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愛だけを失った世界「サーベスティア」  作者: 佐々木 綾
第7章 大切な人、別れ
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その1

 ん、ここは……。

 私は……、そうだ、皆の前で立ち上がった時に倒れてしまったんだ。

 ここはどこだろう。私は水色のベッドで仰向けになっている。周りを見渡すと、床には本が散乱し、机の上も汚い。誰かの部屋、か。

 すると、ドアを開ける音がした。そして、足音はこちらに近づいてきた。

「良かった、目が覚めたんだな」

「……ミシェン?」

「今、水持ってくるから」

 そう言って、部屋を出て行った。ここはミシェンの家だったのか。じゃあ、この部屋は……、ミシェンの部屋!?

 ミシェンはコップ一杯の水とゼリーを持ってきた。私は上半身を起こす。

「はい」

「ありがとう」

 私は一気に水を飲み干し、ゼリーをスプーンを使ってゆっくり味わった。なんて甘くて美味しいのだろう。リンゴのような味がする。

「ハハ、順番が逆じゃないか」

「いいじゃん」

 私達は見つめ合って笑った。

 倒れる前にも見たが、ミシェンが元通りになっているのを見て、安堵した。

 私は二人きりで緊張していたが、再び横になり、ミシェンに目を合わせた。

「そういえば、どうして私はここに……?」

「俺が転移術で運んできたんだ」

「そうだったんだ。ありがとう」

「本当に明るくなったな」

 私の顔がポッと赤くなった。喜んでいるミシェンの顔を見て、口角を上げた。

「今まで愛なんて考えたことなかったけど、愛が無くなるってのは凄く怖い事だって分かったよ」

「ごめんね」

「いや、リコのおかげだ。そうじゃなければ気付かないまま大人になっていたから」

 私は罪を犯したのに、今ではそういう捉え方をされているんだ、と驚いた。

「私が倒れる前いなくなってたけど、どこにいたの?」

「そ、それは……、聖堂の裏で……」

「裏で?」

 今度はミシェンが赤くなっている。あんまり訊き出さない方がいいか、と私は敢えて話すのを止めた。

 家には誰もいないみたいだ。異様な静けさになったので、何か話さなくてはと慌てると、

「よく弁当屋で、しかも毎日働いたよな。リコにとって究極の努力をしたんじゃないか?」

「まあ、ね。最初は無理だって思ったんだけど、やらなければいけなくなっちゃったから、死ぬ気で頑張ったよ。橙の実を食べてからは楽になったけどね」

「冷たい態度で接して悪かった」

「そんなのもう気にしなくていいよ」

「いや、駄目だ。俺は、俺は……」

 ミシェンは両手を組んで、下を向いた。何だか様子がおかしい。

「大丈夫?」

「うっ……」

 ベッドが濡れた。涙だ。

「泣いてるの……? ミシェンらしくないよ」

 私は笑顔で言った。

「こっち見るな」

「泣いたって、いいんじゃない。男でも、泣きたい時ってあるんじゃない?」

 そう言うと、ミシェンは顔をあげた。涙の痕が残っている。

「いいのか、こんな俺でも」

「いいよ。ミシェンらしくない、って言っちゃったけど、これもミシェンだから……」

 ミシェンは思い切り泣き始めた。私は背中をさすってあげたくなった。けれど、そんな勇気なんて……ない。

 少し泣き止んだところで、ミシェンが話した。

「前に俺が六色の樹の実を食べたことについて訊いた時、リコは『出来心』だって言ったけど、何でそんなことになってしまったんだ?」

 私は少し壁の方を向いて言った。

「私に言われた訳じゃないことでも怖くなったり、ショックを受けたりして、すぐにでも変わりたいって、それしか思えなくなったの」

「ということは、計画して俺の家を出て行ったってことだよな」

「そうだね」

「それって、出来心とは言わないんじゃないのか?」

 だったら何なのだろう。計画的な犯罪だったのだろうか。

「意味は似てるけど、真夜中に抜け出す時、見計らったんだろ? それだと、『実を食べる為に真夜中出て行こう』って意味になるじゃん」

「言われてみれば……」

 確かにそうだ。私は咄嗟に罪を犯してしまったと思い込んでいた。でも、考えてみれば、違う。

「私は……、あの時の私は、自分が嫌で仕方がなかった。だから……」

「昔のリコも魅力的だったよ」

「そういう言葉もからかってるように取ってた」

「ええ、そうだったの!? そんなにリコの中では、人に対して不信感を抱いていたのか?」

「うん……」

「あー、俺がもっと理解していれば……」

「ミシェンは十分理解してくれたと思ったよ」

「いや、違う」

 必死になってる彼を見て、私はもういいのに、と思った。

「もう不信感はなくなったよ、橙の実のおかげでね」

「良かったー……」

 ミシェンの安心している顔を見て、私もホッとした。この感情、私……。

「野宿生活、よく耐えられたな」

「仲間がいたから耐えられたんだ。最後は独りぼっちになっちゃったけど」

「その仲間って、確かティスカとザイバー、だよな」

「ミシェンが他に連れてきた異世界の人なんでしょ?」

「ああ、リコが来る前にな。天才転移術児って言われてから、他の世界、星に行って、いろんな異世界人と話した。ティスカやザイバーもその一人だったんだけど、ティスカは病院を抜け出したら苦しくなったらしくて、連れてきた。ザイバーは……、そうそう、仕事がないって、人生をやり直したいって願っていたから連れてきたんだ」

「そうだったんだ……」

「二人の願いは叶ったか?」

「叶ったよ。ティスカは元気になったし、ザイバーも怒りにくくなったって」

「それじゃあ、元の世界に帰さないとな」

「そうだね」

 そうだ、私も願いが叶ったから、帰らなくちゃいけないんだった……。

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