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夢の雑音

作者: S
掲載日:2026/07/03

まさか君が結婚するとはな、先を越されてしまったよ。僕か?僕はこれといった出会いはないよ。いやいいさ、彼女なら自分で見つけるよ。久しぶりの再会なんだ、僕の事なんか話さなくたっていいさ。遠慮している訳ではないよ。


ただ、最近は面白い事もないんだ。大学生くらいの頃が一番楽しかったさ。知ってるか?あの頃は僕も少しモテてたんだ。今はフリーターで独り身さ。まあ、働いているだけで偉いとは言えるだろう?そうだな、河越は今何をしてるんだろうな。はは、河越が夢に出てくるってどんな悪夢なんだ。


そうだな、僕も何か話せる事といえば、夢の話だよ。

そんな面白い話じゃないさ、ただ奇妙な夢の話だよ。

そもそも夢はどうして見るか知っているか?睡眠中に脳が日中の記憶や感情を整理し、情報を定着させる過程によるものなんだ。実際にその日に見たものや考えている事が夢に出るだろう?


そんな事ないって?まあそれは個人差さ。よく言われているのは夢に見る内容によってその人の精神状態が分かるとかだよ。夢は無意識のサインを映し出す鏡でもあるんだ。それだと、河越を気にしている事になるって?まあ実際、そうなんじゃないのかな。彼なら死んでいてもおかしくないしさ。ああ、何の話をしていたっけ?そうだ、僕が見る奇妙な夢の話だ。


今から2ヶ月前の話なんだが、その夜はいつもに増して眠れなかったんだ。眠れない時はテレビやスマホを見ていたんだが、流石に良くないかなと思い、布団に寝転がっていたんだ。それで、2時くらいだったかな。布団で考え事をしていると変な音がしたんだ。


ず、ず、ず、ず。みたいな何か低い音がね。それは人の声なのか、物を引きずる音なのかも分からなかったよ。それで怖かったけど、そんな音がしていたら寝れないからね。音の正体を確かめに布団から立ち上がろうとしたんだ。けど、体が動かない。起きられないんだ。まあ、俗にいう金縛りだよ。その音はどんどん大きくなっていった。ず、ず、ず、ず。ってね。


怖くなって目を閉じようとしたが、閉じられないんだ。おまけに声も出せなくなって、息もできないようになった。そして気を失ったんだ。けど、目を開けると、辺りは明るかった、朝を迎えていたんだ。そうさ、あれは全て夢だったんだよ。だけど起きたのは昼でね、その日はバイトが入っていたから急いでバイト先に連絡をしたよ。


夢じゃないかもしれないって?いや、夢さ。だって僕は昨日1時に寝た記憶がちゃんとあるからね。でもその夢を見ている時は寝ていないと思っていたんだ。夢の中で夢だと気づく人はなかなかいないからね。それで今もこの夢が続いているんだ。けど毎日じゃないのさ。必ず日曜日に見るんだ。いや、日を超えてるから月曜日かな。


精神科?はは、そんな大層にしなくてもいいさ。それに正直楽しんでいるんだよ。僕は今まで幽霊とか宇宙人とかそういう系に遭遇した事がなかったからね。だから霊感のある人が羨ましかったよ。ああ、いたよなそういう人。鈴果だっけ?あの背も声も低いやつ。ああ、そうだよな、ごめん。この話はやめておくよ。不謹慎だったね。


それで夢の話に戻るんだが、日曜日に昼寝をしていてね。その時にも夢を見たんだ。だけどいつもの夢と違った。夢の内容は、バイトに行くっていう平凡なものだったさ。何のバイトかって?葬儀屋バイトだよ。やった事もないのにね。そうだね、マナーも礼儀もない僕には縁のない仕事だね。


葬儀屋のバイトが何をやるか知っているかい?君が思っている感じの仕事じゃなくて、簡単に言うなら裏方の仕事さ。僕が夢でやっていたのは、葬儀用品や資材の運搬業務だね。そう、力仕事さ。今の僕に出来るわけがないね。懐かしいね、力が強い人といったら志真だったな。ああ、志真の奥さんは美人だったね。僕と名前が同じだし。けど、あんな性格の悪い志真には釣り合わない人だとは思ったよ。彼は、きっとたくさんの人から恨まれているに違いないさ。そうだね、だから河越は今も、ああなってしまったわけだし。辛気臭くなっちゃったね、話を戻そうか。


それで、僕は何人かで棺を運んでいたのさ。だが、急にガタって揺れたんだ。死体が動いたんだ。でも、僕は動揺しなかったさ。死後硬直の緩和だとかそういう現象を知っていたからね。けどね、揺れが激しくなったんだ。そして音が聞こえてきたんだ。ず、ず、ず、ず。ってね。


みんな棺を持ちきれなくなってその場に置いたんだ。僕はその時、気でも狂ったのかもしれない。棺の小扉を開けたんだ。すると、そこには。


そこで目が覚めたんだ。期待しちゃってたかな?ごめんね、僕は、肝心なところでいつもこれなんだ。


こう言う話ってオチがあると思うけどね、僕の場合特に無いんだ。あれからも同じ夢を見続けているだけで、あんな変わった事はないんだ。言っただろう?ただの奇妙な夢だとね。


久々に河越に会いたくなったって?やめておいた方がいいよ。君も僕ぐらいに河越に嫌われているだろうしね。まあ、志真よりかはマシだと思うけど。





君は鈴果をどう思っていたんだ?


変な事を聞いたね、ごめん。君にとっては忘れたい事かもしれないね。僕にとってもだけど。いつだっけ?ちょうどこの季節の日曜日だったかな。彼女が自殺をしたのは。


志真と僕と君、それと松坂に伊瀬。他にも何人かいたかな。そうだね、あのぐらいで自殺するとは思わなかったね。けど今見れば、あれは明らかないじめなんだ。


ごめん僕、結構嘘をついたんだ。河越は何ヶ月か前に死んだんだよ。はは、動揺する気持ちは分かるけど、少し話を聞いてくれないかな?


大学生の頃、河越と鈴果は付き合っていたんだ。二人とも消極的な性格で波長があったんだろうね。両方とも僕達にいじめられていたんだから、傷の舐め合いってやつなのかな?


けど、ある日鈴果は自殺した。卒業式に河越は来なかっただろう?あの時、彼は行方不明になっていたのさ。そして、何ヶ月か後の月曜に彼は廃ビルで死体になって見つかったんだ。死因は自殺で、そのビルの床には血文字でこう書かれていたらしいんだ。すず、すず、すず、すず、今行くから。ってね。


そうだよ、河越は鈴果の事をすずと呼んでいた。ここまで来ると、分かったかな?あの音は河越が鈴果を呼ぶ声で、僕の夢に出てきたのは彼の憎しみなんだ。その事をいつ知ったかって?はは、それは志真から聞いたんだよ。


あの夢には続きがあるんだ。また懲りずに日曜日に昼寝をしたんだ。そして夢では、全く同じような事をしていた。けど、今度こそ見れたんだ。


棺の扉の中には、鈴果の死体があった。


ははは、僕達は大人になって忘れていたよね。この事さえも忘れて生きてきた。もしくは、覚えていたけど武勇伝とか若気の至りとでも思っていたのかな?


なぜ君にこの話をしたかって?今から2ヶ月前に志真から電話がかかって来たんだよ。正直、苦手だったから出たくなかったんだけど、向こうからかけてくる事なんかなかったからね。少し気になったのかもしれない。電話をとると、彼は足早に話し始めたんだ。今、僕が君にしている内容と全く同じ話をね。志真はどうやら松坂からこの話をされたらしいんだ。そして彼は僕にこう言ったんだ。


もうあの音を聞きたくない。もう一度、多希と全てをやり直す。松坂から聞いた。他のいじめてた奴らに話せばいいって。


お願いだ、代わってくれ。


そう言うと志真は電話を切った。それからずっと連絡がつかないんだ。松坂も伊瀬もね。僕ももう疲れたんだ。君の事は友達だと思っていたから、こんな事を繰り返したくなかったから、我慢をしていたんだ。 


けど次は僕なんだ。次、死ぬのは僕なんだ。


僕ももうあの音が怖いんだよ。

だからごめん、代わって。














続いてのニュースです。


昨日午前2時半ごろ〇〇町の県道××号で、交差点内を横断していた〇〇町に住む無職の御浜 瀧さん(22)が走ってきた車にはねられました。御浜さんは病院に運ばれましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。車を運転していた男性(52)にケガはありませんでした。警察は当時の詳しい事故の原因を調べています。

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