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愛だけを失った世界「サーベスティア」  作者: 佐々木 綾
第7章 大切な人、別れ
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その2

「私も、帰らないとね……」

「……」

 ミシェンは黙り込んだ。悲しくなってきた。地球では、私の両親が待っている。でも、でも、サーベスティアには大好きな人、友達がいる。今の私なら、地球でも友達ができるだろう。でも、そういう意味ではない。

 と、なんとミシェンが泣き顔の状態で、ベッドに上がり込んできたのだ。そして、私の細くなった腕をそっと抱いた。

 私達は、同じベッドの上で涙を流していた。私はミシェンの方に体の向きを変えた。そして、今度はお互いの手を握り締めた。

 離れたくない。

「お兄ちゃんどこいるのー?」

 カシェンが部屋に入ってきた。

「キャーッ!」

 私達はビックリして上半身を起こした。もう遅い、見られてしまった。

「カシェン、これは……」

「お兄ちゃんの変態!」

「ち、ちがっ……」

 カシェンは出て行ってしまった。

 改めてお互いの顔を見つめ合う。そして赤くなる。

「どうしよう……」

「俺達は堂々としていよう」

 それだけ言って、ミシェンは靴を履き、ベッドから下りた。

「リコ、立てるか?」

 私は靴を履いてベッドを下りた。まだフラフラする。

「歩けそうにない……」

「それなら支えてやるよ」

 ミシェンは私の右側に立ち、左肩を掴んで、玄関まで行き、慎重に階段を下りた。

「あ、転移術使えば楽に行けたんだった」

「どこに行くつもりなの?」

 ミシェンは何も言わず、転移術を使った。六色の樹のある広場だ。外はもう暗くなっていた。

「でね、抱き合ってたの……」

「カシェンちゃん、後ろ……」

「あー!」

 カシェンがメルタに事の次第を話していた。

「お兄ちゃん、リコちゃんに何て事したの!?」

「ただ見つめ合ってただけだよ。な?」

「う、うん」

 広場でこんなに密接していると恥ずかしくてならない。

「リコちゃん嫌がってんじゃないの? それとも本当に、カップルになったのか?」

「当たり前だ」

 その言葉に私の体中が熱くなった。

「……本当みたいだな」

「おーい、ミシェンー! って、リコちゃん……」

 ラカーレが私達を見た途端、げんなりしてしまった。

「お兄ちゃんね、リコちゃんと転移術で帰る前、聖堂の裏で泣いてたんだよ」

 カシェンが私に言う。

「な、なんだよ。いかにも俺が寂しがり屋みたいじゃないか」

「本当じゃない」

「男なのにみっともないよ」

「お前も男だろうが!」

「あたしは女ですう」

 メルタとミシェンの言い争いが始まった。私は笑って見ていた。

「ね、もう少しでお祭り始まるよ」

「お祭り?」

「紫の実が実ったお祭り」

 何だか、私とティスカと、ザイバーが頑張ったお祭りみたいで、少し照れた。

「楽しみ」

 ティスカやザイバーも外に出てきた。

「えっ、リコと一緒にいるの、ミシェンじゃないの!?」

「ミシェンってどんな顔してたっけ」

 ティスカがザイバーを蹴った音で私は気付いた。

「ティスカにザイバー! 凄い人の数だよね」

「ああ。それより、体は?」

「支えてもらえればなんとか……ってところかな」

「無理すんなよ。あと、ミシェンにも」

「む、無理なんかしてないよ」

「お、みんな集まってるな」

 イギルだ。

「っておい、ミシェン……。まさか……」

「そのまさかだぞ」

「何!?」

 私達、注目の的になっている。恥ずかしい、けれど、この温もりが……。

 やがて、お祭りが始まった。皆で踊ったり、食べたり、店を回って遊んだり。そして、楽しく話した。結構日本に似ているお祭りだ。

 最後に神父様が、用意された壇上に上がり、

「今までにはなかった、『実がなくなる』という前代未聞の事件がありましたが、少年少女の努力でまた復活したことには大変驚きました。名前を呼ばれた者はこの壇上に上がりなさい。リコさん、ティスカさん、ザイバー君」

 私はよろけながらも三人で壇上に上がった。そして、拍手が沸き起こった。

「……よって、この三人を褒め称えます。では、壇上から下りなさい」

 二人は私を支えながら壇上から下り、ミシェン達の元へ戻った。

 再びミシェンの左腕に支えられ、お祭りも終わり、それぞれの家に帰ることになった。

 大勢の人が散らばっていき、カシェンは勿論、おじさんとおばさんの二人と合流した。

「リコちゃん、久しぶり!」

 おじさんとおばさんは声を揃えて言った。そして隣にいるミシェンに、

「あんた、その年で何やってんの。リコちゃんから離れなさい」

 と叱った。

「やだねー。な、リコ」

「う、うん」

「ミシェン、いくらもうすぐ大人になるとはいえ、まだ早い」

 おじさんも叱る。

「だって、くっついてしまったのは仕方がないしなあ」

「そうだよね」

「リコちゃん!?」

 笑顔で見つめ合った私とミシェンに、父と母と妹は驚いていた。

「……まあ、いいわ。今夜はリコちゃんの為に、沢山料理を作ったわよー」

「申し訳ないです」

「何遠慮してるの。その細い手、顔。いっぱい食べてもらわないと」

 そんな会話をしている間に、ミシェンの家へ着いた。

 おばさんが一生懸命料理を運ぶのを、カシェンが手伝う。私の口の中は唾が出るのが止まらない。

「それでは、食べましょうか。いただきます!」

「いただきます!」

 私は男並みにがつがつと食べた。そのスピードの速さに、おじさんやカシェンの目が点になる。

「おかわり下さい!」

「はーい」

 おばさんが私の皿に山盛りに盛った。それをまた凄いスピードで食べる。

 美味しくて、こんなに沢山食べれて、涙が出る。幸せ過ぎる。

「まだおかわりありますか?」

「これで最後よ」

 おばさんが最後の最後まで皿に盛ってくれた。やっと食べるスピードも落ちて、満腹になった。何ヶ月振りだろう。

「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした」

「凄い食べっぷりだったな、リコ」

「だって、殆ど食べてなかったもん」

「リコちゃん、元気になったわねえ」

「ありがとうございます!」

「今日はゆっくり寝てね」

「はい」

 感謝でいっぱいだ。他人なのに、こんなにご馳走を作ってもらって、親切にしてくれて。

「私と寝るの、久しぶりだね」

「そうだね」

「俺と一緒に寝ない?」

「馬鹿言うんじゃない!」

 楽しい。嬉しい。愛があるのとないのとでは、こんなに違うものなんだ。私は改めて実感した。

 とカシェンが冷蔵庫を開けて何か探している。

「お兄ちゃーん、ここに置いておいた私のゼリーは?」

「リコにあげた」

「え、あのゼリーって……」

 カシェンが兄を睨んでいる。

「ご、ごめんね。知らなかったから、食べちゃった」

「リコちゃんが謝ることじゃないよ。あーあ、せっかくデザートにって取っておいたのに」

「また買えばいいじゃん」

「そういう問題じゃなくって!」

 私は冷や汗をかきながら笑った。ミシェンって、なんでこんな魅力があるんだろう。

 久しぶりに温かい湯船に浸かり、体を綺麗にしてカシェンから借りたパジャマを着た。懐かしい。

 ミシェンがお風呂に入っている間、私はもう寝てしまおうと思った。本当はあがってくるのを待っていたいけれど、体を休めなくては。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 私は、カシェンとおばさんに挨拶してから、カシェンのベッドで眠りについた。

 いよいよ明日、お別れなんだ……。

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