「起」―世界が交わるとき―
なんか、外伝作っちまいましたw
ああ…。なんて毎日が面倒でつまらないのだろう。もちろん、毎日が全部つまらないわけじゃない。だけれど、一年三六五日の内三二〇日ほどつまらない。高校三年の僕…ことシャム(あだ名だよ)は、勉強が好きの部類に入っている。……というのは、まあウソだけれども。がり勉じゃないし。でも嫌いではなく、それなりに生物などは好きだ。それで、どうしてつまらないかというと、新鮮な出来事をほとんど体験できないからで。
僕は、もし異世界があるのだとしたら、もちろんそこに行ってみたいし、そこに暮らしてみたいとも思っている。でも、地球のどこを探しても、そのような異世界へ移動できる場所なんてない。都市伝説かなんかで、たまにそういうのがあるけれど、僕は都市伝説なんて信じない。信じている人も少ないんじゃないかって僕は思う。
異次元空間というのが存在するだとか、一部の学者さん達がわーわー喚いているのだけれども、どう考えたってあるはずがない。常識人である僕にとってはそれは一種の屈辱だ。ふざけているんじゃないだろうかって思ったりもする。
僕の通っている学校は、西風高校。一年はそれほど荒れていないように見えるけれど、ちょっと前までは二年三年は宴会状態だった。それが、つい最近、ちょー厳しい先生がその宴会に参戦してきたことによって、長年続いていた宴会はやむなくお開きになった。宴会状態が続こうが続かまいが、僕には何の刺激にはならなかったけれども。
つまらないと言えば、僕の後輩で、西車というやつがいる。あいつは、……説明する気が失せるくらい大声を常に(授業中以外)発したりしているので、厄介気周りない。なので、ポテト(名前は忘れた)がいつも西車の爆音を制しているけれど、西車は学ばない。
はあ……。異世界があればいいのにな。この世界にはもう飽きた。
@@@@@change
『―――あとは、魔石のかけらがあれば、この装置が完成するわね』
『ああ、そうだな。だが、残念ながら科学者さんよ。俺の魔石はだめだぞ?』
『ふん、分かってるわよ。もう、…手に入れたわ』
『準備がいいな。それじゃ、この装置にはめればいいんだな。…ええと、この装置の名は何と言ったけか』
『バカね。記憶力なさ過ぎよ。この装置は、WARP010227よ』
『……一般人は、一度聞いただけで、この装置の名を覚えられんぞ。まあ、いい。はめるぞ』
『ええ、どうぞ』
ウィーーン……
『……すごいわ。ぽっかりと穴があいている』
『成功したか』
『でも、まだ危険がある可能性があるわね。誰か、実験台になってくれる人はいるかしら』
『俺はいやだ。……誰か、誘拐してくるか』
『さらりとすごいこと言ったわね。でもまあよろしく』
『すごくも何ともない。なんだって俺は――』
『殺し屋だからな』
『クスッ。いい男』
@@@@@change
トレイコンドという国の中の数々の学校の中には、ラフラン魔術学校という学校がある。その学校は、三年制を取っており、私は、入学してから二年が経つので、二年生だ。
ラフラン魔術学校は、一学年で基本魔術、初級魔術を簡単に習い、二学年でそれをマスターし、三学年では、中級魔術をマスターするという制度をとっている。それゆえに、私の同学年のやつらは、初級魔術を現在習得中だ。
だが、私は違ってた。なぜなら、私は、剣士だからだ。剣士に魔術なんて使用できないので(魔石なんてもっていない)、剣術をただひたすらに磨くことしか、魔術学校ではできない。それなら、剣術学校なんてもんがあるんじゃないかそこに行けばいいだろ、というやつが出てくるかもしれないが、……残念ながら、この世界には、魔術学校しかない。
当然、遠距離攻撃のできる魔術のほうが、剣士よりは、断然、有利だ。剣士は、この国トレイコンドでも数十人しかいない。私もその中の一人であった。
だから、私は誰よりも剣を振るった。振るって振るって、それでもかというくらいに振るった。結果、私は、この魔術学校の中のトップを争うような存在になった。
それはよかった。だが、なぜだか、おまけがついてきた。
「好きですっ」
「…………」
私の目の前には、か弱い女性がいる。それで、突然告白された。
…………。
まず、私について説明しておくとする。
私の名は、ヴィルシアで剣士だ。もちろん女性である。確かに、口調は男みたいだが、……体格は明らかに女性であり、顔立ちも女性だ。別に私に、あんなことしたりする趣味なんてないし、そんな女性と付き合うなんて御免だ。
次に、そうだな……現在所在地について一言で説明しておくとしようか。
教室のど真ん中。いくらなんでも、ここで告白するのは、普通ない。
最後に、周囲の状況について説明しておくとする。
「まただな」「今日で2回目か、ヴィルのやつ」「先越された!?」
これである。
ただし、私はこの出来事に耐性がついていた。一日最低一回、ほぼ毎日のように告白されるのだから、耐性がついていてもおかしくはないだろう。
「はいはーい、皆さん席に座ってくださーい!」
ガラララ、とドアを開ける音と同時に、先生が入ってきた。いいタイミングで入ってきてくれた――
「イヤッホォ~ウ! ビビ先生だぁ~!」「皆拝め~!」「先越されても関係ないわ! ヴィルさん……えとその好きです」
――訳ではなかった。
教室に入ってきた先生は、ビビ・サファイアという名前で、通称『ビビ先生』と教師にも、私たち生徒にも、呼ばれている。容姿はというと、一言でいえば、ボンキュッボン。長く細かく言うと、……いう気失せた。髪の色は、青で、身長は、結構高めな私よりも、小柄なので、平均あたりか……? とにかく、女の私からしても魅力的な『ビビ先生』は、男たちの夢、希望、宝物、その他もろもろだ。
「ヴィルさん、返事まってますっ」
突然告白してきた女性は、嵐が去っていったように、自分の席へと移動していた。
なぜ、私がこのように、女性に好まれるようになったのか、実は私もいまだに理解できていない。おそらく、剣士なのにトップを争っている性だろうが、それじゃあ、男たちはなぜ私に群がってこないんだ? ……わからない。
今のは、私が男に好まれたいとでも言っているかのようだが、一応違うとあらかじめ言っておく。
「まったく……」
私は、そんな独り言を吐いて、席に座った。
@@@@@change
私は、心臓をバクバクさせていた。さっき、あの男勝りなかっこいいヴィルさんに告白してきた。普通の、いつもの私なら絶対にそんなことはしない。できない。でも、絶対に普段ならしないようなことを、私はやり遂げた。なぜなら、それぐらい好きになってしまったから。
「パール~、顔真っ赤だぞ?」
「!?」
いきなり私の名前を呼ばれて、心臓が一瞬破裂して、すぐに再生した。
今の声は、確かリバーの声。ちゃらちゃらした彼は、キングオブシケリストという謎の称号を得ていて、80パーセントの確率で場が白けることを何かしらいう人だ。根はいい人なんだけど、言動が……。
「どうした?赤い果実であるグルーの実の食いすぎか」
「…………はぁ」
また、白けた。
グルーの実を食べたところで、顔が真っ赤になるはずがないし、今は一人にしておいて欲しい。
「あぁー! 今日の朝にヴィルに告白したパールちゃんだー!」
「!?!?」
今度は、心臓が破裂して、それで、パール! 新しい心臓よ! だとか言って心臓が取り換えられた。元気100倍になったわけではない。
「二人とも……今は一人にさせてほしいな」
「「? どうした(の)? なにかあったら、相談にのるけど(よ)」」
二人とも、おみごと。声が重なってる。それに二人とも、私の悩んでいる内容を理解できていない。今朝あんなに目立っていたのに。それでも、私が悩みこんでいる内容がわからないなんて、一種の奇跡だと言えるかもしれない。とりあえず、おめでとう。
「特に何もないからいいよ」
いつもはやさしい性格だといわれている私だが、今はさすがに一人にさせてほしかった。
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僕は、メルキューレ。皆からメルって言われてる。性別は男で、髪はそんなに長くはない。それで、小さい時につけられたあだ名は、若干ヒーロー。もちろん今は呼ばれてない。そのあだ名はすでに消滅した。
ラフラン魔術学校に通っていて、2年生の僕の隣には、小さな女の子がいる。小さいけれど同い年。それでいて、その女の子と僕は、付き合っている。
「ファルさん、宿題やった?」
この学校では、主に二つのことを学習する。ひとつは、技術。まず、実践しないで頭で学習するってこと。もうひとつは、実技。その学習したことを体で理解する。
僕は、実技が得意で、隣にいるツインテールのファルシナは技術が得意だ。ファルに至っては、優等生だと言われているレベルで。僕は、そこまで実技でも技術でも言われたことなんてない。
だから、僕はファルシナに技術方面で出た宿題をやったかファルシナに聞いてるんだ。もちろん、できていたら見せてほしい。
ファルシナは、上目づかい(必然的にそうなってしまう)で、
「さん付けは、やめてほしいって前に言ったです~」
「ああ、ごめん。なんか癖でね……。ファルは宿題やった?」
「やったです~。でも見せないです~」
「えぇっ!? どうして!?」
つい昨日までは、見せてくれていたのに……。なんでだろう。
「それは……、昨日ラサルナ校長に宿題を見せているところを見られて、メルが行った後に、注意されたからです……。だから無理です~」
なるほど。理由把握。
「じゃあ、仕方がない。校長に抗議してくる」
「ま、待つですっ」
「?」
「どうして、そんな回答に至るんです~?」
「え、だって、昨日だけ注意されて、今日は宿題を見せちゃいけないなんてそれはないと思う」
「……です。仕方がないです……。本当は、私の好きなメルに勉強を頑張ってもらいたかったですが、見せるです~」
「いいの? やった! ファルありがと!」
「……ぁぅ、そんなこと言っても無駄です~。いつまでもそれじゃデレないです~」
そんなことを、言っておきながら、ファルの耳はグルーの実のように真っ赤だった。
可愛い。
だけれど、ロリコンじゃないから気をつけてね? ね?
@@@@@change
ここは、いつも通りの古めかしい校長室。
「コホン!」
俺の前方で、校長であるラサルナが座りながら、咳払いをしやがっている。
校長の一つ一つの動作がうざったらしくて仕方がない。校長は、まだ校長になるには早すぎるぐらい若い(21歳だ)のに、杖なんか持っている。なぜ持っているのかと、1か月前に聞いたことがある。その時に、帰ってきた解答が、『校長っぽく見せるためなんじゃ』だった。
校長室は、校長専用のテーブルとイスが隅っこにあり、中央には、校長の銅像が立っていた。
……もう少し、銅像立てる場所考えろよボケ。そう言いたいものの、相手は校長だ。そんなこと言ったら、殺される。だから、俺は毎日のように我慢しているのだ。このやろこのやろこのやろおおおおお!!
「レオ君、手で岩石のように硬そうな拳を作ってどうしたんじゃ?」
「はっ!?な、なな何でもないッ!」
危なかった……。ついつい考えていることが行動に出てしまった。これは、俺の悪い癖だ。はやく、直さなきゃいかんな。
俺は、追及されるのを恐れてわざと話題を変える事にする。
「それにしても……、ラサルナ校長」
「うむ? なんじゃ?」
「その口調をやめてはもらえないだろうか」
なぜやめてほしいなんて言うかわかるだろう。わからない? 理解しなさい、このやろう。
「なんでじゃ。いいじゃろこれで」
この校長、女である。そんな、木下秀○じゃあるまいし、やめてほしい。まったく、おかしい。若い女性が爺言葉使うなんておかしい。おかしくない? 死ね。
「……。おばさんって呼ぶぞ……」
俺は、我慢しきれず小声でそう呟いた。聞こえていないはずだった。あ、過去形な。過去形。
「む。今何と言ったのじゃ? ワシにはおばさ――」
聞こえてしまっていた。
「!? ななな何でもないッ!」
「そうか?まあええ」
ラサルナ校長を怒らすと厄介だ。何せ、20歳で校長の職にたどり着けた神的存在だからだ。普通は、50歳辺りが一般なのだが、こいつは20歳で。30歳も差が開いてるんだ、こええええよ全く。
そして、校長には簡単にはなれない。数々の上級魔術が扱えることが前提で、その中でも上位にランクインされている者が、校長になれるのだ。
……話がずれてきてしまったが、つまりはこういうことだ。校長を怒らすと、首が飛ぶ。本気で。もうおっそろしいぐらいのハイパワーで、気持ちよく吹っ飛ばされ、死ぬ。俺は、屍には、まだなりたくない。
「それにしても、平和じゃのう。レオ君」
俺の名前が呼ばれて、ピシッとして、ラサルナ校長を見た。ラサルナ校長は、こっちを見てた。
自然と視線が合う。ラサルナ校長の鳶色の瞳をまじまじと見ると、なんだか、吸い込まれそうだ。まったく、妖しい校長だぜ。爺言葉を使っていなけりゃ、俺だってその妖しさに騙されていたのかもしれない。
「まあ、平和だな」
俺は、言葉を返した。
@@@@@change
今は、8月に入っても、いまだに気温が30度を上回らない冷夏。
朝、僕は寝ぼけながらも、ジリリリリうるさい目覚まし時計を蹴っ飛ばして壊して、それで、テレビでも見ながら、高校へ行く支度をしていた。
8月何だから夏休みかなんかで学校ないんじゃないの? だとか言うやつがいるかもしれないけれども、残念ながら、僕の学校では夏季講習という意味不明な物がある。でもまあ、涼しいからよしとする。
僕は、高校の支度を終えて、家を飛び出し、早歩きで西風高校へ向かった。
ちなみに、僕はいつも一人で登校している。その理由は実に簡単で、友達付き合いが面倒でたまらないからであって。この世界なんて、飽きた。第一に、つまらない。毎日がほとんど同じことの繰り返し。いったい何なのさ。なんで、ほとんど毎日が同じなのさ……。
その時、僕は気づいてなかった。人家の屋根から僕を狙っている人影がいることに。
その人影は、何かを読み取ったのか、にやりと笑い――
「お前がよさそうだな」
――ジャンプしてきて、僕の腕を取り押さえてきた。
「ッ!?」
いきなりの展開に、僕は頭が真っ白になり、ついていけなくなった。何があったの? どうして、取り押さえられてるの?
しばらく、無理やり暴れたが無駄だった。それで、僕はなぜだか少し安心した。
誘拐されるのかな。……でも、これでどこかに誘拐されるのも悪くないかもね。だって、僕の新しい刺激にはなるし。そんな新しい刺激なんて着たら、僕は気分が高揚して、おかしくなってしまうかもしれないね。でもいいんだ。ちょうど、本気で日常に飽きてきたころだから。
「……」
僕は、しだいに抵抗しなくなっていった。意識が遠のいてきたのだ。それは、何かを酸素と一緒に、吸わされているせいなのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。
……このまま、死ぬのもいいかも。天国ってどんな世界なんだろう。いってみたいなあ。いってみたいよ。いきた―――
そこで、僕は意識を失った。
@@@@@change
「お前の願い……かなえてやるぜ?」
シャム(意思疎通の応用魔術で覗きこんだ)を取り押さえつけて意識を失わさせた俺は、にやりと笑って、ガシッとシャムを掴み、担いだ。
……さっきこいつは、意思疎通を応用した魔術で覗き見たことなんだが、こんなことを考えていたことが判明した。
『この世界なんてつまらない。他の世界があるならばそこに行ってみたい。その世界が少しでも刺激になるなら、そこに行ってみたい』
ふん。ぴったりじゃないか。あの実験には特にな。
……それじゃ、戻るとするか。
俺は、何かを唱え、シャムと共に、その場から消えた。周りに、誰もいなかったので、目撃者は一人もいない……。
誰も、いないその道路の一部の空間が歪んだ。それは、一瞬だった。
@@@@@change
話声が聞こえる。人数にして2人。一人は、僕を誘拐した人の声だった。もう一人のは……、女性の声だけれど誰かはわからない。
僕は、目を閉じていた。気を失っていて、今目が覚めたからそれは仕方がない。
ここは、どこなんだろう?
耳だけを敏感に機能させて、周りの情報を得ようとするけれども、全くわからない。いっそのこと、目を開けて周りを確認しようかな。でもそれじゃあ、目が覚めたことがばれて、何をされるかはわからない。一応、僕は死にたくはないからね。
そりゃあ天国に入ってみたいけれども、最後にしたい。今すぐ行っても、仕方がないことだし、楽しみは最後に残しておきたい。
「目を覚ましたか、小僧」
いきなり声をかけられた。僕は目を閉じて、寝たふりをしているはず。なのに、目が覚めていることがばれてしまった。それでも、僕は目を閉じ、無言のままでいる。
「俺は、魔術で他人の思考を読み取れるんだ。無駄な事をするのはよせ。死にたいか?」
魔術? マジュツって何だろう? 何を言っているんだろう。
魔術なんて意味のわからないものが使えるといった男の笑い声が聞こえた。
「魔術が何だか知りたいか? 知りたいのなら、目を開けろ」
……。どうやら、本当に僕の心の中で思っていることが分かるらしい。超能力者かなにかかは、しらないけれども、ここは従っておいたほうがいいと僕は判断した。
僕は、ゆっくりと目を開ける。視界に男の人の顔が映った。金色の男性にしては少し長めの髪。わずかに、鬚を生やしている。
そして、その男の口が動いた。
「起き上がれ」
これまた僕は指示に従う。なぜかって? そりゃあ、魔術って何のことか知りたいからだよ。そう、魔術というものが刺激になるものの可能性が高いからだよ。もし、魔術という宗教染みた者がこの世に存在するならば、それを死ぬ前にでも確認しておきたいからね。
起き上った僕は、無言で男を睨む。
男は、不意に笑った。
「俺の名前は、ディルバだ。そして、そこにいるのが、伊織。上の名前は忘れた」
なんだか、よくわからない大きな機械の隣に、白衣姿の女性が立っていて、こちらに手を振っていた。
「これから、お前には――」
これからということは、何かをしろと命令されるのだろう。いや、苦痛を味わせてやるっていうのかもしれないな。……どんな言葉が待ち受けているのかな。
「――異世界に行ってもらう」
…………。この男、ディルバの言っている意味がわからなかった。薬物乱用者なのか、それとも、精神異常者なのか。あ、いや、病気かな。
「……いいよ」
僕はあえて、了承した。異世界なんて存在する可能性は皆無なんだけれども、どこに連れられて行くのかなんだか面白そうだ。
「ふん。話が分かる小僧だ。それじゃあ、これを持っておけ」
一枚の紙切れをひょいっと投げられて、落ちる寸前で、僕は慌ててキャッチした。そして、その紙切れに何が書いてあるかを確認してみる。
一通り読んだところで、ディルバが、どこからか持ってきたのか刀……いや、剣を手にしていた。それも、僕に向かって投げる。
僕はそれをキャッチして、頭に疑問符をあげた。
「これは……?」
「魔剣だ。それでお前も魔術が使える。この世界に戻るときは、それを使って、戻ってこい。それと、最低1週間は帰ってくるな。一応言っておくが、これはこの世界で秘密で行われている実験の一つだ。どんなものかは、教えてやらん。自分で考えて勝手に答えを導いてろ」
「どうやって、戻るの?」
「それは、向こうの世界の住民に聞くんだな」
僕は、こくりと頷いた。
どうせ、そんなもの冗談に決まってるし。
「それじゃあ行くわよ。こっちに来なさい」
巨大な機械の近くにいる伊織が、招いてくる。僕とディルバは無言でそちらへ移動する。
「スイッチを押せ」
「ええ」
伊織は、巨大な機械についているレバーを引いた。
ウィーーーン……、という音を立てて、空間に穴が開いた。
「……え?」
目の前で起こったことが多少信じられなかった。僕は、夢でも見ているのだろうか。それとも、目がおかしいのだろうか。何なんだ一体!
ディルバは、僕の背中を思いっきり押した。僕は押されて、ある方向へ吹っ飛ぶ。その方向にあるのは、ぽっかりと開いた穴のみ。
その穴に飛び込むのは嫌ではなかった。ただ、勇気が必要だった。
そして、
僕はその穴に何の迷いもなく飛び込んだ。
決意したんだ。異世界に行くことを。
求めることにしたんだ。刺激を。
行ってみたいんだ。異世界に。
@@@@@
ポチャン、と水が滴り落ちる音が聞こえてきた。それから、僕の額に何か冷たいものが置かれた。
……がさごそと音が聞こえてくる。僕は目を閉じていた。
「うーん……」
女性の声がする。それはなんというか可愛らしい声だった。
…………よし、目を開けてみよう。
何もしないんじゃ何も始まらない。だから、ここがどこかを確認するのにも、僕は目をあけることに決めたんだ。
僕は、目を開けた。僕の視界には、紫髪の16歳ぐらいの少女が、僕の顔を覗き込んで首をかしげているところだった。
「ッ!!」
僕は、呼吸困難に一瞬なりかけた。なななななななななんで、こんな状況になってんの!? だいたいここはどこ!? ……あ、そうか、確か僕は異世界に転送する機械を使われて、それから……だめだ。思い出せない。たぶんその時僕は、気を失ったんだと思う。そうでない限り、記憶がないなんてことありえないし。
紫髪の少女は、僕と目があったのが原因かどうかは、知らないけれど、いきなりバッと僕から離れた。それから、黙ってこっちを見てくる。いや、睨んでいるのかな。
一分経過。
いつまでたっても、少女はこっちをにらみっぱなしだったので、僕はとりあえずあたりを見渡そうとする。が、見渡す必要があまりなかった。ここは、部屋の中で、いろいろと散らかっていた。で、僕はベッドにいて、起き上がった状態。ただそれだけだったから。誰の部屋なのかな。……たぶん、この紫髪の少女の部屋だとは思うけれど、女性がここまで部屋を散らかすものなの? ……細かいことは気にしないでおこう。
二分経過。
本当に、相手の少女が身動き一つすらとらないで、こちらを睨み通しているので、僕は緊張混じりに答えた。
「あの……」
「なによ」
ずいぶんと、冷たい声だった。それはもう近々に冷えているビールぐらいに。
「えと……」
「だから、なによ」
僕の声は若干強張っていた。
「その……」
「早くしろ!」
実は何を言おうか何も考えていなかったため、僕は高速で質問を考え、そして口を開いた。
「ここ、どこ?」
「ふぅ……」
よくわかんないけれど、紫髪の少女は脱力した。なんかまずい質問でもしちゃったのかな?
「ちょっとまってて」
それから、僕の質問に答えずに、紫髪の少女は部屋から出ていった。
一体何だったんだろう。
@@@@@change
校長室の中にて……。
「レオ君、この恰好はどうじゃ?」
「う……」
俺は、赤面していた……。なんだか、よくわかんないがいつの間にか校長の校長による校長のためのコスプ……ファッションショーが開催されていた。校長曰く、最近買い物をチョー大量にして、それでそれが似合うかどうか俺に確かめてほしいらしい。
死ね。ふざけるな。滅びろ! そんなことしたら、俺が出血多量で死ぬじゃねーかあああ!!
だが、もうすでに時遅しだった。校長は、そのコスプ……ファッションショーの準備を三秒で済ませ、俺をイスに縛り付けて、着替えだしていた。
それで、今に至るのだ。
「どうじゃどうじゃ??」
校長は目をきらきらと光らせながら、こっちを覗き込んでいる。
顔が……近い。ヤメテクレヤメテクレヤメテクレ!!
その爺言葉!
その爺言葉さえなけりゃ、俺は俺は俺はあああああああ!!!!あひゃひゃwwwあひゃひゃwww。
……ッ!?しまった。俺が一瞬俺じゃなくなっていた。あ、危ないぜ。
「……普通だ」
俺のその返事を聞くと、校長はむっと顔を鬼のように強張らせて、鞭を持ってきた。
「そうか……。じゃあ――」
「ひぃっ!? じょ、じょーだんだ! ステキ! スバラシイ! カワイイ!!」
とたんに、校長は鞭を放り投げて、再び目をキラキラさせ始めた。
「そうかそうか、やっぱりそうじゃろう!! まったく、レオ君はいいの~。わしのこの姿を独占できて~!」
「ング……」
俺は、顔を背けた。無理だ。これは、自殺できる。自殺する理由になれるぞ。
でもまあ、たまにはこんな日もいいか。そりゃあまあ、毎日これだったら、俺は耐えきれなくなって今頃自ら自分自身の目を目つぶししているがな。
@@@@@change
「えー、何ー?俺が聞かなきゃなんないのー?」「当たり前よ! 私、こういうの苦手なんだから!」ドスッ「ゴフッ!」
僕がベッドに座り込んで、ただただボーっとしていると、男性の声と少女の声が聞こえてきた。こーゆーの苦手? どういうのだろう。
それから、扉の開く音がして、僕の予想通り、男性一名、他一名が入ってくる。
その男性の身長は平均よりやや高く、ぼさぼさの青髪をぼりぼりと掻いて、眠たそうにこちらを見ている。となりで、少女が蹴りをかます。どすっと恐ろしい音が聞こえてきて、男性のほうが、ゴフっと変なうめき声をあげながら倒れこむ。しばらくして、急所を押えながら、男性が立ち上がった。
「あ、あの大丈夫なんですか? その人かなり苦しそうな目をしてるけど」
「ん? あ、平気よ。いつものことだから」
い、いつものこと……。ここなんて地獄?
と、男性が苦しそうな声を上げた。
「そ、そうだ…、大丈夫だ…」
この男性は、少女の奴隷なのだろうか。かなり可哀そうだ。
「ならいいけど。…そういや、さっきの質問に答えてよ」
「あー、そうだったわね。ほら、答えろ!」
少女が男性に命令する。
「う、うぐ…わかったよ」
男性は、了承した。
……本当に奴隷みたいだこの男の人。一体二人はどういう関係なんだろう。
「ここは、俺の部屋だ。あ、俺の名前はまだ言ってなかったな。俺の名前は、スルクア。そんで、隣にいる暴力女は、ネーナ」
「だーれが、暴力女だ、このボケーッ!」
ドスドスドス!!
僕は視線をそらした。み、見てられない! それと、全然話が進まない!
少しして、スルクアが涙目になりながらも口を開いた。
「それで、他になんか聞くことあるか?」
「……じゃあ、どうして僕はここにいるの?」
「そりゃあ、お前がこの国の外で気を失って倒れていたからだよ。ぼろぼろだったな。空から落っこちてきたりしたのか」
「いや、別に」
「ふむう……、よし、お前の名前を教えてくれ」
僕は、考え込んだ。ここで、本名を言って良いのかな。いや、別に言ってもこの人たちは悪人じゃなさそうだからいいのかもしれないけれど、うーん、どうするべきか……。
「早く答えなさいよ!」
ネーナがスルクアの隣で、げんこつを形成しながら、怒鳴ってきた。
……なんだか、面倒くさい人たちだなあ……。あんまり名前教えたくない……。
「僕の名前は……シャム」
でも、面倒くさそうな人たちでも、僕のニックネームぐらいは教えてもいいかな。このニックネーム、気に入ってるやつだし。
何より、そう呼ばれたいし。
スルクアが、手を差し伸べてきた。少し距離があったので、僕はベッドから降りて、手を握り返してみる。
スルクアは、にこりと笑って、
「そうか、よろしくなシャム」
……え、よろしく? どういうこと?
@@@@@
僕は、寝不足だった。というのも、これは全て一週間前のある勘違いから始まったものだ。その勘違いのせいで、僕はこの頃、ほぼ毎日寝不足状態。
どんな勘違いかと言うと、あの時の―――
「そうか、よろしくなシャム」
スルクアはにこりと笑いながら、ぶんぶんと握手をしてきた。正直かなり痛い。まあ、そんなm¥ことよりも、1つ気になることが増えた。
「……ねえ、よろしくって、つまり……んん?」
何に対してのよろしくなのか、僕はいまいち理解できていなかった。
これから、しばらくここに住んでもいいということに対してのよろしくなのかな。それなら、……ここは、僕にとってはいい刺激になる世界だし、しばらくはいようと思う。何と言っても、衣食住だけは、確保できたことになるのだからね。
握手を交わし終え、僕はスルクアから手を放した。
「なんだ、お前まだ学生だろ? 年齢的に」
へえ、この世界にも学生っていうものがあるんだ。でも、それとどうつなげればよろしくになるのだろうか。
「う、うん。まあ」
「だからさー、俺がな、もう何とまあご親切に、この国の学校に入れてやろうってんだよ! お前、空から落っこちてきて、しかも、自分の家が遠いんだろー?」
いつの間にか、僕が空から落っこちてきて、しかも、家が遠いってことになってる。……まあ、間違ってないけど。でも、この人思い込み激しい人だなあ。
僕がしばらく無言だったせいか、スルクアの隣にいるネーナがスルクアの足と足の間を蹴りあげた。
「あんたの勧誘の仕方がおかしいから困ってるじゃないの!」
「ゴフッ」
……スルクアがかわいそうだ。本当に。
それから、ネーナはこっちに向きなおって、ため息か深呼吸かよくわからない呼吸をして、
「あんた、ラフラン魔術学校に入学しなさい」
「……」
「入学しなさい」
「……」
「入学しろ」
「……はい」
僕の心が折れた。仕方がないじゃないか。目の前で、拷問されてる人がいるんだから。
―――というわけで、なんかよくわからないけど、今日、僕は入学するらしい。まあそれはそれで、かなり刺激的でいいんだけれども、……未知の領域に存在する緊張が、僕の心臓を圧迫してくる。心臓病で、早死にしそうだ。
「はあ……」
今、僕は着慣れないこの世界の衣服をまといながら、校門らしき物の前で力無く立っている。どうして、僕は断れなかったんだろ。いやだって言えばいいだけの話なのに……。
というより、途中入学なんてものがあるんだね。初めて知ったよ……。
スルクアとネーナ。彼らは、一体何のつもりなんだろうか。確か、かわいそうだったからだって言ってたような気がするんだけれども、そんな理由だけで、無理やり(?)ここに入学させることなんてないだろうし。もし、本当にかわいそうだったからという理由だけで、この学校に無理やり入学させようとしているのなら、僕は「親か!」って突っ込む。そうしないと、気が済まない。
まあそんなこんなで、僕は微弱な決心をして、前に進むことにした。
「おや、見かけない顔だな」
進むことにしたんだけれども、阻止された。誰だろう。
僕は、首だけ声のした方向に曲げる。真後ろから聞こえたので、首を180度回転してと……できるわけがないので、やっぱり、体も回転させた。
僕の後ろにいたのは、大きな剣を担いだ身長高めの女性だった。とってもとっても強そうだ。
「学年は?」
僕は無言でいた。なんて答えればいいのだろうか。大体、この世界の何も知らない僕が答えられるわけがないよ。
「……もしかしたらなんだが、お前って今日入学してくるという超上級魔術師とうわさされているやつか?」
超上級魔術師? それは、間違っているけれども、今日入学するって言うのはあってる。
「今日入学するのは、そうだけれど……僕は魔術師じゃないよ」
「何言ってるんだお前。その首に下げている魔石を見れば一目で分かるぞ」
「へ?」
長身の女性に言われて、初めて気がついた。ほんとだ、いつの間に魔石をこうペンダントみたいに加工して、装着されている。今まで気がつかなかったのは、そうだ、たぶん寝不足のせいだ。間違いない。
「スルクアさんとこの子だろ? あれほど自慢されれば、いやでも覚える。あ、名をまだ言ってなかったな。私はヴィルだ。これからよろしく。おまえの名は、たしかシャムと聞いたぞ。あってるな?」
「……うん」
ここで、僕の中である程度話が見えてきた。そうか、そういうことだったんだ。
……スルクアとネーナが無理やりこの学校に入学させたのって、僕の魔石が結構強力な魔術とかが使える類の魔石だったから、それで、自慢したくて……。ああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
今すぐ、引き戻りたくなってきた。やだやだやだやだやだやだやだ。なんなんですか! なんという羞恥プレイですかこれは! ……思わず、今思ったことを声に出したくなる。
よし、もう戻ろう。僕はもう戻る。元の僕が住んでいた世界に戻るぞ。あそこは、あれだ。刺激はほぼ皆無なんだけれど、でもその代わりこういった危険性もほぼ皆無だ。そっちのほうがマシ。大マシだ。
「ささ、中に入るぞ。皆が、待ってる」
「え、えええ、えええええ!??」
逃げる隙を与えずに長身の女性は、僕を強引に校内へ引き連れていった。泣きたい。
@@@@@
僕はまず、校長室らしきところ、いや、校長室に連行された。そこで、ラサルナ校長っていう人と、レオっていう人に御挨拶と言う名の儀式を行い、校長室から出て行った。
その時、僕は「よろしくおねがいします」としかいえないまま、ヴィルに強引に次のステージに連れてか行かれたので、相手あいさつなしで終わった。……。これじゃあ、挨拶したとは言えないよね。まあ、いいけれども。
次に、連行されたのは、僕の入るクラスだった。そのクラスは別にどうもし無かったけれども、なんだか、そのクラスの青髪の先生が……ええと、言葉で表わしずらいけれど、んと、えと、そそそそその、出てるところは出てて、引っこんでいるところは引っ込んでて、そそそそその何と言うか、きれいな人だった。……ふう。まあ、これから、こんな若くてきれいな先生と一緒のクラスになるのなら、いい刺激になるのだからいいか。あ、なんか、変態的な意味になっているような気がする。ごめんみんな。今のはなかったことにしておいて!
まあ、そんなこんなで、一通り、いろんなところに顔を出した後、僕は息をふうふうと吐き出しながら、ぐったりとしていて、そんな僕にヴィルは、「具合でも悪くなったのか」なんてことを言ってきた。……よく言うよ。君が僕を振り回してきたからこんなに疲れているんじゃないか。これも、僕の要望も何も聞かずに、勝手にこの学校に僕を入学させたネーナとスルクアのせいなんだけれどね。いや、でも、そこで僕もいやだって言っておけばよかったんだ。……結局は、僕自身のせいじゃないか。
「ねえ、ヴィルさん」
「ん? なんだ?」
夜。校門。もうすぐ夜になるのか、あっという間に辺りが暗くなりだして、気温が下がってきたところで、僕は、隣でミッションはコンプリートした!みたいな顔をしているヴィルに聞いてみた。
「ヴィルさんって、強いの?」
「いきなりだな」
そんなことは言っていたけれども、ヴィルは答えてくれた。
「まあ、この学校の中では、トップを狙えるレベルかな……。ところで、なぜそんなことを聞いてきた?」
「あ、いや、なんとなく」
なるほど……。だからか。納得納得。
……え? 何がかって?
それは、
どうして、ヴィルはこんなにもてるんだろうかって思って。
女子に。
もちろん、ヴィルは女性だ。なのに、こんなにも他の女子にこんなにももてるだなんて、はじめてみた。いつどこでみたかっていうのは、僕がいろいろ挨拶だとかそんなので振り回されている最中にだ。ほかの女子に、「ヴィルさん、好きです! 愛してます!」って4回ほど短時間で言われるというのは、異常。極めて異常。
そこで、僕は、ある推測を立てた。
それは、……この世界では、同性愛が成り立っているということ。もしそれが本当なら、ぎゃあああああああああああなんだけれども、まあ、その、どうしてそんなにもてるのかっていう理由がわかって少しほっとした。
ヴィルは、強いから、もてるんだ。たぶん、そうなんだろう。それしか思い浮かばない。
そこで、僕は改めて、ヴィルの容姿を確認してみる。あくまで確認。別にじろじろ見るというわけではない、安心して。
ヴィルは、赤髪を肩まで伸ばしていて、身長は地球平均の僕より少し高い。明らかに、お姉さん属性が付いていて、背中に剣を背負っている。うーん、わかりやすく言えば、モンスターハンタ○でいう大剣かな。それでいて、男勝りなところもある。……、もてるだろうね。
「なんとなくか。ま、いいとして、」
ヴィルは話を続ける。
「お前は、一人で帰れるな」
そりゃもちろん。帰れなかったら、一緒に帰ってくれるのかな? まあ、それもいいけれども、なんだか恥ずかしいので拒否しておこう。
「あ、まあ、帰れるけど」
「なんだ、つまらないな。送って行ってやろうと思ったのに」
一緒に帰る気満々だった。……拒否しないけれどもね。
「いや、別にいいよ。……それじゃ、僕はこれで帰る。また」
「またな」
そうして、僕はひとりで、歩みだした。
……一番帰りたくもないところに向かって。
@@@@@
「学校どうだった?」
「別に普通だったけど」
「そんな曖昧な解答はよろしくないわね。……良かったか悪かったかどっちかにしろ」
「はぁ……」
僕が返ってくるや否や、ネーナさん(なんだか自分とは格が違うような気がしたから、さん付けしてみた)は、疾風の如く僕に近づいてきて、学校についての感想を求めてきた。いや、請求してきた、という表現のほうが正しいかな。
まあ、それは置いといて、それからの話。
「早く答えなさい!」
「良かった」
「そ……、ま、いいわ。ほら、夕飯を作る準備をしなさい」
ネーナさんは、僕をキッチンらしきところへ連れて行き、刀を僕に手渡してきた。
……これでどうしろと?
「あの、包丁とか、ないの?」
「ホウチウ? 何それ?」
そっか。ここは、異世界だもんね。包丁なんてあるわけないか。でも、刀で野菜を切れとかどのような拷問なのだろうか。新しいね。
ネーナさんは、今度は僕に野菜を押し付け、
「これを切って、炎魔術で、熱を通しておいて」
「あ、はい。わかりました」
おっといけない。敬語を使ってしまった。でも、ネーナさんは、確かに僕より身長は低いんだけれども、僕のほうが小さく見える。だから、思わず敬語を使ってしまう。……仕方がないことなんだね、きっと。
僕は、刀を包丁のように使って、野菜を切った。
ところで、僕は今思ったことを口に出してみることにする。
「そういえば僕、いつの間にか料理作る役になってるんですね」
「あぁん?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「なんでもないなら、ちゃんと調理しなさい」
「はい」
口に出さなきゃよかった、と今更ながらに後悔する。そのうち、僕もスルクアみたいに奴隷扱いされるようになってしまうのかな。それは、やだなあ。
野菜を切ったところで、僕は手が止まった。それを見ていたネーナさんがげんこつを形成する……!?
「……ッ!? ちょ、っと待ってください!!」
「なによ」
「僕、魔術使えないです!!」
それを聞いたネーナさんがにやりと笑った。コノヨトハオモエナイヨウナエガオダッタ。
「うそつけ」
「うそじゃないです」
「うそつけ」
「本当に嘘じゃないんです」
「う・そ・つ・け♪」
「可愛く言っても、結果は変わりませんよ」
と、ネーナさんは脱力して、僕を睨んだ。
睨まれても困る。なんていったって、僕はまだ魔術を使ったことがないのだから。この世界にきて一度も使ってない。というよりも、教わってすらいないので、できるわけがない。断定。
ネーナさんはため息を盛大について、僕から、きれいに切ってある野菜をかっさらい、何かを高速で唱えた。
ボゥッ。
一瞬で、野菜はこんがりキツネ色になり、いいにおいがしてきた。それを、僕に返却してくる。
「ったく、学校で教わってきなさいよね」
「すみませんでした」
……僕と、ネーナさんの関係が怖い先輩とか弱い後輩みたいになってきているのは、きっと、気のせいなんだろうな。
@@@@@
「お! おいしそうな匂いだな!」
ちょうど僕がネーナさんと一緒に夕食を作り終えたところで(実際は、ネーナさんがほとんど作ってた)、スルクアがどこからか帰ってきた。
ひょいっと、スルクアが出来立ての料理をつまみ食いする。
「ゴラァア!! つまみ食いすんなァア!」
「グホゥッ!?」
ネーナ様(敬意を払って)に、スルクアはアウトゾーンホームランされた。それで、口の中の物を吐き出しそうになっているが、ギリギリこらえた。ある意味すごいね。
「……こ、これ、誰が作ったんだ?」
震える声でスルクアが声を発している。可哀そうなんだけれども、世の中どこだって弱肉強食。諦めるしかないよ。
「シャムに作らせようと思ったんだけれど、結局はほとんど私が作っちゃったわ」
「そりゃネーナっ」
「あぁん??」
再び、ホームランが打たれる。スルクアは、一瞬白目になった。けど、すぐ正気に戻る。
「冗談だって。まったく、ツンデレってのは怖いよ」
「誰がツンデレだゴラ」
ベッキィィィィィッッ!!
……僕は目を閉じた。
@@@@@change
謎の研究室の中。
俺は、とある魔術で映像を空間上に映し出している。その空間に映し出されているのは、……シャムといったっけな。ま、まあ、そんなやつだ。シャムは、いや、小僧と言ったほうがいいか、仕切りなおして、小僧は、町人二人と食事をしていた。
「どうやら、衣食住は確保できたみたいね、この子」
俺の隣で、作業服姿の伊織の声がした。
「ああ、学校にまで通わせてもらってやがるよ。……俺とは大違いだ」
「あら、そんなことで嫉妬? 可愛いわね」
「可愛くない」
伊織が、ふふふと小さく笑う。それを俺は軽くスルーして、
「それより、そろそろ作戦を実行するか?」
伊織の笑みが消えた。真面目な表情になる。
「ええ。どうぞご自由に」
「よし」
俺は、自分の首にぶら下がっている骸骨の形をした魔石に意識を集中して、
「異世界へ移動しろ」
魔術を唱えた。
周りの景色が一気に変わった。伊織の姿も無くなり、町……トレイコンドに着いた。
さて、と―――、
始めるとするか。
この作品は、4部構成です
まあ、この作品は、本当に暇だって時に書いてるだけのものですから、更新は不定期ですw
何せ外伝ですしw
でも、一応プロットは作ってあるやつなので、ストーリーは悪くないと思います……(?)
まあ、壱の魔術のほうもよろしくお願いしますw




