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愛だけを失った世界「サーベスティア」  作者: 佐々木 綾
第4章 愛を食べたリコ
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その3

 だんだん明るくなってきた。といっても、空は真っ黒な雲で覆われている。今が夜みたいだ。

 私は森を抜けて、どの辺りにいるのか確認したかったが、ティスカのもとに戻る時に場所が分からなくなったら大変なので、彼女が起きるまで待つことにした。

 今まで晴れが続いていたのは、六色の樹とその実のお陰だったのだろうか。

 大分明るくなってきて、漸くティスカの姿を見ることが出来た。背が低く、肌は黒人のように黒くて、緑色の髪の毛をしている。

 ……もしかして、あの時聖堂から出てきた少女? 服は白いパジャマを着ているが、可能性は大だ。

「ん……」

 ティスカが目を覚ました。

「おはよう」

「おはよ」

 彼女はパジャマの上から目を擦り、私が言った挨拶に返した。

「今にも雨が降ってきそう」

「うん……」

 私達は空を見上げた。

「あ、着替え……。ちょっと、パジャマのまま外を歩くことになるの!?」

「ごめん、本当にごめんね」

 怒り出したティスカに謝る私。濃い緑色の瞳が隠れそう。

「とにかく、私が出来る限り償うから」

「約束だよ」

「勿論」

 私は誓った。どんな駄目人間だからって、悪事を働いてしまったのだから、償わなければ。でも、ただ謝るだけでは、償いきれないと思う。もっと、何か人の為になることをしなければならないのではないか。

 私達は森の外に出ることにした、慎重に。ここに来た道に足跡が残っていたので、辿っていったら、無事に森を抜け出せた。

 聖堂に近づかないように、ゆっくりと色んな道を歩く。いつまで経っても、何処を歩いても静けさが漂って、気味が悪い。

 市場の近くまで来た。静かなので、店を開いているのか遠くからこっそり見てみると、驚くべき実態を目にした。あの賑わっていた市場が静けさの中で、そして人々は無表情で売り買いしていたのだ。

「愛が無くなると、あそこまで変わるものなの……!?」

 更に驚きの声を耳にした。

「六色の実が一つ無くなったんだってねえ」

「聖職者、怒ってるらしいわよ。犯人を探しているって」

「当然よねえ」

「真夜中だったから、どんな顔をしているか分からなかったみたいだけど」

 客同士が淡々と話している。

「ど、どうしよう……」

「償うんじゃなかったの」

「そうだけど……」

 見つかってしまったら、どんな刑に処せられるのか。私は怖くてどうしようもない。

「どけどけ!」

 急に体格のいい男が私達の横を通り過ぎていった。

「金は返さねえぞ」

「返さなかったらぶん殴る」

「なんだとー、この野郎!」

 今度は金で喧嘩だ。

「止めて!」

 私は精一杯叫んだ。

「お前みたいな女に何が出来るって言うんだ」

「お願いだから、素直に盗んだお金を返してあげて」

「誰が返すもんか」

 そのまま争いは続く。

 私は耐えきれず、泣いてしまった。

「ちょっと、隠れよう」

 ティスカの案に、私は同意した。

 誰もいないのを確認すると、

「あれがリコが食べた愛か」

「私、愛を見せていたの?」

「だって、あんな男等に普通怖くて『止めて』なんて言えっこないじゃん」

「た、確かに……」

 私が変わったところは、そこだったのか。でも、私に愛は足りていたと思う。それなのに食べてしまって、結局あまり意味が無かったことになるではないか。

 って、今更何を考えてるんだ、とたった今考えていたことに自ら鞭を打った。

「向こうで怪我人が出たみたいだぞ」

 今度は遠くから淡々としたおじさんの声が聞こえた。

「怪我人!? ……誰も助けてあげないのかな」

「あげてないんじゃない」

 もう殆ど棒読みだ。店の人も、お客さんも、近くにいる人も。

 嗚呼、と私はその場に崩れ去った。

「ちょっと、自分を責めすぎじゃないの?」

 ティスカが私を支えた。

「だって、私がサーベスティアをこんな風に変えちゃったんだよ」

 待てよ、とティスカは首を傾げた。

「あたしは結構性格きついって言われてんだけど、こうやって今二人でいる。淡々と喋ったりなんかしてないし……」

「どういうこと?」

「つまり、異世界人には影響が無いってこと」

「言われてみれば、そうだね。私達二人は何も変わってないね」

 希望の実は植えた人自身だから、効果がある。だけど、六色の樹はサーベスティアのシンボル的存在で、植えた人とかは関係ない。こんな感じで、異世界の人には影響しないのだろうか。私は考えた。

「もう一回市場の近くまで行ってみよう」

「リコから言うなんて。また泣くんじゃないの」

「うっ……」

 それでも、私達は行くことにした。

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