ぼくと山田と倉吉
それからぼくらは、なぜか三人セットで行動することが多くなった。なぜか、なんて言ってみたものの、表面的な理由は分かっている。山田がぼくにまとわりつき、倉吉が山田を気に入っているからだ。倉吉はとにかくとして、なんで山田がそこまでぼくについてくるのか、その根本的な理由は分からない。
なんだかクラス内で「三馬鹿」みたいな感じになってきているのは、どうにもいただけないのだけれど。大丈夫、まだ一週間も経っていない。まだ印象修正は可能だ……だよな?
山田が大股にぼくの席までやってきて、また齊藤さんの席に座った。後ろの倉吉がいないんだから、そっちに座れば良いのに。
「小山」
「なんだよ、山田。こら、ももこさんに触るな」
しかしももこさんは山田の掌を甘受している。心なしか、目が細まってはいまいか。別に山田のことは嫌いじゃないけど、山田の手で心地よくならないで、ももこさん!
「いいだろ、気持ち良さそうにしている。シロはこんなふうに触らせてはくれなかったからね」
「当たり前だ」
いい加減手を離さない山田からももこさんを引き離し、ぼくは本題を促す。抱き上げられたももこさんが不満げにぼくを見上げている。
「今日は部活の見学に行くんだ」
「へえ」
ももこさんが身をよじってぼくの手から逃れた。ぼくの手には数本の猫の毛だけが残る。そのまま彼はこちらを振り向きもせずに教室を出て行ってしまった。もう帰るのかな。
「なあ、聞いてるの?」
「部活だろ、行ってくれば」
「ついてこいよ」
「なんで」
名残惜しくももこさんの消えた方を眺めていたが、ようやく山田を見た。山田は困った顔でぼくを見ていた。
「僕が方向音痴なの、知ってるだろ」
そうだったっけ。
「僕がお前の山から下りられなくなったのを覚えていないの」
「ああ、あれ、わざとじゃなかったのか」
まだぼくが猫だった頃、山田はぼくが住んでいる山にやってきて、しばらく住み着いたことがある。怒る篠に対して、帰り道が分からなくて帰れないと言っていたのは、なんなかんのと言い逃れをしているだけかと思っていた。
「今日、放課後、頼むよ」
あんまり頼まれたくはない。今日は牛乳が安くなる日だからだ。あんまり遅くなったら残っていないし。
しかし終礼のあと、なぜか倉吉がぼくの背中を叩いた。振り向くと、笑顔で言う。
「部活見学に行くんだろ、俺も行くよ」
「何でお前も行くんだよ。ていうか、何で知ってるんだよ」
「山田に誘われたに決まってんじゃん」
「お前、テニス部だろ」
中学からの筋金入りのテニス部であると聞いている。その実エースを張れるほどではないらしいけれど。ああいうのって、高校から始めた奴の方がうまかったりするとなんとも言えない気持ちになるよな。
「だから、俺は入んないよ。ただ今日前センがいないから、部活もないんだよ」
前セン、というのは、テニス部顧問の前田先生だ。
「暇なの」
「そうそう」
山田が近寄ってきて、ぼくらを促した。
「さあ、早く行こう」
目的の教室は特別教室棟だというから、ぼくらはひとまず渡り廊下を目指す。廊下のそこここで、吹奏楽部が練習をしていて、ぼくらは自然一列になって彼ら(ほとんど女子なので彼女ら、と言うべきか)の邪魔をしないように通った。
階段を上りながら、ぼくは倉吉を気遣った。
「部活の方はいいのか」
「だからないんだって」
「なくても、なにか付き合いみたいなの、あるだろ」
そう言うと、倉吉はああと頷いた。
「まああいつらとはいっつも部活でも会えるし、他の奴と仲良くしてたからってハミにするような奴らじゃないし」
本人はそう言うものの、倉吉は人の良い奴なので、何かと話しかけられることが多い。加えて運動部なので、そこでのつながりも大きい。だからなんで、彼がわざわざぼくに、というか山田にくっついてくるのか、よくわからない。転校生に世話を焼きたいタイプなんだろうか。
「いや、元々、小山とももっと話してみたかったんだよ。面白そうな奴だしさ。でもなんか前は、近寄りがたい……っていうのは違うな、なんていうか、自分の時間を大切にしている感じだったろ」
それは今もそうなんだけど……。とはいえ、他人を寄せ付けまいとしていたわけでもなかったはずだ。少なくともぼく自身はそのつもりだった。
「それが、山田とはなんだか親しげに話してるし、ちょっと話しやすそうになったなって思ってさ。山田も良い奴だし、お前らとつるむの楽しそうだなと思って」
そういうの、よく恥ずかしげもなく言えるよな。ぼくにはとてもじゃないけど無理だ。というか、誰かと仲良くしたいなんて、積極的に思ったことないぞ。
……あれ、ぼくってもしかして、すっごく寂しい奴?
とはいえ、倉吉がなんだか嬉しそうにしているから、このトリオを解消する気にも今いちなれないのだ。「三馬鹿」は嫌なんだけどなあ。
(ハミ……はみご。仲間外れ)




