ぼくと夏休み最終日
ぼくは小山楓、高校二年生。
ぼくのわがままで親元を離れ、猫と一緒にのんびり暮らしていたんだけれど、ある日見知らぬ少女がやってきて、ぼくが昔は猫だったと訴えてきた。
当然のことながらぼくには人間だった記憶しかないし、この人頭がおかしいなと思っていた。でも少女はぼくにつきまとい、しつこくぼくを人外扱いする。
そのあと、町のチンピラたちを巻き込んだ騒動を経て、ぼくには依然覚えがないものの、少女……篠の主張を認めてやっても良いかなと思っていた矢先、そのぼくの記憶が戻ってしまった。つい先日のことだ。しまったっていうと変な言い方だけど、なし崩し的に、ぼくは昔猫だったことを本当に認めざるを得なくなってしまったのだ。
……でもまあ、篠もぼくら(ぼくとももこさん)の生活に毒されてすっかり平和ボケしているみたいだし、しばらくは思い出したことも黙っとこうかな、と思って、毎日変わらず、やっぱりのんびりと暮らしている。
高校二年生の夏休み最後の日。
大学受験を考えている高校生なら、もう高校の夏休みは終わったようなもんだろう。ぼくはといえば、どうしようか迷っている。大学は楽しそうだし、かといってこれまでバイトなんてしていないからお金はないのだ。ぼくは一人暮らしするにあたって、大学に行くなら自分で金を工面しろと親に言い渡されている。なら、働く? うーん、なんか、イメージわかないんだよなあ。
ぼくは身体をひねり、いつものごとく窓際でごろごろしている少女に話しかけた。
「篠、おれが働くならどこがいいと思う」
「社長」
篠は即答。
「シャチョウってなんだそれ。そういう名前の会社?」
「ねこさまはばかか」
篠は言葉通りぼくをばかにしたような顔で言う。ちなみに言うと、篠はぼくのことを『ねこさま』と呼ぶのだ。『さま』づけのわりに敬われている感じはしない。
「社長は社長に決まってるだろ。係長、部長、課長、社長だよ」
「社長で働くって、どういうことだよ」
「ねこさまが誰かの下で働くなんてあってたまるものか。ねこさまは常に、万物の上に立つものだ」
前言撤回。敬われるどころか崇められていた。
「というより、働くこと自体がナンセンスだな。狩ればいいだろ」
「狩るって、何をだよ。おれはスーパーで買い物ができればじゅうぶんなんだけど」
どうにも篠は、ぼくを獣扱いする節がある。いくら元ねこだからといって、今は立派に健全な人間男子なわけだし、文明の中でしか暮らせないんだけど。
「ねこさまならいくらでもとれるだろ」
「それ、『盗む』と書いて『盗る』か」
ぼくは昔、特殊なねこだったようで、超能力のようなものが使える。ぼくの希望を押し通す能力というか、他人の認識や望みをねじ曲げる能力というか。つまりぼくが、スーパーマーケットに入ってレジを通さずに食品を持って出たとしても、それを誰にも咎められないようにすることができる。でもそれは立派な犯罪だ。
「じゃあどうするっていうんだ。言っておくが、篠はねこさまがコンビニのレジに立っているところすら想像できないぞ」
「うーん……」
ぼく自身、そういうビジョンをもつことに消極的なこともあって、会話はそれ以上進まず、結局晩ご飯を食べて篠は帰っていった。……帰っていくって、どこへなのか、ぼくは実際よく知らないんだけど。
明日から新学期だ。




