表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/32

ねこさまとぼくと篠

「しかし、ようやく認める気になったな?」

「何の話だ?」

「ねこさまがねこさまであるということだ」

「魔王かなんかって話か」

「そうだ」

 頭はかすかにこぶになっただけですんだ。なんでこれだけで済んだのか自分でも不思議だ。だって鉄パイプで殴られたんだぞ、ぼく。どれだけ石頭だ。

 なんとかインコを追い払い、再び泣きだした篠をなだめながらようよう帰宅した。どこかで散歩でもしてきたんだろう、ももこさんも一緒に帰ってきた。お互い精神を落ち着かせようと、お茶を用意している途中で、篠がそんなことを言ってきた。

「なんで認めるだとかいう話になるんだ」

「だって、使っていただろう」

 篠の指摘にぼくはぐっと詰まった。さすがに、あれでとぼけられるほどぼくは鈍感ではない。確かにあのとき、


 ぼくはまっすぐ篠のところへ行きたいんだ


 あのとき、ぼくは自分に存在するなんらかの力を行使した。チンピラたちの声をうるさく思い、進路にいる奴を邪魔だと思った。つまり、黙れ、退け、と命令したのだ。

 ぼくが気を緩めるまで、彼らはぼくの進路を妨げることは叶わず、声を上げることもまた然り。意識して使ったのはその一回きりだったけれど、その感覚は今、しっかりとぼくの身に刻まれてしまっている。

「言っただろう、自覚すれば、もっとうまく使える。力は拒むのではなく、制御するのでもなく、うまく操るのだよ」

 篠は物知り顔で言う。

「……ああ、認めるよ。おれはどうやら、普通の人間ではないらしい」

 ため息まじりのぼくの言葉に、篠は顔を輝かせた。

「ねこさま……!」

「それで、魔王だっけ?おれは何をすればいいんだ?」

 瞬間彼女の笑みが固まる。

「…………何も?」

「は?」

 急須の中身を勝手に確認して、篠は自分の湯のみにお茶をそそいだ。おい、ぼくのも入れてくれればいいだろ、ついでに。

「だってねこさまだって特に何かしていたわけじゃない。今まで通りでいいんじゃないか?」

「え、だって、……なんか国を支配とか」

 とたん篠は笑い出した。ぼくの背をばんばんと叩く。

「何言ってるんだ、ねこさま、RPGじゃないんだぞ! どうするんだ、世界を恐怖にでも陥れるのか? 単なる縄張りだよ、縄張り」

「……じゃあ、なんで篠はおれをねこさまだと自覚させようとしていたんだ?」

 てっきりぼくは、ふたたび魔王として起ってくれとか、そういう話だと思っていたんだけど。

 笑いすぎて出た涙を拭いながら、篠は言った。

「ただ篠は、またねこさまと暮らしたかっただけだ」

 にっこり笑う篠を見て、確かに、ちょっとは可愛い顔をしているのかも、とぼくは認めた。




 それから別にぼくの生活は変わらない。ももこさんとぼくの二人暮らし。学校に行って、帰る。ときどき隣人が料理をたくさん作ってお裾分けしてくれる。友人関係も、離れて暮らす両親との関係も良好だ。

 ……ただときどき、家に上がり込んできて、ももこさんを抱きしめてごろごろしたり、ぼくのご飯を勝手に食べていく少女が加わったくらいだ。


「ねこさま、布団入れたぞ」

「ああ、サンキュ」

 今日は休日。朝はゆっくり寝て、魚屋でおいしそうな太刀魚を買って、布団を干して、掃除。篠がやってきて昼食を食べて、そのあとはごろごろしていた。

 しかしなんだろう。何か忘れている気がする。

「なんだ? 洗濯物も入れたぞ?」

「いや、そうじゃないんだ」

 最近ずっと、何かを忘れている気がする。

 なんだっけ……、

 

「あ?!」


 声を上げたきり立ち止まったぼくを篠が呼ぶ。

「ねこさま?」

「……いや、なんでもない」

「思い出したのか?」

 篠はきょとりと首を傾げてぼくを見た。

 ああ、まったく変わっていないな。

 ももこさんを見下ろす。

 ああ、なるほどなあ。

「うん。明日の宿題のことだ」

「篠が教えてやってもいいぞ。こう見えても近代の勉強も良くできるからな、篠は」

「じゃあ、頼んでみようかな」

 ぼくは懐かしく篠を眺めた。

 よく見つけ出したものだ。執念だなあ。それにしてもこうしてぼくが思い出したことに気づかない辺り、だいぶ平和ボケしてるな、こいつ。

「で、なんだ? 数学か? 歴史か? 現代文だけはちょっと苦手だからな」

「数学だ。公式が覚えられないんだよな、おれ」

「それは単なる記憶の問題じゃないか」


 まあ、しばらくこのままでいいか。


第一部完、ということで、一旦完結とします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ