その2
店側に回ると、今更だが客が増えていることに気が付いた。もう昼時か。
「お弁当はいかがですか」
私は何度も声を出した。その声に反応して買いに来る客達。といっても、無言だが。
喜びを噛み締め、次の客が来た。
「いらっしゃ……」
私は口をポカンと開けた。
ミシェンだ。
「リ、リコ。何で出ていった?」
「そ、それは……」
ミシェンの目は細く、怒っているようだった。
「時間がねえ。その弁当を一つ」
「は、はい」
私はミシェンに言われた弁当を一つ手渡して、お金を受け取り、計算はティスカに任せてお釣りを渡した。弁当を受け取ったミシェンは何も言わずに元来た道を足早に戻っていった。
笑わなかったミシェン。やはり、愛を失っていた。一番見たくなかった顔だ。怒っていたようだったけれど、その後無表情になったのが引っ掛かる。私のこと、それほど気にしていないのだろうか。胃がキリキリと痛んだ。
「今は仕事」
あれこれ考えている私を、ティスカが注意した。
「ご、ごめん」
「お弁当はいかがー?」
私は再び明るい笑顔で仕事をしなければ、と思った。
閉店の時間になった。
私達、そして他の店員は社長の前に立ち、給料をもらった。そして、売れ残りの弁当を配った。
「ご苦労様でした」
私達は得した気分で帰ってきた。給料――サーベスティアでは日給制らしい――と弁当を三つもらったのだ。朝食も昼食も食べていない私達は、よだれが出るのを必死に抑えた。だが、お腹が鳴るのは抑えられない。
「このお弁当、ザイバーさんが見たら喜ぶだろうね」
「そりゃそうさ。五秒で食べ切るんじゃない」
「あはは」
ザイバーが指定した待ち合わせ場所に行くと、お腹を抱えてうつむいて座っているザイバーがいた。
「ザイバー、どうした?」
「ただいま。大丈夫?」
すると、彼は、
「いい匂い……、食べ物だ」
もう幻覚が現れているように思えた。
「ザイバー!」
ティスカの声で、ザイバーはハッとなってこちらを見た。
「二人とも! その弁当は!?」
「お弁当屋さんで働くことになりました」
「で、その売れ残り」
「三つある……! やったー!」
ザイバーはティスカが持っていた弁当を一つ取って蓋を開け、夢中になって食べた。十秒で食べたかもしれない。
「食った、食ったー。二人とも、ありがとよ!」
「どういたしまして」
ティスカが呆れ顔で言った。
「俺は荷物運びの仕事を貰ったんだ。だけど、給料はこれっぽっちさ」
彼の手には、大きい銀貨が一枚と、二枚の銅貨が乗っている。
「あたしらだって、そんなもんだよ」
と、ティスカが小さい手で銀貨を一枚見せた。
「当分服は無理だな」
「朝食も無理」
「頑張って貯めるしかないかあ……」
私がそう言ったら、彼女がベンチに座ったので、私も隣に座って弁当を食べた。あまりの美味しさに、また感激した。
弁当の容器を設置してあるゴミ箱に捨て、私達はまた森の中に入り、横になった。
「それにしても、よく三人とも気付かれなかったよなあ」
「そうだな。特にティスカなんて肌黒いのに」
「見つかるのも時間の問題かな……」
「だったら働いて、貯めて、変装しなくちゃな」
変装したらかえって目立って見つかり易くなると思うが……。
「おやすみ」
ティスカが言った。
「おやすみー」
「おやすみ」
私はなかなか眠れなかった。あのミシェンが気になって……。




