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愛だけを失った世界「サーベスティア」  作者: 佐々木 綾
第2章 希望の種と、友達と
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その2

「冷や冷やしたぜ。母さん鋭いところを突いてくるなあ、友達が仕事中って」

 いや、そんなことはないと思うんだけど、と私は心の中でひっそりと思った。

 本当は行動するなら同性のカシェンが良かったが、無理矢理ミシェンが引き離したように感じた。何故そこまでするのだろう。夜中だって、あんなに燃えたりして。

 私の脈は良い意味ではなく、激しく打ち付けている。その友達の影響で、ミシェンの態度が変わってしまったら……。

「いつもなら転移術使うんだけど、リコに昼間の景色を見てもらいたいからね」

 そう言って、歩き続けるミシェン。私は常に距離をおいて歩く。一つ質問をしてみることにした。

「転移術って、誰でも使えるの」

 両手をポケットに突っ込んで歩いたまま、振り向かずに答えた。

「サーベスティアの人達はみんな使えるよ。だけど、俺はどうやら天才的なレベルらしい」

 声色でニヤニヤしているのが伝わった。

「本当、なの?」

「何だよー、本当だよ。じゃないと異世界なんて行けねえよ」

 ビクッとした。ミシェンの否定的な答えに、私は激しく落ち込んだ。

 私が黙ったので、こちらを振り向き、

「どうしたの。 俺、何か悪いこと言った?」

「……ううん」

 不思議そうに首を傾げて、ミシェンは再び前を向いた。

 訊いた転移術のことなんて、どうでもよくなっていた。考えてみれば、ミシェンは男なんだから、友達だって男だ。やっぱりカシェンが良かった、と心からそう思った。

 夜中に行った公園を通り過ぎる。小さい子供達が元気いっぱいに楽しく遊んでいた。あんな元気、どこから湧いてくるのだろう。私もそんな時があったけど、楽しかったという記憶はない。ただ、幼稚園や小学校の時、何かするという時に呼んでくれる人が数人いただけだ。真の友達ではない。休み時間も独りで読書をしたり、校内をうろうろしていた。

「おーい、ミシェン!」

 遠くから少年の声が聞こえた。

「お、ラカーレ」

 ミシェンが勝手に走っていってしまい、私は歩いてついていった。単に走る元気がなかったからだ。

「ミシェン、今日仕事休みなのか」

「ああ。ラカーレは学校行かないのか」

「いいんだよ。もう卒業したも同然だし」

「ハハハ」

「ん、後ろの女は誰だ?」

 ラカーレと呼ばれた少年は、私の方を覗き込んで言った。

「まさかミシェン、また異世界から、しかも美人を連れてきて……」

「な、事情があったから連れてきただけだよ」

「やっぱり連れて来たんじゃん。懲りないねえ」

「うるせえ」

 ミシェンは慌てて私を引っ張り出し、

「リコって言うんだ。さっき橙色の種を植えたんだ」

 と紹介した。私が一言言う間もなく、

「リコさんかあ。俺はラカーレって言うんだ。よろしくー」

 と自己紹介した。

「よろしく……」

 美人なんて初めて言われた。でもどうせ、冗談だろう。私はこの細い一重瞼で何度も「ブス」と言われているのだから。

 ラカーレは茶髪に緑の瞳をしている。アジア系とヨーロッパ系のハーフみたいだ。

「橙の実を植えたってことは、何か辛いことでもあったんですか。あと、首の包帯……」

「えっと……」

「あ、リコ、いいよ。後で俺が説明するから」

「あ、かばったなー」

 ラカーレがニヤニヤしている。

「惚れたんだろ」

「うるせえ!」

 会話が永遠に続いて私は突っ立って聞いていた。いつもこうなのだろうか。私はきょろきょろと周りを見ていた。レンガで舗装された道のど真ん中に私たちはいて、左手には市場で賑わっている。この二人の話し声が響き渡っているのではないのだろうか。

「そういえば、リコさんは何歳ですか」

 話し掛けてくるとは思わず、私はぴょんと跳ね上がるようにラカーレの顔を見た。

「十三歳です」

 ラカーレの目が大きく見開き、ミシェンと顔を合わせた。そしてまた視線を戻し、

「俺より年下じゃん!」

 と驚いたように言った。私はてっきりそうだと思っていたが。

「俺は同い年だと思ってたー。ちゃん付けした方がいいのか!?」

 ミシェンまで驚いている。私はどう答えていいか分からない。

「俺はリコちゃんに変えるぜ」

「俺はもう慣れちまったから、呼び捨てで……いいよな?」

「え、あ、うん……、いいよ」

「よし、じゃあ改めて紹介する。こいつはラカーレ、十四歳で、俺より一つ年下だ」

「よろしくー」

 ラカーレは目を細め、口を横に広げてニコニコと両手でVサインを作り、アプローチした。

「よろしく」

 彼もミシェンと同じくペラペラと話すので、苦手だな、と私は思った。

「ところで、何ていう世界から来たの」

「地球、です」

「チキュウかあ、初めて聞いたなあ」

「当たり前だろうが」

 ミシェンがツッコむ。

「ねえねえ、どんな世界?」

「おい、二人とも、何してるんだ?」

 黄色い髪が目立つ、丸い顔で、明るい茶色の瞳をした細い目の少年が、コチラを見て話し掛けてきた。緑の鉢巻きをしている。

「お、イギル。お前も仕事休みだったのか?」

「馬鹿野郎、もう昼だぞ。弁当買いに来たんだ」

 すぐにミシェン達はイギルと呼ばれた少年に成り下がってしまった。

「やべ、俺、もう帰るわ」

 ラカーレがのそのそと去っていった。

「その子は? また異世界から連れてきたのか」

「ま、まあな。リコっていうんだ。ちょっと訳有りで……」

 こんなミシェン、見たことがない。

「僕はイギル。十六歳だ。以後、よろしく」

「リ、リコです。十三歳です。よろしく……」

 緊張した。でも、真面目そうで一緒にいても悪くはなさそうだ。

「という訳で、暫く俺んちで世話になることになったんだ」

「どういう訳かまだ聞いてないけど。あ、時間がない。また今度な」

「あ、ああ」

 私とミシェンは、市場の中に入っていくイギルを見送った。

「俺達も早く帰らないと怒られる。転移術、使うぞ。あの時のように腕を掴んでくれ」

 また掴むの!? 怖いのと緊張の半分で私は思い切ってミシェンの腕に掴まる。そして、景色が変わった。

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