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愛だけを失った世界「サーベスティア」  作者: 佐々木 綾
第2章 希望の種と、友達と
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その4

 五日目、ミシェンとメルタの仕事が休みだというので、今度こそメルタと会うことになった。首のあざも目立たなくなってきたので、包帯を外すことになった。

「うーん、まだ黒いな」

「そんなに近くから見るからだよ」

 ミシェンとカシェンが右から私の首を見る。おばさんが大丈夫と言ったからには、そんなに気にしなくてもいいと思うのに。

「まあ、いいや。よし、出発」

「いってっらしゃい」

「いってきまーす」

 ミシェンは右手を挙げただけで、妹の方を振り向きもせずに出発した。カシェンは家の手伝いがあるので、二人で行くことになった。メルタの家の近くで話す予定だ。

「まあ、あいつは他の人には優しいからさ、気にすんなよ」

「うん……」

 私はまだ心配だった。また、メルタの顔と口調で、クラスの人達のことを思い出さないか不安でならなかった。というこの時点で既に危ういが。

 メルタの家は意外と近かった。家の近くのベンチに座っている。私達は近づき、ミシェンが、

「よっ」

 と挨拶をした。

「おう」

 私服まで男物を着たメルタが、挨拶を返した。

「あ、あの……、こんにちは」

 私は怖じ気づきながら挨拶した。

「こんにちはー。リコちゃん、だったよな」

「はい……」

 やはり口調が怖い、同性だからこそ。

「で、あたし達の仲間にさせて欲しいってこと?」

 メルタがミシェンの方を向いて言った。

「ああ。ま、とりあえず座ろう」

 メルタは中央に座っていて、ミシェンが向かって右側に腰を下ろしたので、私は左側に座った。距離を開けて。

「もっと近づいていいんだぞ。それとも、あたしが嫌?」

 嫌ではない。私はつい先日まで黴菌女と呼ばれていたから。

「そんな訳では……」

「リコは訳有りなんだ」

「それで連れてきたって訳か。何ていう世界から?」

 私は一息置いて、

「地球です」

 と答えた。

「チキュウか……」

「チキュウは恐ろしい世界なんだ。何でも人が人をいじめるんだぜ」

「イジメル?」

「馬鹿にすることだよ。そして、リコは自分で死のうとしていたんだ」

「何!?」

 メルタの目つきが更に険しいものとなった。眉間にしわが寄っている。

「信じられない話だ。チキュウは化け物の世界って言ってもいいな。リコちゃん、絶対に死んだら駄目だよ。悲しむ人がいるんだからさ」

「そうそう、メルタと違ってな」

「馬鹿言うなこの阿呆!」

 メルタは怖がる必要のない人だった。ただ言葉が男っぽいだけで、心は優しいんだ。って、これが本物の心だったらいいのだけれど……。

 私が死んで悲しむ人。地球で言えば、両親だけだろう。でも、泣かしてしまうなんて、悪い人間だよな。私は考えた。自殺はしてはいけない。

 私が考えている間に、二人で何か話していたのだろう。

「そういうことで、橙色の種をこの前蒔いたんだ」

「それがいい。下手に緑の実を食べたらリラックスし過ぎるだけだからな」

 緑色は、リラックスの意味だったんだ。

 と、ミシェンが立ち上がって、座っている私達二人の顔を交互に見た。

「何やってんだよ」

「ん、やっぱりチキュウの人の顔の方が綺麗に見えるかな、って」

「失礼な!」

 メルタの目はパッチリと見開いていて、透き通る水色の瞳が美しい。顔も整っているのに、ミシェンの好みは違うのだろうか。

「もっとチキュウを見物すれば良かったなあ。でもリコが危ない状態だったし、それに……」

「それに?」

「いや、何でもない」

 ミシェンが何を思っているのかさっぱり分からない。忘れたけど、地球から出発する時に何か言っていたような……。

「というかさあ、何であんたなんかに比べられなきゃならないの!? もっと素敵な人だったら諦めが付くけど」

「やらしいなあ。男のくせして、王子様でも夢見てんのか?」

「あたしは女だ」

 なんなのだろう、この二人、と思いながら私は話を聞いていた。私も希望の実を食べれば、ここまでペラペラじゃなくても、話せるようになるのだろうか。生まれつきこうやって話せる人達が羨ましくてならない。何で私はおとなしく生まれてきたんだろう。

「リコちゃん、何か話すことない?」

「え、特には……」

「リコは俺に照れてるんだよな、な?」

「ち、違う……」

「ほら、な」

「えー、こんな奴のこと好きなの!?」

「そうじゃなくて……」

 ゆっくり話すことがそんなにも隠しごとをしているように感じるのか。困ったことになってしまった。

「俺のこと、どう思ってる?」

「馬鹿だよな」

 メルタが答えて、

「お前じゃねえ! リコだよ」

 と怒るも、すぐにニコニコと私を見るミシェン。本気なのだろうか。確かに彼の顔も「イケメン」と言えなくはないが……。

「素直に聞かせて」

 こんな時、何て言ったらいいのだろうか。本当、返事に困ってしまう。大体、まだ信用できるかさえ分からないのに。

「やさ……」

「おっ、こんなところで何をしてるんだ?」

 前にも見た、黄色い髪の少年、イギルだ。

「ちぇっ。何か用か?」

 私の答えを聞けなくて残念そうにしている。

「あ、イギル。このリコちゃんって子の話してたんだ。あと、こいつの馬鹿みたいな恋愛話」

「あ、言ったなー!」

「まあまあ、落ち着け。俺は仕事帰りだ。恋愛話はいいとして、その子、訳有りだって言ってたよな」

「ああ」

 ミシェンはメルタに話したように、イギルにも説明した。

「酷いな……。それで連れてきたって訳か。サーベスティアでは考えられない話だ」

「だろ」

「あたしだったら一発どかんって言ってやるけど、リコちゃんはそういう性格じゃないんだよな」

「希望の実に頼るしかないな」

 イギルは冷静に言った。

「ただ、橙の実を食べたからといって、どこまで変われるかが問題だが」

「確かに」

 メルタが腕を組んだ。

「リコなら大丈夫だ」

「まあ、頑張れよ。それじゃあ」

「ありがとうございます」

 イギルはまるで学者みたいな話し方をするな、と私は思った。本物の学者は見たことがないが、想像でそう思ったのだ。

「じゃあなー」

「またな」

「俺達も帰る? 太陽沈んできたし」

「そうだな」

「それじゃあ、また今度、機会がある時に。いいよな、リコ」

「うん」

 時間が経つのは早い。学校では遅くて、遅くて、嫌になったけれど、早く感じるということは、私は楽しんでいるということなのか。

「それじゃあな」

「じゃあな。リコちゃんも」

「さようなら」

 ベンチから立ち上がり、各々帰路についた。

「なあ、恥ずかしかったんだろ」

「えっ?」

 一体何を言われているのか分からなかった。

「俺のこと、どう思ってるか言うの」

 またその話を持ち出した。せっかくイギルのお陰で言わずに済んだと思ったのに。

「今聞くの勿体無いから、今度にしておくよ」

「あ、うん……」

 そういう問題じゃない。それなのに、返事をしてしまった。私は馬鹿だ。まあ、時間が経ったら忘れるだろう。そう思っているうちに、ミシェンの家に着いた。

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