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愛だけを失った世界「サーベスティア」  作者: 佐々木 綾
第5章 仕事とミシェン
18/30

その1

 私が寝心地の悪さで目を覚ますと、二人はもう起きていた。

 本当に昨日の午後は暇だった。が、今日は朝から忙しくなる。

「おはよう」

「おはよ」

「あ、おはよう」

 二人は服について話していた。

「俺は聖堂の服だし、ティスカはパジャマだしなあ」

「だから恥ずかしいって言ってんだろうが」

「でも、逆に貧乏人に見えて、仕事を貰えそうだぞ」

「あたしの話を聞け」

「ああ、うん、レディーにとってパジャマは恥ずかしいってことだろ?」

「話す価値ねえわ」

「おい!」

 ティスカはそっぽを向いた。そんな彼女に、私は話し掛けた。

「パジャマじゃ、歩くの恥ずかしいよね」

「でしょ。どうにかなんねえもんかな」

「魔法を使えたらいいのにね……」

「ほんっと。ミシェンも魔法使える奴連れて来いっての」

 ティスカはピリピリしている。相変わらず向こうを向いたままだ。あぐらをかいて腕を組み、左足をぴくぴくさせている。

 因みに、私はおばさんに買ってもらった黄色と橙色の服を着ていた。カシェンに借りていたパジャマが洗濯中だったから、そのまま着ていた。

「あ、そうそう、リコちゃん。俺、力仕事の方を当たってみることに決めたんだ」

「そっかあ。頑張ってね」

「おう。リコちゃんは、やっぱり市場の中から探すの?」

「うん……」

「あたしと一緒に仕事する?」

「え、決まったの?」

「決まってねえよ。一緒に頼み込みに行こうって言っただけ」

「……だよね。それ、いいね」

 私の心は安心していた。独りでは心細かったからだ。

「気を付けろよ」

「はい」

「分かってるよ。あんたもな」

「おう」

 今日も黒い雲が空全体を覆っている。不気味な中、私達は森を出て、市場の入口の前まで行った。

「じゃあな」

「バイバイ」

「頑張って下さい」

「そっちこそ。夜の待ち合わせはあそこのベンチな」

「オッケー」

 ザイバーはそう言うと、北の方へ歩いていった。工場や作業場は大体北の方にある。

「入るよ」

「うん」

 ごくりと唾を飲み込み、私達は静まり返った市場の中に足を踏み入れた。

 まだ朝だからか、人が少ない。今がチャンスだ。

 まずは雑貨屋を当たってみることにした。

「すみません」

「いらっしゃいませ」

「あの、ここで働かせてもらってもいいでしょうか?」

「お願いします」

「求人ということでしょうか」

「はい」

「店員が足りてるので無理です」

「分かりました」

 あっさり断られてしまった。

 根気強く、次は野菜売場へ。

「お断りします」

 次、果物屋。

「これ以上の求人は無理です」

 次、次……と当たっていくうちに十軒断られた。

「諦めないで、次行くよ」

「うん」

 布売り場。

「駄目です」

 服売り場。

「帰って下さい」

 駄菓子屋。

「店員を減らそうとしている位なので」

 もう何軒回っただろう。

「あっさり冷たく断られるね」

「ああ。もう少し頑張ってみっか」

「うん」

 私達は更に続けた。限界まできていた。

 そして昨日買った弁当屋。

「あの、働きたいのですが」

「少々お待ち下さい」

 店員は、店長らしき人に話している。すぐに戻ってきた。

「会計ならいいですよ」

 私達のげんなりとした表情が変わった。

「ほ、本当ですか!?」

「はい」

「ありがとうございます!」

 私とティスカは頭を下げ、共に見つめ合った。

「このエプロンを着て下さい」

「はい!」

 声を揃えて返事をした。

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