃ?」

「うーん、おれにもわかんないけど、あれって」

「だよな!」

 倉吉は力強く頷いた。一方ぼくには今いち己の想像を信じきれない。口に出せないうちに、倉吉の方が言った。

「あれ、絶対木谷先輩に惚れたよな!」

 ……そうなんだろうか? あの山田が?

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