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ぼくと転校生

 朝から、二年生の廊下はざわついていた。

「小山、おはよう」

 学友の一人があいさつをしてくれた。

「よう、おはよう」

「お前さ、なんていうか……二学期も変わらずだな……」

 学友は、何かを気にした様子で、ぼくの足元を眺めている。

 ぼくは彼の視線を追って足元を見た。そこには、ねこのももこさんが立ち止まったぼくを不満げに見上げている。

「おれの足元がどうかした?」

「い、いや別に」

 学友はあわてて首を振って、ぼくと並んで歩き出した。ももこさんもついてくる。

「課題、終わらせたか? なんだかたくさんあったな」

 ぼくは学友に話しかけた。やっぱり足元を見ていた学友は、こちらを向くといい笑顔で答える。

「夏休みの宿題ってのは、夏休みが終わってから始まるもんだぜ」

「お前、よくやるよな……」

 思わずため息が出た。ちなみにぼくは、最初の日に張り切って半分以上こなすものの、そこで満足して最終日まで手をつけずひいひい言うタイプだ。篠は、自分で言うようにかなり頭が良いらしく、かなりの部分を手伝ってもらってしまった。自分でやらなきゃ力にならないってのは分かってるつもりなんだけど……。

「てか、そんなんじゃなくてさ、もう聞いた?」

 学友は急に声を高くして、ぼくに尋ねる。もちろん、ぼくにはなんのことだかさっぱりだ。

「何を?」

 と聞くと、なぜか自慢げに胸を反らし、教えてくれた。

「転校生が来るらしいぞ」

「へえ」

「へえって、反応薄いな、お前」

「別に、驚くようなことでも」

「驚かなくてもさ、いろいろ反応があるだろ」

「例えば?」

 学友はちょっと待てよと前に向き直り、深呼吸してから、

「え、まーじーでー!? それ、どこどこ? どこのクラス? てか、男、女? 女だったらかわいい? あ、そういや俺の隣の席空いてるけど、そこ? そこに座るの? いやーまじ、困っちゃうなあ。今日に限ってちゃんと教科書持ってきちゃったからさあ、隣に座られたら見せてあげるしかないよなあ」

 とまくしたてた。

「……とまあ、こんな感じだよ」

「……何から言っていいかわかんねえけどさ、とりあえず最初の『まーじーでー』は驚いてるだろ」

「ちげえよ、これは歓喜の『まーじーでー!?』だよ」


 しかし転校生は男だという噂がまもなく流れ、学友は沈黙した。転校生はぼくらのクラスらしく、それを知ったぼくは学友を元気づけてやることにする。

「うちのクラスらしいぞ。良かったな。お前の席、隣空いてるじゃないか」

「……教科書なんて持ってきてねえよ。持ってても見せない」

 いや、教科書は持ってきた方がいいと思うけれど。

「お前にからかわれるのは、何だか癪に触るな、小山」

 今度は学友は、ぼくに矛先を向け始めた。

「いつもクール気取ってよ。お前自分が思うほどクールな顔してねえから」

 別に、クールな性格を気取ったつもりはないんだけど。え、ぼくって、そんなふうに見られてるの?

「大体お前なんだよ、いつも学校に、ね……」

 そこまで言って、学友は急に口をつぐんだ。ぼくが彼を見つめると、彼はあからさまに目を逸らす。そしてちらちらとまた足元を見始めた。

「なんだって? 『学校にね』?」

「い、いいいいつも学校に寝にきてんじゃねえよ!」

 そう言いすて、学友は教室を出て行ってしまった。とはいえもうすぐ予鈴が鳴るから、間もなく戻ってくるだろう。本当におもしろいやつだ、学友……いや、これだけ登場しているから、名前を紹介しよう、クラスメイトの倉吉は本当におもしろいやつなんだ。だって学校でいつも寝ているのは倉吉のほうだし。

「ね、ももこさん」

 ぼくは足元のももこさんに話しかけた。心なしかじとっとぼくを見つめているから、自分をだしに人をからかうなと怒っているのかもしれなかった。


 果たして予鈴は鳴り、担任の紹介により転校生は現れた。

 ザ・弥生人って感じの顔をしている。狐顔とも言える。なんとなく頭が良さそうだけど、それは顔だけで判断しているから合っているかわからない。篠だって、あの顔で結構頭が良いからなあ。いや別に、ばかそうって言ってるわけじゃないけど、いかにも野生人っぽいじゃないか、篠って。

 担任に促され、彼は軽く頭を下げ、自己紹介をした。

山田やまだ狗允こうすけです。よろしくお願いします」

 山田か。きっと、山の中に田んぼを持っている人だったんだろうな……っていうと、ぼくは小さい山を持っていたってことになるな。結構土地持ちじゃないか、ぼくのご先祖様。

 というのは置いておいて。なんだかこの人、見たことあるような気がするな……。

 ぼくの視線に気がついてか、山田くんもぼくのことをじっと見つめる。いや、この反応は初対面じゃないよな、やっぱり。なんの知り合いだっけ……。

 下げた頭を上げたきりしゃべらない山田くんに、担任がもう一度声をかける。

「名前だけじゃ、分からないだろう。もう少しなんか自己紹介しなさい。好きなものとか」

「好きなものですか」

 そう言って、山田くんは目を輝かせた。

 それと同時にぼくは思い出す。

 ああ、そうだ、こいつ。

「犬が大好きです。僕んちの犬の写真、見たい人はいつでも言ってください」

 思い出した、こいつ、ナルシストだ。


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