その1
私が寝心地の悪さで目を覚ますと、二人はもう起きていた。
本当に昨日の午後は暇だった。が、今日は朝から忙しくなる。
「おはよう」
「おはよ」
「あ、おはよう」
二人は服について話していた。
「俺は聖堂の服だし、ティスカはパジャマだしなあ」
「だから恥ずかしいって言ってんだろうが」
「でも、逆に貧乏人に見えて、仕事を貰えそうだぞ」
「あたしの話を聞け」
「ああ、うん、レディーにとってパジャマは恥ずかしいってことだろ?」
「話す価値ねえわ」
「おい!」
ティスカはそっぽを向いた。そんな彼女に、私は話し掛けた。
「パジャマじゃ、歩くの恥ずかしいよね」
「でしょ。どうにかなんねえもんかな」
「魔法を使えたらいいのにね……」
「ほんっと。ミシェンも魔法使える奴連れて来いっての」
ティスカはピリピリしている。相変わらず向こうを向いたままだ。あぐらをかいて腕を組み、左足をぴくぴくさせている。
因みに、私はおばさんに買ってもらった黄色と橙色の服を着ていた。カシェンに借りていたパジャマが洗濯中だったから、そのまま着ていた。
「あ、そうそう、リコちゃん。俺、力仕事の方を当たってみることに決めたんだ」
「そっかあ。頑張ってね」
「おう。リコちゃんは、やっぱり市場の中から探すの?」
「うん……」
「あたしと一緒に仕事する?」
「え、決まったの?」
「決まってねえよ。一緒に頼み込みに行こうって言っただけ」
「……だよね。それ、いいね」
私の心は安心していた。独りでは心細かったからだ。
「気を付けろよ」
「はい」
「分かってるよ。あんたもな」
「おう」
今日も黒い雲が空全体を覆っている。不気味な中、私達は森を出て、市場の入口の前まで行った。
「じゃあな」
「バイバイ」
「頑張って下さい」
「そっちこそ。夜の待ち合わせはあそこのベンチな」
「オッケー」
ザイバーはそう言うと、北の方へ歩いていった。工場や作業場は大体北の方にある。
「入るよ」
「うん」
ごくりと唾を飲み込み、私達は静まり返った市場の中に足を踏み入れた。
まだ朝だからか、人が少ない。今がチャンスだ。
まずは雑貨屋を当たってみることにした。
「すみません」
「いらっしゃいませ」
「あの、ここで働かせてもらってもいいでしょうか?」
「お願いします」
「求人ということでしょうか」
「はい」
「店員が足りてるので無理です」
「分かりました」
あっさり断られてしまった。
根気強く、次は野菜売場へ。
「お断りします」
次、果物屋。
「これ以上の求人は無理です」
次、次……と当たっていくうちに十軒断られた。
「諦めないで、次行くよ」
「うん」
布売り場。
「駄目です」
服売り場。
「帰って下さい」
駄菓子屋。
「店員を減らそうとしている位なので」
もう何軒回っただろう。
「あっさり冷たく断られるね」
「ああ。もう少し頑張ってみっか」
「うん」
私達は更に続けた。限界まできていた。
そして昨日買った弁当屋。
「あの、働きたいのですが」
「少々お待ち下さい」
店員は、店長らしき人に話している。すぐに戻ってきた。
「会計ならいいですよ」
私達のげんなりとした表情が変わった。
「ほ、本当ですか!?」
「はい」
「ありがとうございます!」
私とティスカは頭を下げ、共に見つめ合った。
「このエプロンを着て下さい」
「はい!」
声を揃えて返事をした。




