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篠とインコ

 あっけなく倒れた少年を、篠は目を見開いたまま見ていた。

「なんだこいつ、気持ちわりい」

 少年が通った道には、誰もいない。少年が激昂した途端、誰もが口を閉ざして、少女へ向かっていく少年へ道を譲ってしまったのだ。どうしてそうしなくてはならないのか、誰もわからないまま。

 この奇妙な闖入者はただちに排除しなくてはならない。そう判断したチンピラの一人が、少年が少女と会話し、空気が緩み自由に動けるようになった瞬間を狙って、少年に殴りかかったのだった。

 異様な存在感を放っていた少年は、倒れてしまえばただの高校生だった。それも不良でもなんでもなく、学校帰りに塾にでも通っていそうなこぎれいな容姿だ。

「おい女、お前とこのガキがなんなのか知らねえが、この場にいるからにゃあどうなっても知らねえ。運が悪かったと思うんだな」

 辺りでも、動けることを知ったチンピラたちは殴り合いを再開している。そうだ、今日こそ山下派と谷口派の決着をつけるのだ。少年を殴ったチンピラは自分の新たな標的を探して踵を返した。

 否、返そうとしたができなかった。


「……全くどいつもこいつもどいつもこいつも」


 ぶつぶつと呟く声は、男の目の前、椅子に縛られたままの少女から聞こえてくる。

「ねこさまを見つけたと思ったら人間になんかなってるし、記憶をさっぱりなくして『ぼくはねこさまじゃないよ〜』なんて言ってくるし、学校まで押し掛けたら怒られるし」

 少女の声はだんだん大きくなってくる。男はなぜかその前を離れることができない。

「捕まったふりをしてみればねこさまは全然こないし、変な奴らはやってきて篠におぞましい『あれ』を押し付けてくるし、せっかくねこさまがきたかと思えばどこぞの馬の骨に殴り倒されるし!」

 気づけばその場の誰もが少女に注目していた。厳密に言えば、少女の大声に。


「どいつもこいつも、どれだけ篠の邪魔をすれば気が済むんだ!!!」


 最後は吠え声、そう獣の咆哮に近かった。

 それとともに、声にかき消されながらもぶちぶちと音が聞こえる。

 縄を引きちぎりながら、立ち上がろうとしているのだ。


 何か、恐ろしいものが放たれようとしている。

 男達はそれを直感した。しかし動けない。まるで、蛇に睨まれた蛙のようだ。


 そして暴走が始まる。

 一番最初の犠牲者は、当然ながら、少年——ねこさまを殴った男だった。




「ねこさま、ねこさま」


 呼ばれている。そうだ、ずっと前から、こうして呼ばれていた気がする。

 かたわらの猫を、ぼくはそっと撫でた。

(お前か?)

 ぼくを、呼んでいるのは?

 美しい白猫は、彼の手をするりと逃れ、しかし優しく擦り寄った。

(違うのか?)

 微かに猫は鳴いて彼のそばを離れていった。

 猫が向かう先を彼は目で追うと、そこには——、


「ねこさま!!」


 はっとぼくは目を開けた。

 暗い、と思ったら誰かに覗き込まれているらしい。髪が顔に触れて少しくすぐったい。

「無事か、ねこさま」

「って、うわあっ」

 覗き込んでいるのは篠だった。そしてぼくの頭の下の柔らかい感触は……、これは……、

「動くな、ねこさま。頭が落ちる」

 …………ぼくはまさか篠に膝枕をされているのか……!?

 得体の知れない女ではあるが篠は身体的にはしっかりと女性であるようで、いったん意識すると膝の感覚が、ちょっと、うう、おお。

 しばらくぼくを不審そうに眺めていたが、やがてふっと笑うと篠はぼくの髪をそっと撫でた。

「よかった、ねこさま。篠はもう一度ねこさまを失うかと思った」

「……」

 そこでぼくは今の状況が気になり始める。ええと、ぼくは一体どうなったんだっけ? 篠が泣いていて、頭がかっとなって、篠が大丈夫って言ったから安心して、……そしたら殴られたんだ。

「そうだ、チンピラは!」

 がばっと起き上がったが篠はさっと上体をよじってぶつかるのを避けた。

 ぼくらがいるのは元のボーリング場跡のようだった。辺り一面にちらばるガラスと何かの破片、そして男たち。……まさか死んでいるのではないだろうな。少し顔色を青くしたぼくに気づいてかどうか、篠が穏やかに言った。

「しばらく目は覚まさないだろう。全く、面倒くさいことに巻き込まれてしまったな。しかしもう解決した」

 ぼくはゆっくりと立ち上がった。まだ頭はかなり痛いし、ちょっとふらつくけど、なんとか歩いて帰れそうだ。

「……篠」

「どうした、ねこさま?」

「……これ、本当は篠一人で解決できたな?」

 ぎくりと篠が身を強張らせたのをぼくは見逃さなかったぞ。

「篠」

 篠は慌てて早口で言う。

「しかしあのとき絶体絶命だったのは間違いないんだ。あいつら、あんなもの持ち出してきて……」

 あのとき、というのは、涙を流していたときだろうか? 篠にそんなに苦手なものがあるなんて。

「あんなものってのは、なんだ?」

 篠はしかし、肝心なところでうつむき黙る。

「……篠?」

「……インコだ」

「は?」

 篠は思い出したのか、涙目でぼくを振り仰ぐ。

「インコだよインコ!! あいつら、チンピラのくせに鳥なんて連れて歩いて!肩に鳥乗せて歩くとかどこのロポット兵だよ! しかもインコなんて、外来種だぞ! あの虚無の瞳を、意志のない声を、篠は耐えられない! ああ、いやだ、この世からいなくなればいい!」

 狂乱状態で叫ぶ篠を、どうしようもなくぼくは見ていたが、ふと緑色のものを上空に見たような気がしてそちらを見た。

 緑色のインコだ。

 なんでこんなところに? チンピラたちが連れていたというインコが、逃げもせずこのあたりにいたんだろうか。

 ぼくの視線に気がついた篠もインコに気がつき、ぴたりと動きを止めた。否、小刻みに震えている。

 それをいいことにインコはばさばさ、と飛んできて、いまだ座っている篠の膝の上に着地した。

「ボクハ、ミーチャンデス」

 しかもしゃべった。

 篠は動かない。

「篠? 大丈夫か?」

「ボクハ、ミーチャンデス。ボクノジュウショハ、ミナミマチサンチョウメ……」

 インコは、いやミーちゃんはいまだしゃべり続けながら、篠の顔を見つめ、くいっと首を傾げた。

「篠……」

 篠は涙を流しながら気絶していた。


ステレオタイプなチンピラの言葉遣いがよくわからないです。ちょっと本作では語彙が多すぎな気がする。あと地の文に「チンピラ」を使いすぎな気がする。

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