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愛だけを失った世界「サーベスティア」  作者: 佐々木 綾
第1章 異世界「サーベスティア」
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その2

「着いたぞ」

「えっ」

 一秒も掛かっただろうか。すぐさま掴んでいた手を離す。結局はお遊びで、馬鹿にされたんだと思いながら、私は目を開けた。

 景色がガラリと変わっていた。太陽が優しく私を包み込む。地面から伝わってくる「気」、これは何と表現したらいいのだろう。元気付けられているような感じだ。周りには、所々に小さなレンガの家があり、私とミシェンがいる前にも一軒の家が建っている。

「ようこそ、希望が実る世界、サーベスティアへ! あ、そこの家、俺んちね」

 ミシェンが格好付けて言った。

「希望が実る」って、一体どういうことだろう。

 と、そこへ勢いよくドアが開いて、中からふくよかで、桃色に近い赤い髪を後ろで団子状に束ねた女性が出てきた。

「ミシェン、また仕事抜け出して! もしかしてまた誰か……」

 ミシェンの母親らしき女性は、私を見ると、すぐに態度を変え、

「あら、ごめんなさいね。うちの馬鹿息子がいつも仕事中抜け出してるから……オホホ」

 と誤魔化した。

「母さん、これも仕事の内だよ」

「何馬鹿なこと言ってんの。そんな仕事がある訳ないでしょ、もう。この子は?」

 びくりとした。違う星からやって来た、なんて言ったらどんな反応をするのだろう。

 そんなことを考えてる間に、

「チキュウのニホンって世界から連れてきたんだ。あとは宜しく」

「はあ? ちょっと待ちなさい、本当にまた異世界人を連れてきたわけ?」

 ミシェンは母の質問にも答えず、一瞬で消えてしまった。

「ほんと、あの子の転移術の素早さといったら……」

 無責任だ。私は思った。ミシェンの母も呆れていた。

 そういえば、「また異世界人を」と、言っていた。何度もこの世界に、他の星の人たちを連れてきているのだろうか。

 おどおどしている私を見て、ミシェンの母は改めて面と向かって話した。

「本当にごめんなさいね。って、あなた、その首のあざは……!?」

 すっかり忘れていた。鏡を見ていなかったし、異世界に行くとかで、痛みも気にならなくなっていたのだ。

「き、気にしないで下さい」

「そんなこと出来ないでしょう。とりあえず、包帯を巻きましょう」

 スタスタと家の中に戻り、奥で誰かとの話し声がしたと思った後、すぐに戻ってきた。手には救急箱を持っている。

「一体何があったの?」

「それは……」

 黙り込んだ私を気にせず、丁寧に包帯であざを隠してくれた。

「よし、っと。これで、とりあえず痛々しいのは気にならなくなるけど……、ミシェンが連れてきたのにも意味があるようね。とりあえず中に入って寛いでちょうだい」

 はい、と答え、私はミシェンの母と一緒に家の中へ入った。靴は脱がずに、玄関で汚れを軽く払い、狭いリビングには、中央に木のテーブルと椅子が四人分置かれていた。奥にはキッチンがあり、私と同じくらいのこれまた金髪の少女が、料理をしている。先程の話し声は、この子だったのかもしれない。

 気配に気付いたのか、金髪の少女はこちらに振り向いた。ミシェンに似た顔、茶色の瞳、紛れもなく兄妹だ。

「あ、初めまして。首、どうかしたんですか?」

 向こうから丁寧に挨拶してきた。慌てる私に、

「ちょっとねえ、怪我してて」

 と、ミシェンの母が話してくれた。

「そう……」

 ミシェンの妹であろう少女は、私に気を遣っているようで、何も聞いてこなかった。

「そういえば、まだ名前聞いてなかったわね。何ていうの?」

 ミシェンの母の問いに、私は答えた。

「リコ、です」

「リコちゃんっていうの。宜しくね。私は、もう分かってると思うけど、あの馬鹿息子……じゃなくてミシェンとこの子の母です」

 口癖か、オホホ、と誤魔化したつもりで笑いながら、ミシェンの母が自己紹介した。すると、少女の方も、

「私、カシェンです。何か困ったことがあったら言ってね」

 と、明るく笑顔で言ってくれた。

 何だか、この世界なのか、この家族は違う。いや、私のことを何も知らないからだろうか。そのうち……。

「リコちゃん、疲れてるようだから、カシェンのベッドで休んでなさい。いいわよね、カシェン」

「うん、もちろん」

 黴菌だらけの私が寝てもいいのだろうか。後から豹変でもしないだろうか。

 カシェンの部屋は、リビングの左手前のドアに繋がっていた。中はベッドと机だけで、歩くスペースも殆どない。存在する価値もない私の部屋と比べたらとても狭くて、私の部屋が贅沢に思えた。

「それじゃあ、ゆっくり休んでてね」

 そう言うと、おばさんは部屋から出て行った。

 キチンと整頓された机の上や本棚。桃色の絨毯に、ベッド。

 目に映る光景に、私は悩みながらも、靴を脱いでベッドの中に潜った。もう引き返せない。制服のまま寝るのは何となく居心地が悪かった。

 日本ではもう母も帰ってる頃だろう。私がいなくて大騒ぎしているんだろうな。一人娘だもんね。学校にも連絡がいって、皆は面白がっているのかな。まさか異世界にいるなんて誰が考えているだろうか。考え出したらキリがない。

 私は、目を瞑った。そして、いつの間にか深い眠りに落ちていた。

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