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その3

「おーい、リコちゃーん!」

「リコー!」

 ザイバーとティスカの声だ!

 私は聖堂の正面玄関から出てきた二人と、一人の聖職者の元へ走った。

「ティスカ、ザイバー!」

 私達は手を繋ぎ、話をした。二人とも深緑色の服を着ている。

「久しぶりだな!」

「久しぶり」

「心配したよ。大丈夫だった?」

 すると、深緑色の服を着た男性が、

「聖堂管理者です。お二人は一生懸命雑務をこなしていましたよ」

 とにこやかに言った。

「大変だったんだぜー。でもリコちゃんの為に頑張んないとって思ってな」

「リコ、落ち込んでると思って」

「私こそ、二人の為に頑張んなきゃって、頑張って仕事してたんだから」

「泣いたんじゃないの」

「あ、まあ、それは……アハハ」

 この楽しい会話。やっぱり皆がいた方がいい!

「目撃者って、誰だったんですか?」

 私は聖堂管理者に質問した。

「……私です。変な形でお二人を捕らえてしまい、申し訳ありませんでした」

「え、じゃああの時ばれてたってことか?」

「ほら、ザイバー。やっぱり作戦失敗だったじゃんか」

 ザイバーは頭を下げた。

「ま、まあいいじゃない。ご飯食べられたんでしょ?」

「うん……」

 目撃者は、聖堂の管理者だったんだ。だけど、それが噂になって、変わっていって、一般の人のようになってしまったんだ。

 それじゃあ、あの時、ミシェンが言いたそうにしていたことは何だったのだろう。

 続々と六色の樹に人々が集まり始め、謝っていたり泣いていたりしている。愛を失った時の記憶が蘇って、反省しているようだ。

「でも、リコが一人でちゃんと働いているとは思わなかったよ」

「何それ、ひどーい!」

「おっ、初めて反発したな!」

 い、今、私……、普通に返事をしていた。

「これもサベスの実のおかげだな」

「そうだね」

「エヘヘ。みんなはいい事あった?」

「あたしはバリバリ廊下の拭き掃除や窓拭きとかが出来るようになったよ」

「俺はカッときてすぐに怒り出すことがなくなった」

「そっか。みんな、良かったね!」

「うん」

「ああ!」

 笑い合った。今までの孤独を埋めるように笑い合った。話を楽しんだ。

「そうそう、返す鉢植え、持ってこなきゃ。みんなの着替えもあるし……」

「だったらあたしも行く!」

「俺も」

「じゃあ行こう」

 これで、森の家に帰るのは最後だ。市場は賑わい、倒れていた怪我人は病院へ運ばれ、平和になっているのが目でわかる。

 長い市場を出て、レンガの道を外れ、森の中へ入った。日差しがとても心地よい。

「あった、俺の服」

「あたしの服もあった」

「私は、服と鉢植え」

 希望の鉢植えの木は枯れていた。役割を果たしたんだな、と思って、心の中で「ありがとう」と言った。

 森へ別れを告げ、また長い市場を通り抜ける。

「疲れたからベンチ……」

 全てのベンチは座られていた。

「この辺にでも座ろ」

「そうだな」

「うん!」

 私達は聖堂の横に座った。私は下に希望の鉢植えを置き、服を抱えてウトウトとした。

「リコ、疲れてんのかな」

「そりゃそうだろ。一日三食食べないで働いてたんだから」

「そうだね……」

 私は夢を見ていた。目の前には美味しそうな料理が沢山あって、お皿に取らず、そのまま夢中になって食べ続けている。牛肉のステーキにスープ、そしてデザートのパフェ。全てが美味しい。お代わり自由。周りにはティスカ、ザイバー、そして、ラカーレ、イギル、メルタにカシェンが座ってこちらを見ている。みんなも食べなよ、と私は言う。だけど、皆は私を見守るだけ。そして、ミシェンが前に現れた。起きろ、と何回も言う。そんなこと言わないで、食べて、と言うが、起きろとしか言わない。一緒に食べようよ、みんな、みんな……。

「みんな……」

「あ、起きた」

 懐かしく、温かい声が頭の中に響く。私は目を開けた。

 目の前には、ニンマリとしているミシェンがいた。

 隣にカシェンやラカーレ達、ティスカにザイバー、皆が眠っていた私を見守っていたのだ。

 私の目はじんわりとなり、涙が溢れ、頬を伝う。

「今まで、ごめんな」

「本当にごめん」

「ごめんね」

 次々と謝り出す。

「みんなは悪くないよ。全部私が悪かったんだよ」

「そんなことない。私だってリコちゃんの鉢植えにお水をあげなかったもん」

 カシェンも涙を流した。

「俺だって悪かった。リコちゃんのこと無視して、ティスカと話したりなんかして……」

 ラカーレが後ろを向いた。泣いているらしい。

「男なら泣くな」

 イギルがラカーレの肩を叩いた。

「そうだ、男なら泣くな。リコちゃん、弁当買いに行った時、いつも素っ気ない顔して悪かった」

 メルタが謝った。

 みんな、優しい。みんな、愛がある……。

「ありがとう、みんな。ありがとう……」

「リコちゃん、随分喋るようになったね。橙の実のお陰かな」

「そうだよ。実を食べた時、元気の味がして、体中から自信が湧いてきたんだ」

「良かったね」

「おめでとう!」

 私は愛されている。

「チキュウに帰っちゃうんだよな……」

 後ろを向いていたラカーレが悲しそうに言う。

 そうだ、もうすぐお別れなんだ。地球には帰れるけど、ここにはもう来れないんだ……。

「ほ、ほら、同じ宇宙の中にあるんだからさ、いつも一緒だよ」

 メルタが励まそうとしている。

「うん、そうだね。お別れしても、別れることなんてないよね」

 あれ、ミシェンはどこに行ったんだろう。皆と話していて、嬉しくて感激して、いなくなったのに気が付かなかった。

「それにしてもリコ、体型がガラリと変わったな……」

 イギルが言ったので、

「本当、大丈夫なのか?」

 とメルタが訊いた。

「……大丈夫です」

「大丈夫じゃないに決まってんだろ。あたしだって駄目だめだったんだからさ」

「そうそう」

 ティスカとザイバーが言った。

 私は六色の樹の実を食べてしまったことについて謝罪しようと、立ち上がった。が、フラフラする。

「大丈夫!?」

「だ、だいじ、よう、ぶ……。ご、ごめん……」

 そう言った途端、私は倒れてしまった。

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